【TIFF】マイティ・エンジェル(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

マイティ・エンジェル監督:ヴォイテク・スマルゾフスキ
出演:ロベルト・ヴィエンツキェヴィチ、ユリア・キヨフスカ、アダム・ヴォロノヴィチ

【作品解説】(TIFF公式サイトより)
成功を収めている作家が、自分のアルコール依存症体験を語る。自らが収容された施設での他の患者たちのエピソードを交え、底辺でもがく人間たちの心の闇を描くドラマ。
『失われた週末』(45)や『リービング・ラスベガス』(95)など、アルコール依存症と作家(後者は脚本家)を描いた名作は多いが、本作もその系譜に連なる作品である。原作小説はフィクションではあるが、作者は愛飲家で知られ、自身の体験が多少なりとも反映されていると推察される。本作の描写の過激度は突出しており、時に正視が辛いほど露悪的である。しかし、『ダーク・ハウス/暗い家』で09年の東京国際映画祭に参加したスマルゾフスキ監督の映像感覚は冴えを増しており、依存症に陥る過程や、そこから脱しようとする苦しみを描くことで人間の本質に迫ろうとしながらも、映像的なカタルシスを追求する姿勢は徹底している。時制を頻繁に入れ替え、微細に編集を繋ぎ、時間の感覚を失ってしまった劇中の人物たちと同じような感覚に観客を誘う。過激に見えながらも人間の心の脆い部分を丁寧に紡ぎ、愛の力に希望を託しつつ、人間の闇に真正面から向き合い、圧倒的な強度を備えた作家映画である。


【クロスレビュー】
不快指数MAXの映画だ。ところ構わず嘔吐、放尿、セックスなどアルコール依存症の醜態オンパレード、まさに無間地獄。そんなシーンを繰り返し見せつけられるのだから、観客はたまったものではない。もはや「アルコールの過剰摂取は体に毒」というお行儀の良い啓蒙のレベルを超えていて呆れるばかりだ。しかし毒気の強度はすさまじく(嘔吐物の異臭まで漂ってきそう・・・)、主人公たちが「なぜアルコールに依存するのか」という心の闇の深さに戦慄を覚え、スマルゾフスキ監督の映像表現の力量を見せつけられた。一般的な劇場公開は難しい類の映画かもしれないが、東京国際映画祭ならではのセレクションを楽しむための一作であろう。
(富田優子/★★★★★)

アルコール依存症の更生施設入所者たちが披露する酒の失敗エピソードが、「あるある」を通り越し途方もないレベルなのに驚愕。吐瀉物や糞尿などの汚物にまみれて発見されるなどは茶飯事。施設に入所すれば禁断症状の発作に襲われ、退所すれば酒屋に直行してしまう。本作の主人公も施設に入退所を繰り返すスパイラルに陥り苦しんでいるのだが、彼らの面倒を見なければならない家族や社会の側から見れば相当な負担感だ。とは言え彼らを決して突き放しているのではなく愛すべき人々して描き、その苦悩に寄り添った温かさを感じる。お酒は人生を苦しめるものではなく、豊かにするための一助としてほどほどに付き合いたいもの。いたずらに恐怖感を煽る警告より、本作を観た方が効果的かもしれない。
(外山香織/★★★☆☆)

時間の流れ、実際に起きたことなのか、相手が実在しているのか、しまいには自分が誰なのかすらわからなくなる。脳機能が破壊され、行動を制御できなくなって「人生を失う」ことが本当のアルコール中毒なのだ、ということを、いやというほどリアルに見せつけられた。合法で買えるものだからピンとこないが、過剰摂取すれば、酒は、ドラッグと変わらない。なにかから逃避するためのきっかけで無限ループに陥った人たちを、正当化することも責めることもできない辛さ。更生施設から戻った主人公が、今度こそと部屋を掃除しながらウォッカの瓶をあけてしまう姿はやりきれない。お願いだから今度こそきびすを返してくれ…と祈りながら、エンドロールを見送った。(北青山こまり/★★★★★)


2014 © PROFIL FILM, FUNDACJA EDM+, TELEWIZJA POLSKA SA, KRAKOWSKIE BIURO FESTIWALOWE, HBO EUROPE, KINO ŚWIAT, MOJOTRIBE SA
110分 ポーランド語 Color | 2014年 ポーランド |


【第27回東京国際映画祭】
開催期間:2014年10月23日(木)〜10月31日(金)の9日間
会場:六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋、歌舞伎座など
公式サイト: http://www.tiff-jp.net

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