ファーナス/訣別の朝
終始何かが起こるのではないかという不安と、労働者の日常への絶望で、観ていて暗澹たる気持ちにさせられる映画だ。しかし、登場人物すべてが各人各様の生き様を見せる事によって、目が離せない魅力的な映画になっているとも思う。不思議に引き寄せられてしまう映画だ。
時はオバマが大統領になる前の選挙を行っている頃。ペンシルベニア州の製鉄所で働くラッセル・ベイル(クリスチャン・ベイル)は、年老いた父とイラク戦争帰りで心に傷を負う弟のロドニー(ケイシー・アフレック)に苦労しながらも、恋人のリナ(ゾーイ・サルダナ)と愛を育み幸せな生活を営んでいた。しかし、ロドニーが競馬で借りた金を返すために貸し手のジョン・ペティ(ウィレム・デフォー)の所へ行った帰りに衝突事故を起こしてしまい刑務所へ。刑期を終えて出所してみれば、父は亡くなり恋人は去り弟はストリートファイトで日銭を稼ぐ荒れた生活をしていた。そしてある夜の出来事を境に、ラッセルの運命は思わぬ方向に転がり出してゆく・・・。
この映画は、まるでブルース・スプリングスティーンが唄う労働者の歌の様なストーリーだ。人生に期待したが裏切られ失望した労働者、ベトナム戦争の傷を負った帰還兵、家族や恋人との関係に疲れた男・・・。スプリングスティーンが唄った当時の状況と、今のアメリカのいったい何が違うのだろうか。労働者の苦しさは今も変わらずにある。オバマ大統領誕生に歓喜した労働者は失望し、イラク戦争の傷を負った帰還兵がいて、先の見えない苦しさは昔以上かもしれない。そう考えると、この映画こそが昔から変わらぬ本当のアメリカを映し出した映画なのかもしれないと思う。
ただ、この映画に出てくる登場人物たちはそういう今の状況に絶望しながらも生きる事に懸命だ。真面目に働くラッセルも、ヤバい稼ぎに手を出すロドニーも、彼らなりに今の状況を何とかしようとしたり問題を解決しようとしたりして、懸命にもがいている。悪の限りをつくすデグロート(ウディ・ハレルソン)や保安官のウェズリー(フォレスト・ウィテカー)やラッセルの父の面倒を見る叔父のレッド(サム・シェパード)も生きる事に懸命という意味では同じだ。終始暗い内容の映画なのに引き寄せられてしまうのは、その一点が貫かれているからではないだろうか。
この映画、クライムドラマというジャンルに区分けされる映画なのだろうが、その一言で片づけたくはない。労働者の変わらぬ状況、帰還兵の心の苦しみ、様々な犯罪と犯罪者。そんな人達を描く事でアメリカの在り様への批判も含まれている、深みのある作品である。
▼作品情報▼
監督:スコット・クーパー
出演:クリスチャン・ベイル、ウディ・ハレルソン、ケイシー・アフレック、フォレスト・ウィテカー、ウィレム・デフォー、ゾーイ・サルダナ、サム・シェパード他
2014年9月27日(土)より新宿ピカデリー他全国にて公開
公式サイト:http://furnace-movie.jp/
(c)2013 Furnace Films, LLC All Rights Reserved
2014年9月29日
ファーナス/訣別の朝/この国はもう、頼りにならない
ファーナス/訣別の朝OUT OF THE FURNACE/監督:スコット・クーパー/2013年/アメリカ アメリカン・ドリームなんてない。それでも、アメリカで生きていくしかない 8月前半に試写で鑑賞。公開は9月27日です。 試写状が届いた時にはこの映画の存在を知らず、クリスチャン・ベイル、ケイシー・アフレック、ウディ・ハレルソン、フォレスト・ウィテカー、ウィレム・デフォー、サム・シェパードってなんだこの豪華キャストは! しかも製作にレオナルド・ディカプリオとリドリー・スコットとな? と思いまして、ど…