【TIFF】遥かなる家(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです

日本公開時タイトル『僕たちの家(うち)に帰ろう』

遥かなる家_main【作品解説】(TIFF公式サイトより)
両親が草原で放牧をしているため、兄のバルテルは祖父母のもとで暮らし、弟のアディケルは学校の寮に住んでいる。兄は弟がひいきされていると嫉妬している。夏休みが来るが父が迎えに来ない。親のもとに帰ることを決めた弟は、すねる兄を説得して、ラクダにまたがる・・・。
中国北西部の乾いた大地を行く少年とラクダの魅力が、スクリーンいっぱいに広がるドラマである。辺境の地で素朴に暮らす少数民族にも時代の波が確実に押し寄せる様を、実際に現地の人間を起用しながら描いてゆく。人々の暮らしをリアリズムで描く一方で、夢や不安が交差する少年たちの旅路にはファンタジー風味を加味することで、広がりのある世界が展開していく。兄弟のキャラクター設定がしっかりしているために、冒険を通じた成長のドラマとして見応えがある上に、ラクダにまできちんと演技をつけているユーモアも楽しい。しかしながら、本作の神髄は数を減らしていく少数民族への哀感の情であり、変貌を遂げる大地への痛恨の思いである。大画面に映え、ストレートな感動を味わうことの出来る、映画らしい映画である。


【クロスレビュー】

古くから遊牧民として暮らしてきた新疆ウイグル自治区に住むユグル族。少年が「なぜ家の傍で牧畜ができないの」と問えば「草原が年を取り病気になったからだ」と答える祖父。その生活のために、引き離して育てられざるを得なかった兄弟たちが、両親に会うために、厳しい砂漠の旅をする。両親に捨てられたと思い込む兄と、兄ばかりが優遇されていると思い込む弟の道中の葛藤。だが、それ以上に丘を超えるごとに変わる風景に心が痛む。干上がった河床、かつて栄えた街の廃墟、そして最期を迎えようとしている寺院。まさに今、文化が消えていく瞬間が捉えられている。砂漠がすべてを呑みこんでいくスピードのすさまじさは、中国一国だけの問題ではない。
(藤澤貞彦/★★★★★)

(注意:このレビューにネタばれが含まれています。)
中国の草原地帯を舞台に、わだかまりを抱える幼い兄弟が、放牧中の父親の元へ帰ろうとする旅のなかで成長していく物語を勝手に予想していたが、見事に裏切られた。もちろん、彼らの互いへの不満のぶつけ合いや、心の奥底には流れている愛情などの描写は微笑ましい。だがそれを凌駕する、「何てこったい!」と叫びたくなるラスト。「父なる草原、母なる川」は彼ら家族の遊牧民の誇りだったはず。誇りを捨てさせたのは人の欲なのだろうか。だが急速に発展する中国経済に取り残され、それでも取り残されまいと必死な父親の姿を責めることもできず、我々の心も立ちつくすのみ。中国社会の厳しい現実を突きつけられ、息苦しくなる。
(富田優子/★★★★☆)


監督/脚本/プロデューサー/編集 : リー・ルイジン 出演:タン・ロン、グオ・ソンタオ
103分 テュルク語、北京語 Color | 2014年 中国 |


【第27回東京国際映画祭】
開催期間:2014年10月23日(木)〜10月31日(金)の9日間
会場:六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋、歌舞伎座など
公式サイト:http://www.tiff-jp.net

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