【TIFF】ザ・レッスン/授業の代償(コンペティション)
監督:クリスティナ・グロゼヴァ、ペタル・ヴァルチャノフ
出演:マルギタ・コシェヴァ、イヴァン・ブルヘフ、イヴァン・サヴォフ
【作品解説】(TIFF公式サイトより)
小学校の教室で生徒のお金が盗まれた。担任の女教師は何度も盗んだ生徒に申し出るように促すが、犯人は出てこない。家に帰ると、夫の借金が突然判明し、彼女は返済に追われることになってしまう…。本作は、おカネのモラルを教えている本人が金銭トラブルに巻き込まれていく皮肉な状況を、緊張感たっぷりに描く人間ドラマである。実際の事件から着想を得て作られたという脚本が巧みであり、事態が悪化していく中で、打つ手が全て裏目に出てしまう時の焦燥感が手に取るように伝わってくる。これが長編デビューとは思えないほど、ふたりの監督は映画におけるリアルなサスペンスのあり方を徹底的に研究しており、観客の心を掴んで離さない。女教師の災難のドラマである一方で、経済に支配される現代社会の矛盾という普遍的要素が底流する物語でもあり、世界のどこでリメイクしても通用する内容である。日常に隣接した出来事の意外な展開をリアリズムで描く手腕に長けた、期待の新人コンビの誕生である。
【クロスレビュー】
財布を盗んだ生徒がいることを咎めるものの、犯人探しをすることよりもむしろモラルを教えようとする女性教師が、自らモラルの崩壊を経験する皮肉。財布を盗まれた子のために小学生たちがカンパするお金が1レフ。1レフは日本円にして約70円。1レフのために…思えば『For a Few Dollars More』(夕陽のガンマン)よりもさらに少ないお金。その僅かなお金の不足のために、ここまで人は追い詰められるのか。だらしない夫ゆえに、父親に反対されて祝福されなかった結婚。その意地のために彼女はひとり奮闘し、底なし沼にはまっていく。意地を張れば張るほど、転がるように悪い方に落ちていく。ブルガリアに蔓延する悪徳サラ金業者など社会問題を織り込みつつ描いた、いわば女の意地とお金にまつわる教訓噺。
(藤澤貞彦/★★★☆☆)
今回のコンペティションのラインナップは「追い込まれた人々」がテーマだそうだが、理由はどうあれ「お金がない」経験を一度でもしたことのある人なら、本作が一番ツラいんじゃないだろうか。財布に何も入ってないとわかったときの、あの恐怖と敗北感。はじめの小さな過ちが雪だるま式に大きくなって、取り返しのつかない方向に転がっていく。追い込まれると言うより自分で自分を追い込んでいく主人公を観てるとこちらもイライラしてしまうのだが、それも作戦のうち。観客を巻き込みながら冷徹に主人公を突き放す皮肉なドラマの筋立てが巧妙で、観た後はどっと疲れる。
(外山香織/★★★★☆)
© Abraxas Film Ltd, Graal Films, Little Wing Productions, Screening Emotions
111分 ブルガリア語 Color | 2014年 ブルガリア=ギリシャ |
【第27回東京国際映画祭】
開催期間:2014年10月23日(木)〜10月31日(金)の9日間
会場:六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋、歌舞伎座など
公式サイト: http://www.tiff-jp.net