【TIFF】遥かなる家:リー・ルイジン監督記者会見

中国少数民族ユグル族に対する思いを語る。

遥かなる家チーム

左からチャン・ミン、ファン・リー リー・ルイジン、リウ・ヨンホン各氏

日本公開時タイトル『僕たちの家(うち)に帰ろう』 
第27回東京国際映画祭コンペティション部門出品作『遥かなる家』の公式記者会見が10月25日行われ、リー・ルイジン監督、撮影監督のリウ・ヨンホン、エグゼクティブ・プロデューサーのファン・リー、ライン・プロデューサーで少年たちのお母さん役のチャン・ミンが出席した。

 この作品は、中国の新疆ウイグル自治区、二人の幼い兄弟が、両親の元へと向かう砂漠の旅の物語いうことで、ほとんどのシーンが二人の子役によって支えられている。演じたのはどのような子供たちか、という問いに対してリー・ルイジン監督は、
「少年たちは、撮影地の農村地帯に住んでいる普通の子供です。ただ、弟の子のほうは、私の最初の長編映画である『白い雲に乗って』という作品、お兄さんのほうは私の短編映画に出てもらっています。ただ制作から随分時間が経っていますので、この撮影に当たっては、もう一度演技のトレーニングをする必要がありました」と答えた。

チャン・ミン

母親役も演じたチャン・ミン

 そしてチャン・ミン氏は、
「撮影前に子供たちと2ヶ月間一緒に暮らしまして、段々と彼らと馴染んでいきました。そうなってから初めて監督が演技の訓練をしたのですよ。やっぱりカメラの前で演技をする時に一番大切なのは、緊張感を無くさせることなのです。今回は自然な演技が必要とされていたのですが、彼らは普段の自分たちの暮らしそのままに演じていたようです」とその苦労を語った。

 本作の主人公となるのは、ユグル族という少数民族。リー・ルイジン監督は、彼らを身近な存在に感じていたようだ。
「ユグル族というのは、元々はウイグル族のひとつで、突厥(とっけつ)語(古代トゥルク語)を話します。大昔に信仰の問題によって枝分かれしていくのです。ユグル族はチベット仏教を信仰し、ウイグル族はイスラム教を信仰するのです。たまたま私の故郷の村の隣にこのユグル族の村がありましたので、非常に彼らのことは身近だったので、それで今回取り上げました。キャスティングについては、なるべくユグル族の言葉を使ってほしいということで、お父さんとお爺さん、子供のうちのお兄さんはユグル族です。なるべく他の子供たちもユグル族の子供を使ったのですけれども、ユグル族の言葉自体が失われつつあるので、子供たちのほとんどはしゃべれないのですね。」

リー・ルイジン

リー・ルイジン監督

 つづいてリー・ルイジン監督は、この作品への思いを切々と語った。
「ユグル族は、9世紀には河西回廊に王国を持つほどの民族だったのです。いわゆる安史の乱(755年から763年にかけて、唐の節度使・安禄山とその部下の史思明及びその子供達によって引き起こされた大規模な反乱)を起こしたのもこの民族なのです。それが現在では、1万4000人しかおりません。しかも文字も無くなってしまった。民族の90%の人が自分たちの言葉をしゃべれない。私が彼らの言葉を教え、私がラクダの乗り方を教えなければいけないという、そういう事態になってしまったことへの思いがありました」

 『遥かなる家』の中国語の原題は『家在水草丰茂的地方』水が豊富で草生い茂る地方の家と、誠に皮肉なタイトルになっている。なぜこのようなタイトルをつけたのか。リー・ルイジン監督はこのことについて
「このタイトルなのですけれども、実はあの場所は、過去には美しい草原で、漢の時代には、皇帝の馬を放牧したという歴史があります。ところが、今の現実は全く違っていて、もはや自分たちの家を探し求めても、それは過去にしかないのだという、そういう意味を込めたタイトルです」と語った。

リウ・ヨンホン

リウ・ヨンホン撮影監督

 この作品では映像がとても重要な要素になっている。兄弟が父親と買い物をする街の風景。荒れ果てた砂漠の風景、その中に異様な姿で佇む廃墟となった街。もうひとつの主役は、こうした風景であると言っても過言ではない。撮影監督のリウ・ヨンホン氏は、どういうところに気をつけて、またどんな思いで撮影をしたのだろうか。
「確かに荒れ果てた砂漠の景色なのですけれども、子供にとっては、やっぱりそれは童話の世界なのですね。なので、最初は色彩も豊かにして、子供の世界を描こうと努めました。でもそこには、子供なりの妬みの感情があり、二人で騙し合ったりしてしまいます。そんな彼らも、自分たちの家を探し求める旅をしていくうちに、現実の世界に直面せざるを得なくなってきます。その過程で二人は和解し、兄弟愛が芽生えてきます。そういう部分が出るように注意して撮影したつもりです」

 この作品のラストシーンは、実は非常に衝撃的である。それについては、エグゼクティブ・プロデューサーのファン・リー氏の意向もあったようだ。
 「中国で現在、非常に工業化が進んでいることに対して、反省というか、観客の皆さんにも考えていただけるものにしたかったのですね。前半が、割とエモーショナルなシーンが多いので、最後にそれを入れることによって、観客に何かを投げかけることが出来るのではないかと、私がサゼッションし、監督がその意見を取り入れてくれました」

 このラストシーンが選択されたことによって、ある意味、中国政府の方針に対して疑問を呈した形にもなっているので、かなり大胆なものであるとも言える。地球規模の環境破壊の問題、少数民族の失われてゆく文化の問題だけでなく、さらにそこまで踏み込んだことについては、エグゼクティブ・プロデューサーのファン・リー氏の英断であったと、称賛されるべきものであると言えよう。



▼作品情報▼
遥かなる家_main原題:RIVER ROAD
監督・脚本:リー・ルイジン
撮影:リウ・ヨンホン
出演:タン・ロン、グオ・ソンタオ
103分 テュルク語、北京語 Color | 2014年 中国 |


【第27回東京国際映画祭】
開催期間:2014年10月23日(木)〜10月31日(金)の9日間
会場:六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋、歌舞伎座など
公式サイト: http://www.tiff-jp.net

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