【TIFF】草原の実験(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

草原の実験main【作品解説】(TIFF公式サイトより)
広大な草原地帯。やんちゃな父と美しく優しい娘が、静かで平和な日々を送っている。そんな娘に、ふたりの青年が恋をする。三角関係はやがて、全く意外な方向に進んでいく…。
ほのぼのとした父娘の関係や、その娘とふたりの青年の三角関係といった素朴な物語を、計算し尽くされた構図で切り取っていく鮮烈なビジュアルセンスに圧倒されるドラマ。しかし、終盤に突如叩きつけられるメッセージが、それまでの映画の印象を一変させてしまう。かつてのカザフスタンで実際に起きた出来事に監督がインスパイアされて作られた物語であり、日々の営みを淡々とこなす純朴な人々に訪れる運命を、出来うる限りの愛情を込めて描いている。前作がロシア国内で高い評価を受け、これから充実期に入ろうとする期待の監督による、美しさに満ちたファンタジー的黙示録である。


【クロスレビュー】

当たり前のようにやってくる朝がやってこなかったら?東から朝日が昇り、西に夕日が沈む。太古の時代よりその繰り返しであった自然の摂理が、人間の過ちにより破壊されたら?現代はそんなあり得ないようなことも、もはやあり得る時代になったのかもしれない。そんな痛切な批判を突きつけた作品だ。『トルパン』(第21回東京国際映画祭グランプリ)のような雄大な大地に根を張って逞しく生きる人々の物語かと思いきや、急転直下、その強いメッセージに打ちのめされる。光と影のゆらめき、草原を渡る風を捉えた抒情的な映像や少女(とにかく美人!)の力強い眼差しが印象的だっただけに、悲しい。
(富田優子/★★★★☆)

言葉を排した映画ということで心配だったのだが、案の定、途中で睡魔に襲われた。しかし、よくあるフレーズで申し訳ないが「ラスト5分でひっくり返った」。牧歌的な風景、美少女を巡ってケンカをする男たちの微笑ましい風景が一転。確かにタイトルは「草原の実験」だが、最後にこれをやられてしまったら……どんな物語も灰燼に帰してしまう。そしてこの構造そのものが本作のメッセージだと気づかされる。観ている我々こそが言葉を失う作品。
(外山香織/★★☆☆☆)

劇中、一言も台詞がなく、かといってパントマイムでもなく、それでいて不自然さも無く、ちゃんとストーリーや登場人物の気持ちが伝わってくるという、何とも大胆で不思議な作品。草原の中にポツンと建つ一軒家、地平線に太陽が昇りまた沈む、雷と共に激しい雨が降り、風が吹きすさぶ、その大パノラマ。何で生計を立て、どこから人がやってくるのか皆目見当がつかぬが、ともかく自然と共に父娘が逞しく生きている。自然と人間、そういうテーマの作品かと思いきや、それが突然覆されてしまう。誰がこのようなストーリーを想像出来ようか。強いメッセージが、ストレートに伝わってくる破格の作品である。
(藤澤貞彦/★★★★★)


監督/脚本 : アレクサンドル・コット
出演:エレーナ・アン、ダニーラ・ラッソマーヒン、カリーム・パカチャコーフ、ナリンマン・ベクブラートフーアレシェフ
96分 Color | 2014年 ロシア |
© Igor Tolstunov’s Film Production Company


【第27回東京国際映画祭】
開催期間:2014年10月23日(木)〜10月31日(金)の9日間
会場:六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋、歌舞伎座
公式サイト: http://www.tiff-jp.net

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