『100歳の華麗なる冒険』フェリックス・ハーングレン監督インタビュー:「年齢を重ねた人には素晴らしいストーリーがある」

ハーングレン監督 「ギャップ萌え」という言葉をよく耳にする。“異性が見せる意外性にグッとくる”ことを指す言葉だが、スウェーデン映画『100歳の華麗なる冒険』(11/8公開)も、およそそれと同じ原理で観客を魅了してくれる一風変わったコメディだ。
 映画は主人公アランが100歳の誕生日に老人ホームを逃げ出すところから始まる。日本では「きんさん ぎんさん」という100歳を過ぎても元気な双子姉妹が人気を博した時期があったが、このアラン、何がギャップなのかというと、100歳という言葉から思い浮かべる「ご長寿」や「好々爺」といったイメージからはほど遠い、かなりアブナイ爺さんなのだ。
 ホームを飛び出したアランは、ギャングの手下とひと悶着起こし、その親玉から追われる羽目に。そのドタバタ劇の間に回想シーンが差し挟まれ、彼のこれまでの生涯が明らかにされていく。
 幼い頃から独学で爆発物の知識を身につけるという、やっぱりアブナイ子供だったアランは、その知識を活かして(悪用して?)世界中を飛び回り、歴史上の大事件に無意識のうちに関わっていく。その人生はまさに激動の20世紀史そのもの。そんな具合で伊達に歳をとっていないため、アランはギャングに追われても余裕しゃくしゃく。「ハートウォーミングなお年寄りのおはなし」だと思っていると、100歳老人の予想外のハードボイルド&ブラックな活躍ぶりに、華麗に予想を裏切られてしまうのだ。
 原作は、人口約900万人のスウェーデンで100万部を突破した大ベストセラー小説「窓から逃げた100歳老人」。それゆえ、映画化の出来映えに大きな関心が集まる中、2013年の年の瀬に公開された『100歳の華麗なる冒険』はスウェーデンで『アナと雪の女王』を超える社会現象的大ヒットを記録した。果敢に監督・脚本に挑み大ヒットに導いたのは、スウェーデンでは俳優としても人気を獲得している47歳のフェリックス・ハーングレン。来日したハーングレン監督に、大ヒットの裏側を伺った。


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―まず、この大ベストセラー小説を監督することになった経緯をお聞かせください。

今回一緒にプロデューサーを務めている友人のヘンリック・ヤンソン=シュヴァイツァーから電話があり、「いい本があるから読んでみろ」と言われたのが始まりでした。最初は正直、「100歳の老人が主人公なんて映画にできるのか?」と思ったのですが、最初の10ページを読んで惚れ込んでしまったんです。著者、代理人と数カ月交渉して映画化権を取得したのですが、そこからが大変でしたね。大きな企画だったので資金を集めなければならないし、撮影期間もこれまで経験したことがない長丁場でしたから。

―過去のアランのシーンを先に撮影したそうですね。

100sai_sub42012年の秋に数週間、先にアランの人生のフラッシュバックを撮りました。それから2013年の冬に2~3日、さらに春から夏にかけて数週間という具合で現在のパートを撮ったのですが、こだわった事と言えばバリでのシーンを一番最後に撮ったことですね。アランの過去を先に撮ることで、彼がどういう人間なのか、キャラクター作りに役立てることができました。
私の場合、撮影前のリハーサルの時などに、先に全てのシーンを実演してビデオやiPhoneで映像に撮ってしまうんです。それを完成バージョンと変わらない状態にまで編集して、映画として全体的にどのように見えるのか確かめます。今回は、クランク・インの半年くらい前からそんな映像を撮り始めていたでしょうか。撮影環境は、会議室みたいな場所で車を運転するフリをするだけだったり、もちろん衣裳も違うし、時には実際のキャストではない場合もあります。でも、その段階でこちらが求めているものを表現できない俳優もいて、「これはミスキャストだ」と気がつけたりもするんです。

―この作品で面白いと思ったのは、クレイジーでおかしなことが粛々と、淡々と行われていくところです。スウェーデン人的ユーモアのセンスみたいなものが原作や映画に影響していると思われますか?

なんだか「故郷なき赤子」のようなもので…。もちろん、スウェーデンの国民性は滲んでいるとは思うのですが、実は最初にスウェーデンで上映した時には「インターナショナルな感じで、あまりスウェーデンっぽくないよね」と言われたんです(笑)。でも、海外で上映すると「実にスウェーデンっぽいですね」と言われるので、何と言っていいのかわかりません(笑)。

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―本国で大ヒットした本作ですが、アランのどんなところが受けたのだと思いますか?

