【TIFF】『黄金時代』(ワールド・フォーカス)

許鞍華(アン・ホイ)監督が挑んだ厄介な女 蕭紅(シャオ・ホン)

©Stellar Mega Films Ltd.

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 『黄金時代』は香港を代表する女性監督 許鞍華(アン・ホイ)が中国の女性作家 蕭紅(シャオ・ホン)の生涯を描いた大作だ。1942年に31歳で夭逝した蕭紅 について、彼女と関わりのあった文学界の著名人たちにカメラ目線で語らせるという実験的なスタイルを採用。故郷の東北から臨終の地・香港まで、中国大陸を縦断する蕭紅の生涯を丁寧に追う。3時間の長尺で、カタルシスやドラマティックな演出はなし。この挑戦的とも言えるスタイルを受け入れられるかどうかで賛否両論分かれるところだ。

 公開中の中国では「否」の意見が多数を占めたようで、興行的に苦戦している。連休による観客動員が見込める「国慶節」(建国記念日)の10月1日に公開日をぶつけたが、興行収入は10月23日時点で製作費7,000万元(約12億3,800万円)の回収には遠く及ばない約5,000万元にとどまっている。恐らく観客を3時間座らせるセールスポイントの設定に苦しんだのだろう。本作を観た後では、そう思う。

 中国では公開に先立ち、“自由と愛に生きた女性”を思わせるキャッチコピーが踊る複数バージョンのポスターで作品をPR。しかし、蕭紅 という女性は厄介で、“自由”というには男なしでは生きられず、“愛に生きた”と謳うには男運がなかった。それは、二度も別の男の子供を妊娠した状態でパートナーを変えているエピソードからも分かる。また蕭紅には、生まれたばかりの我が子を手にかけた疑惑や、魯迅との親密な関係も伝えられているマイナスイメージもつきまとう。そこを逆手に取っていっそ悪女にしてしまえばドラマティックな作品に仕上がったかもしれないが、監督の一人の女性の人生に対峙する誠実な姿勢がそうはさせなかった。映画は、ファジーな部分はファジーなまま、ただ足跡を語ることに終始。周辺の人々の証言によって人物像を立体的に浮かび上がらせることに挑戦しているが、結果として主人公の個性が薄まってしまった。

 とはいえ、映画は観た者の受け取り方次第。興行的失敗を紹介した上で言うのも何だが、筆者は非常に面白く観たと付け加えておきたい。俳優陣はみな好演しているし、なにより伝記として興味深く、中国人よりむしろ、蕭紅について知らない海外の観客の方が楽しめるのではとも思う。賛否両論あるにせよ、特に女性同士議論し合うには興味深い対象の蕭紅。東京国際映画祭では本日27日19時30分からもう一度上映があるので、鑑賞後にあれやこれやと語り合うのも一興ではないだろうか。

 ちなみに、中国で本作と同じ国慶節に公開され、“勝ち組”となったのは、ヒットメーカーの寧浩(ニン・ハオ)監督によるコメディ『心花路放』(原題)と台湾のアクション大作『ハーバー・クライシス<湾岸危機> Black&White 』の続編『痞子英雄:黎明昇起』。『桃(タオ)さんのしあわせ』をヒットさせた許鞍華と、『レイトオータム』『北京ロマンinシアトル』とここ2年主演作の大ヒットが続く湯唯(タン・ウェイ)のタッグで文芸作品ながらヒットを狙って勝負をかけた本作だが、派手な大衆向け娯楽映画に撃沈されてしまった形だ。


監督:許鞍華(アン・ホイ)
出演:湯唯(タン・ウェイ)、馮紹峰(フェン・シャオフェン)、王志文(ワン・チーウェン)
179分 北京語 Color | 2014年 中国=香港 |


【第27回東京国際映画祭】
開催期間:2014年10月23日(木)〜10月31日(金)の9日間
会場:六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋、歌舞伎座など
公式サイト:http://www.tiff-jp.net

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