フランスで今最も注目される実力派俳優ギヨーム・ガリエンヌにインタビュー:監督・脚本・主演作『不機嫌なママにメルシィ!』で伝える「ありのまま」の良さ

Guillaume Gallienne 今年のセザール賞で5部門(作品・主演男優・脚色・編集・第1回作品)を制し、フランスで大ヒットした『不機嫌なママにメルシィ!』が今週末27日(土)より公開される。監督・脚本・主演を務めたのは、本作で一躍国民的スターになったギヨーム・ガリエンヌ。フランスを代表する国立劇団コメディ・フランセーズの正規団員で、この夏公開された『イヴ・サンローラン』でも、イヴの公私にわたるパートナー、ピエール・ベルジェ役で深みのある演技を見せた実力派だ。
 自伝的作品の本作では“ママに女の子のように育てられた”という実体験を描き、セクシャリティを模索する思春期~青春期の自分自身と、なんと“ママ”の二役を演じている。厳しくも美しい母に憧れるあまり、話し方から立ち居振る舞いまで完璧にママを真似していくギヨーム。そんな過去の自分を面白おかしく再現してしまうガリエンヌの表現力は絶品で、笑わせつつも、一人の人間が辿る数奇な人生のドラマに観客を誘い、感動の余韻を残してくれる監督としての手腕にも舌を巻く。
 そんな今フランス映画界で最も注目を集める俳優が映画公開に先駆けて来日。“ギヨームとママ”、ピエール・ベルジェと、性別を超えてまったく異なるキャラクターを演じ分けるその素顔は、優しい笑顔が印象的な素敵な“ムッシュ”。母親との関係について、演技について、さらにプライベートについて、ユーモアを交えて語ってくれた。


不機嫌なママにメルシィ! サブ4
―本作ではギヨームとママの関係性がコミカルに描かれていますが、実は“母の呪縛”やその存在の大きさに大変苦しんでこられたのだと拝見して感じました。この作品は先に舞台として大ヒットしましたが、製作の裏には、ある種セルフセラピー的な意味もあったのでしょうか?

この作品を作るより以前に、僕は長い間ずっと精神分析を受けてきました。もう問題は解決しましたが、高い診療費をつぎ込んだので、この映画でちょっとお金を回収しようと思ったんです(笑)。

―やはりすごい葛藤を抱えてらしたんですね。

(その種の葛藤が)無い人なんていますか?だからこそ、多くの観客が感動してくれたのではないでしょうか。ティーンエイジャーの頃は誰もが抱えている葛藤ですが、いずれ解放されないと。僕はこの映画を撮る随分前にちゃんと解放されましたから大丈夫です。なので、この作品はセルフセラピーではないですね。これは“俳優の誕生物語”なんです。僕は母親を“体現”することで演じることを知りましたから。
僕が影響を受けた作家にプルーストがいます。プルーストはまさに母の呪縛を感じていた作家で、だからこそ素晴らしい超大作を生み出すことが出来た。なので、僕自身はそういう葛藤をむしろプラスだと感じています。あまりにも平凡で生ぬるい環境にいるよりは、個性の強い両親に育てられたことをラッキーだったと思っています。もちろん、そうした葛藤に傷つかずに大人になる人もいれば、傷を負いながら大人になる人もいますよね。僕には幸いお芝居もありましたし、良い人々に囲まれたので、ああいう家庭に育ったことへの恨みは全くありません。

―近ごろは日本でも母の呪縛で悩む女性が増えており、改めて母親との関係を結び直せるかどうかもがいています。ガリエンヌさんが本作の戯曲を書かれたのは30代半ば。まさに悩める女性たちの多くと同じ世代で、既に葛藤を乗り越えて、その葛藤の種でもあった母親を自分で演じてしまうなんて素晴らしいと思います。

不機嫌なママにメルシィ メイン一人二役を演じることで、僕自身、役者としては救われている部分があるんです。というのも、やはり僕の中には二重人格性が少しあって、この映画のように二役を演じているから、それを乗り越えられている。普通の人生ではダメになっていたかもしれません。実際の僕は心身ともに健康だけど、映画や舞台でピエール・ベルジェのような葛藤の多い人物や悲劇的な人物を演じてお金を貰っているのですから、とってもトレビアンだと思いますね。

―本作を観ていると、ガリエンヌさんはまさに俳優になるべくして育ってきたようにも感じるのですが、実際、俳優という仕事を「いいな」と思い始めたのはいつ頃なのですか?

19歳の時に従姉妹が突然亡くなってからですね(映画の冒頭に彼女の写真とメッセージが映る)。ひょっとしたら明日死ぬかも知れないということを実感して、こんなにも短い人生なら、僕には複数の人生が必要だと思ったんです。それまでは俳優というものに興味もなかったですね。ブルジョワの環境で育ちましたから、俳優になるなんて考えられないことでした。

―幼い頃から母親や魅力的な女性たちを真似てこられたので、てっきり…。

“体現”していたのです。“模倣”ではありません。母はココで(ヘソのあたりを押さえながら)生きていたんです。母は僕が最初に体現した人物ですが、母だけではなく、僕が素晴らしいと感じ、感動させてくれる、そうした女性たちをお腹で感じて体現する。そういう資質があるのです。

―それは俳優としても生かされる資質ではないですか?

