【TIFF】メルボルン(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

メルボルン監督:ニマ・ジャウィディ
出演:ペイマン・モアディ、ネガル・ジャワヘリアン、マニ・ハギギ

【作品解説】(TIFF公式サイトより)
人生の飛躍となるであろう、数年間に及ぶ予定の海外留学行きの当日。若いカップルが希望に胸を躍らせて旅立ちの支度をしながら、別れを惜しむ訪問客たちの相手をしている最中、事件は起きる。希望の日に突如発生した異常事態に彼らはどう対応するか?
事件発生後の展開が工夫に富んでおり、途絶えることのない緊張感が観客の心臓をわしづかみにする。その脚本の上手さは、アスカー・ファルハディ監督の影響を真っ当に引き継いでいると言えるだろう。特別な日であるが故の特殊な心理と、その果てにとってしまう行動の関係を描いて見事である。ファルハディ作品の常連で、近年のイラン映画の金字塔である『別離』(11)でベルリン映画祭の主演男優賞を受賞しているペイマン・モアディが、自分の取った行動に自分が縛られてしまう若い夫の役を説得力充分に演じている。室内劇であることを見終わるまで忘れてしまうほどの見事な演出が新人監督によるものであるという事実が、現在のイラン映画の充実ぶりを証明している。


【クロスレビュー】

ある事件が起こることによって引き起こされる夫婦の反応。夫は必死に取りつくろい言い訳ばかり考えようとする。妻はまず初めにヒステリーを起こし、冷静になった後はとりあえず正論だけ言う。その男と女の反応の違いが面白い。さしずめイラン版「話を聞かない男、地図が読めない女」。すなわちストレスを受けると、何も考えずに行動を起こす男と、何も考えずにしゃべりだす女。このすれ違いのせいで嘘が嘘を呼び、トラブルが雪だるま式に膨らんでいく。引っ越しの最中ということで、そこに時間的サスペンスが加わるのもいい。ただし作風がアスガー・ファルハディ監督作品に似ていて、二番煎じの感は拭えない。最後のオチはブラックなユーモアが効いているので、次回作は、監督のその資質をもっと生かしてほしい。
(藤澤貞彦/★★★☆☆)

海外へ行く直前、主人公が身動きが取れなくなる状況に陥るというのは、今やイラン映画の十八番なのだろうか。本作もそう。イランの人々にとって我々が考えている以上に、海外へ行くことが簡単なことではない証とも言えるのかもしれない。これでもか!とばかりに若い主人公夫婦が悪い状況へ追い詰められる、畳み掛ける展開は緊迫感があり、見応えはある。だが、ファルハディ作品や昨年TIFFの審査員特別賞『ルールを曲げろ』などを連想させ、どうしても既視感がつきまとう。映画が終わったその後について想像力は掻き立てられ、ラストの彼らの行動を人としていかがなものか・・・と観客を悩ませることだろう。若き監督の才能を感じさせるが、このオチはちょっと策に走り過ぎな感も。ファルハディ風なのに結末は“本家”を超えていたからそう感じたのかも。
(富田優子/★★★☆☆)


91分 ペルシア語 Color | 2014年 イラン |   


【第27回東京国際映画祭】
開催期間:2014年10月23日(木)〜10月31日(金)の9日間
会場:六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋、歌舞伎座など
公式サイト: http://www.tiff-jp.net

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