【TIFF】アイス・フォレスト(コンペティション)

クロスレビュー

アイス・フォレスト監督/脚本:クラウディオ・ノーチェ
出演:エミール・クストリッツァ、クセニア・ラパポルト、アドリアーノ・ジャンニーニ、ドメニコ・ディエーレ

【作品解説】

(TIFF公式サイトより)
厳しい雪景色に覆われたアルプスを背景に展開する、サスペンスフルな人間ドラマ。
監督のクラウディオ・ノーチェは短編で評価を固めた後に、初長編監督作”Good Morning, Aman”(09)でいきなり人気俳優のヴァレリア・マスタンドレアを主演に迎え、将来を有望視される監督に躍り出ている。長編2作目となる本作では、イタリア北部の国境近くの村を舞台に、スケールの大きい心理サスペンスが展開するが、現代のヨーロッパが直面する根深い社会問題への意識は、デビュー作から共通しているものである。有名監督であるエミール・クストリッツァを主演のひとりに迎えたことが興味を惹くが、その風貌のハマリ具合もさることながら、旧ユーゴ出身であるクストリツァの出自が作品に深い意味をもたらしていることに注目したい。

【あらすじ】

イタリア北部。停電が続発する村の電力発電所に派遣された技師は、閉鎖的なコミュニティーの不穏な空気に接し、やがて村が隠す謎に巻き込まれていく…。


【クロスレビュー】

藤澤貞彦:★★★★☆

スロベニアとイタリアの国境にある水力発電所を舞台にしたミステリー。ユーゴスラビアの崩壊による難民の流出、その20年後、金融危機、経済格差の拡大による絶えることのない不法移民の問題。ヨーロッパの終わることのない人々の悲劇、ボスニア人、スロベニア人、イタリア人、それぞれの思いがこの小さな街に交差する。闇に蠢く男たちの欲望は、獲物を狙う狼のようでさえあり、とても不気味だ。女刑事が何を捜査しているのかが、途中までわかりにくいのが難点だが、白く閉ざされた発電所周辺の街の閉塞感、その白い雪に流される赤い血、どこまでも奥深くに続く発電所の地下室など、不安感を高める視覚効果、雪深い暗闇に道を疾走する、雪上バキーカーから鳴り響くラテンメロディーの物悲しさなど、映画的な魅力はある。そして何より、巨匠エミール・クストリッツァの俳優としての存在感が圧倒的で、驚かされた。

北青山こまり:★★★☆☆

山肌と枝々を覆う白い雪、薄暗い発電所、軋むロープウェイ…村そのものが隠し事をしているような重苦しさが、画面から滲み出てくる。冒頭、深夜の橋の上で、列になって国境を超えてくる人々とそれを取り仕切る男たちの場面を見れば、のちになにが起こり得るかだいたいは予想がつくはずなのに、物語が進むにつれ人間関係のバランスは刻々と変化して、最後まで不安を煽られた。修理技師ピエトロ(ドメニコ・ディエーレ)の大きな瞳に宿る暗い光が印象的。謎の男セコンド(エミール・クストリッツァ)の最後の表情は諦めだったのか、後悔だったのか、贖罪だったのか。もう1度見て、確かめたい。


© ASCENT FILM
107分 イタリア語 Color | 2014年 イタリア |


【第27回東京国際映画祭】
開催期間:2014年10月23日(木)〜10月31日(金)の9日間
会場:六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋、歌舞伎座など
公式サイト: http://www.tiff-jp.net

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