権力を持っていようがいまいが、人をみんな平等に扱うところにスウェーデンの観客も魅力を感じたのではと思いますね。それから、大きな期待を抱くわけでもなく、ただ淡々と人生を送っていくという彼の生き方。スウェーデン人の皆がそうではないけれど、多くの人がそんな風に生きたいと思っていのではないでしょうか。あとは、アラン独特のユーモアのセンスだと思います。

―アランはとてもスペシャルな老人ではあるものの、本物の100歳を取材するチャンスもそうそうありませんよね。アラン役のロバート・グスタフソンさんは撮影当時40代後半とお若いですが、どのように演出していったのですか?

動画共有サイトなどで、高齢者の方々の映像をかなりたくさん観て研究しました。もちろん、グスタフソンさんも老人ホームに足繁く通って話し方や動き方をリサーチし、演技に反映させてくれました。

―若くて多方面でご活躍の監督と「老人」というテーマは、実生活ではまだなかなか結びつかない気がします。この作品を撮ったことで、ご自身の老いに対する向き合い方に変化はありましたか?

もう少し若い頃は、早めに引退して、仲の良い友人とゴルフでもしながら、経済的にも余裕のある余生を送りたいというイメージがありました。でも、10年前に離婚を経験した時、誰かに止められない限り、死ぬまで仕事をしようと思ったんです。もちろん、映画作りが楽しいからという理由もあります。
今回『100歳の~』を作ってみて、年齢を重ねた人にはそれぞれ素晴らしいストーリーがあるので、もっと高齢者の話を聞いてみるべきだと改めて思いました。私はもともと好奇心旺盛なほうですが、アランのような年齢になってもそれを失いたくないですね。

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―監督は国民的な人気テレビドラマに出演されているなど、俳優としてもご活躍です。これからも俳優と監督、二足のわらじを履いていく予定ですか?

演技の仕事は続けていくと思います。ただ、私は自分を「俳優」とは言わず、「コメディアン」だと言っています。でないと、ほかの俳優たちに「ちゃんとした演技の勉強もしていないのに」と怒られますから。ただ、演者と監督、どちらかを選べと迫られたら、私は監督業を選びますね。

―監督次回作のご予定は?

6話もののテレビドラマになります。英題は“Torpedoes”(魚雷)といって、そのままの意味のスウェーデン語がタイトルです。ストックホルム郊外に住む2人のヒットマンが主人公で、車のトランクに隠した死体の処理に悩みながら、幼稚園への子供のお迎え当番で言い争う…みたいな、そんな日常を描いたクライム・コメディです。

Profile of Felix Herngren
1967年2月4日生まれ。90年より監督、脚本家、プロデューサー、俳優として活動。これまで100本以上のCMを手がけ、The Gunn Report誌に世界最高のCMディレクター5人のひとりに名を挙げられている。TVでは96年にスタートしたトークショーでブレイクし、2010年には原案、脚本、監督、出演を務めた「Solsidan」が各エピソードで200万人を超える視聴を獲得し、スウェーデンで最も愛されるTVシリーズに。映画では、99年にミカエル・パーシュブラント(『未来を生きる君たちへ』)主演のコメディ「Vuxna människor」で監督・出演デビューを果たす。『100歳の華麗なる冒険』では、スウェーデンのアカデミー賞にあたるゴールデン・ビートル賞で最優秀観客賞を受賞した。


<取材後記>
スウェーデンではとても有名な方だということで、ハーングレン監督が表紙を飾っている本国の雑誌の写真を事前に宣伝スタッフの方からご紹介いただいていた筆者。それがまあ、セクシー&ワイルドなグラビアで思わず瞳孔が開いたが、それと同時に、「すごいハードボイルドなコワい人だったらどうしよう」…などと余計な想像も膨らんた。しかし、いざお会いしてみると、非常にソフトな物腰の気さくでにこやかな方だった。まだ47歳、今後のご活躍にも期待したい。


▼作品情報▼
『100歳の華麗なる冒険』
原題:Hundraåringen som klev ut genom fönstret och försvann
監督・脚本・製作:フェリックス・ハーングレン
出演:ロバート・グスタフソン、イヴァル・ヴィクランデル、ダヴィド・ヴィバーグ、ミア・シュリンゲル、イエンス・フルテン、アラン・フォード
配給:ロングライド
2013年/スウェーデン/115分
(C)NICE FLX PICTURES 2013. All Rights Reserved

11月8日(土)より、新宿ピカデリーほか全国公開
公式HP http://www.100sai-movie.jp/

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  1. 映画感想 * FRAGILE

    100歳の華麗なる冒険/無責任・無邪気・無計画!人生、考えるのなんて無駄よ。

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