【TIFF】マルセイユ・コネクション:舞台挨拶
1970年代に南仏で起きた事件を再現し、不屈の判事 VS 麻薬組織の攻防を描いた『マルセイユ・コネクション』。原題の”La French”とは実在の麻薬取引ルートで、その存在と逸話は人々を惹きつけてやまない。これまでも映画や小説などで語られてきたが、その最新版となる本作を手がけたのは、実際に彼らを間近で見ながら育ったマルセイユ出身のセドリック・ジメネス監督。二枚看板のジャン・デュジャルダンとジル・ルルーシュによる因縁の対決(とフェロモン合戦)が見どころになっている。アジアン・プレミアとなる今回の上映に合わせ、ジメネス監督とジルが来日。この日を心待ちにしていたファンの前に姿を現し、映画祭に華を添えた。
——映画とともに日本に来ることができるなんて、本当にクール!
ジメネス監督は長編2作目となる本作で初来日し、「映画とともに来れるなんて、本当にクール!」と満足げな様子。一方のジルは毎年のように出演作が日本で公開されていながら、意外にも本人の来日は今回が初めて。「ボンジュール、トーキョー!」と大きく手を振りながら、上映後の会場に姿をみせた。子供の頃から日本に来ることを夢見ていたというジルは、記者会見で「東京は『ブレードランナー』のような近代的な街だと想像していたけど、本当にそうだと感じました。“ユーフォリック”で、快楽を感じるようなワクワクする街。多くの監督が東京で映画を撮りたいという気持ちがわかるし、フランスが中世のように思えます(笑)」と、初来日の印象を語った。
——スコセッシ監督の「ギャングスターになることを夢見てきた」というセリフを思い出し、出演を決意
撮影の動機について、ジメネス監督は「父の経営するナイトクラブが(麻薬組織のボスである)ザンパたちの集まる場所の隣にあり、ずっとこの物語を語りたいと思っていた」と話す。一方、ザンパ役のオファーを受けたジルは、「シナリオの人物像には善悪を超えた魅力があり、ワクワクするとともに怖れも感じた」と振り返る。他の俳優によって演じられた名悪役のコピーになってしまわないかと不安を覚えたそうだが、マーティン・スコセッシ監督の「ギャングスターになることを夢見てきた」という台詞を思い出し、出演を決意したという。実在した人物を演じるにあたり、「ザンパの家族や友人だけでなく判事や刑事などできる限りの人に会い、カリカチュア(誇張)にならないように、美化しすぎないように真実を演じることを心がけた」とのこと。とくに彼の家族に対して、辛い経験をさらに辛くしないよう気をつかったようだ。
——俳優を突き動かす力は、怖れからくるのではないか
現代フレンチ・ノワールに欠かせない存在のジルだが、これまでの出演作から「愛する妻と家族を救うため、命がけで走り続ける」というような印象が強い。そんな彼が本作では麻薬組織のボスを演じ、「もっとも恐ろしくて興奮したのが、同僚に無理やり大量のコカインを飲ませる場面」だったと振り返る。ゾッとするような狂気と緊張に満ちたシーンで、俳優ジル・ルルーシュのこれまでのイメージを覆す、キャリアの上でも重要なシーンとなるだろう。「複雑な場面で、怖れと同時に興奮する感情を抱いた。キャリアを積むにしたがい、怖ろしいと感じるものに惹かれるようになっているが、俳優を突き動かす力というのは、そういった怖れからくるのではないかと思う」。
——ジャンとの対決で「心理カウンセラーに相談しなければならないような状態」に?!
ザンパと因縁の対決を繰り広げる判事を演じたのは、『アーティスト』のジャン・デュジャルダン。華やかな存在感と天才的な演技勘をもつ、フランスを代表する俳優だ。実際のジルとジャンは友人同士で、大人のコメディ『プレイヤー』でも息のピッタリ合った掛け合いを披露している。共演は今回で3度目。二人が直接対峙する丘の上のシーンは、映画史上に残る名場面となったのではないだろうか。
「あの対立のシーンは二人に面識がなければ簡単だったかもしれないけれど、逆に功を奏したところもあると思う。マジックのような不思議な感じがした。6〜7年ほど親交を温めている友人だけど、一緒に撮影する8時間だけはお互い顔も見せない、話もしないといった断絶状態に。その後、心理カウンセラーに相談しなければならないような状態になりました(笑)」と、冗談を交じえながら映画のハイライトを振り返った。
またジャンとの共演について、「素晴らしい才能をもった人と共演できるのは本当にラッキーなこと。一緒に仕事をすることで自分自身も高みへと引き上げられていくわけですから」と、その関係性にとても満足している様子だった。
——70年代ルックで「毎日きちんと髭を剃るのは大変でした(笑)」
「ジャン・デュジャルダンって、ここまでイイ男だったっけ?」と思わせるほど、当時のファッションを身に包んだ俳優陣がキマっている。そのセクシーな着こなしについて、ジメネス監督は「ビジュアルはとてもこだわったポイントで、ジルにもキレイに髭を剃り、髪もオールバックにしてもらうことを要求した」という。ザンパ本人も健康と見た目には気を配っており、アルコールもタバコもやらず、ファッションも非の打ちどころがなかったそう。ジルは「(毎日髭を剃るのは)とても大変でした」と本音を漏らすも、監督の要求にきっちり対応。髭だけでなく、チャームポイント(?)の胸毛までキレイに処理し、程よく鍛えた身体で撮影に臨んでいる。マルセイユが舞台というのもあって、プールや海でのシーン(と水着姿)がとても印象的。「これがフレンチ・ノワールだ!」と言わんばかりに、主演二人のフェロモンが濃厚な作品に仕上がっている。
監督/脚本:セドリック・ジメネス
出演:ジャン・デュジャルダン、ジル・ルルーシュ、セリーヌ・サレット、メラニー・ドゥーティ、ブノワ・マジメル
製作:135分/フランス語/2014年/フランス=ベルギー
© LEGENDE FILMS, GAUMONT, FRANCE 2 CINEMA, SCOPE PICTURES
【第27回東京国際映画祭】
開催期間:2014年10月23日(木)〜10月31日(金)の9日間
会場:六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋、歌舞伎座など
公式サイト: http://www.tiff-jp.net