【TIFF】紙の月(コンペティション)
【作品解説】(TIFF公式サイトより)
平凡な主婦が起こした巨額横領事件。何不自由のない生活を送っていたはずの彼女に、何が起きたのか。原作・角田光代、監督・吉田大八、主演・宮沢りえ。心を揺るがす衝撃のヒューマン・サスペンス。
【物語】
バブル崩壊直後の1994年。夫とふたり暮らしの主婦・梅澤梨花は、銀行の契約社員として外回りの仕事をしている。細やかな気配りや丁寧な仕事ぶりで顧客からの信頼も得て、上司からの評価も高い。何不自由のない生活を送っているように見えた梨花だったが、自分への関心の薄い夫との間には、空虚感が漂いはじめていた。そんなある日、梨花は年下の大学生、光太と出会う。光太と過ごすうちに、ふと顧客の預金に手をつけてしまう梨花。最初はたった1万円を借りただけだったが、その日から彼女の金銭感覚と日常が少しずつ歪み出し、暴走をはじめる。
【クロスレビュー】
原作には登場しないヒロインの職場の同僚たちを登場させることで、横領事件がよりサスペンスフルに描かれ、緊迫感を増すことに貢献している。特に若い同僚役・大島優子の「ありがち感」は無邪気であると同時に悪意を孕んでいるようにも受け取れ、ヒロインの心を翻弄する。だが何より圧倒的なのは、宮沢りえの横顔だ。ここまで美しく凄味のある横顔はそう滅多にお目にかかれない。彼女の「したいことをした」と言い切れる、ある種の開き直りの強さに一般的なモラルが狂わされそうになるくらいの迫力がある。悪いことをしているという後ろめたさを上回る、「したいことをして」堕ちていく疾走感が無邪気なほどヒロインの思いと共鳴し、多幸感に溢れている。
(富田優子/★★★★★)
英題がpale moonと知りなるほどと思った。貫かれてるのは「薄っぺらさ」。他人の言葉をコピペしてさも自分の言葉のように語る主人公の、人としての胡散臭さ、お金なんて所詮紙切れという感覚、他人の信頼を簡単に裏切り嘘を重ねられる軽薄さ。そして彼女の表情に罪の意識はなく、挿入される子ども時代のエピソードがそれを裏打ちする。人を見極めるのにお金の価値観が重要だと言うけれど、その意味では『お金のやり取りで変わってしまう』ことを知っていた年下の恋人の方がまともだ。平凡な主婦が転落していくと言うよりも、もともと何かが欠落している人間の物語のように私には思えた。
(外山香織/★★★★☆)
監督:吉田大八
出演:宮沢りえ、池松壮亮、小林聡美、大島優子、田辺誠一、近藤芳正、石橋蓮司
126分 日本語 Color | 2014年 日本 | 配給:松竹株式会社
©2014「紙の月」製作委員会
【第27回東京国際映画祭】
開催期間:2014年10月23日(木)〜10月31日(金)の9日間
会場:六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋、歌舞伎座など
公式サイト: http://www.tiff-jp.net