切り離せないものではありますが、同時に役との出会いもありますよね。これまでの作品は、オファーがあったときに、役やストーリーに対して共感や感動を覚えることが多かったんです。キャラクターでも、設定でも、ストーリーでも、全然ピンとこない作品は受けないこともあります。その一方で、そんなに共感できるとは思わなかったのに、すごく感動したという作品もあります。

―本作もそうですし、全く違うタイプの役柄ですが『イヴ・サンローラン』でも身のこなしがとてもエレガントでした。生来のものもあるでしょうが、ガリエンヌさんの役作りは形から先に入ることもあるのでしょうか?それとも、内面から入るほうですか?

不機嫌なママにメルシィ! サブ1ウィ!世阿弥の言う“花”(観客を感動させる舞台上の魅力)です。これは魂と同意語ですね。
僕は役を演じるとき、内側から入ります。もし外面的に何か取り入れるとすれば、観客が「ああ、こういう人なんだ」と見て理解するための“記号”としてプラスになる場合ですね。僕が大切にしているのは、内側からその役柄の気持ちを感じ取り、体現すること。本当に成りきれば、外面的なものは付け加える必要はないので、僕はできるだけ“記号”を削って演じたいと思っています。

―今のお答えを聞く前、実は、人からあまり女らしくないと言われることがあるので、どうやったらガリエンヌさんや“ママ”のようにエレガントな身のこなしができるのかアドバイスを仰ごうと思っていたのですが、お話を聞いて分かりました。やはり内面が大事なんですね(笑)。

そう?誰に女らしくないなんて言われるの?

―友人や家族から…性格的なことなのかもしれません。

とても女らしいと思いますよ。仮にあなたが女らしくなかったとして、それのどこに問題があるの?僕は男っぽくなかったですよ(笑)。

―確かに。

それは“出会い”の問題で、僕は今の妻に出会ったときに男らしくなりました(笑)。
この映画はまさに、「ありのままでいいんだ」「女らしさ、男らしさなんて関係ないんだ」ということを語っている作品です。(と、おもむろにレリゴ~♪と一節口ずさむガリエンヌさん)
精神分析なら今の相談で50ユーロだね。高いんですよ(笑)。

【ガリエンヌさんMemo】
フランスで今大人気のギヨーム・ガリエンヌ。日本ではまだ得られる情報が少ない彼の私生活をチラリ。

帽子は来日初日に代官山で購入したそう。差し色の赤いシューズは、ある意味、期待通り?!

帽子は来日初日に代官山で購入したそう。差し色の赤いシューズは、ある意味、期待通り?!

★最近観た映画で好きな作品は?
何を観たかなぁ。いろいろ観てるんだけど…ちょっと分からないな。古い作品だとジョセフ・L・マンキーウィッツの『イヴの総て』(50)は好きな映画のひとつ。あと、『アパートの鍵貸します』(60)とか、ビリー・ワイルダーの作品も大好き。

★朝食の定番メニューは?
あまり食べないんだ。デカフェを飲むだけ。両親たち家族と一緒に住んでいた頃はすごく過激な家政婦がいて、朝から叫んだりわめいたりうるさくて、僕は四人兄弟だけど、誰一人食欲が湧かなくなって、四人ともまともな朝食を食べなくなった。でも、海外に行ったときは家政婦がいないからちゃんと食べていたよ。

★では、好きな食べ物は?
日本料理は大好き。パリでもよく日本料理店に行くよ。フランスのガストロノミーな料理も好きだし、インド料理もタイ料理も、食べることなら何でも好き。不味いもの食べたなぁ…っていう時は機嫌が悪くなる(笑)。

★お気に入りのファッションを教えてください
日本の洋服が大好きで、今日着てるインディゴシャツも日本のもの。日本人のルック、素材を大切にしているところ、ちょっとアンシンメトリーな感じも好きなんです。

Profile of Guillaume Gallienne
1972年2月8日、パリ近郊生まれ。実業家の父とロシア系グルジア人で貴族の血をひく母のもと、四人兄弟の三男として育つ。身体が弱かったギヨームだけは母親に過保護に育てられ、そんな母親に憧れ、女の子のように育つ。英国で寄宿舎生活を送ったあと、フランスに戻り、従姉妹の死をきっかけに演技の道へ。2005年よりコメディ・フランセーズの正規団員として数々の舞台に立つ。その後、活躍の舞台を映画にも広げ、『モンテーニュ通りのカフェ』(06)、『オーケストラ!』(09)、『マリー・アントワネット』(06)などで好演。08年、子供時代を題材に自作自演した舞台「不機嫌なママにメルシィ!」が評判を呼び、すぐれた演劇人に贈られるモリエール賞を獲得。13年に自ら映画化し、大ヒットとなった。交友関係の広さも有名で、バレエ界の大御所シルヴィー・ギエム、『愛、アムール』にもゲスト出演した気鋭のピアニストのアレクサンドル・タロー、能楽師・九世観世銕之丞 らと親交を結ぶ。





▼作品情報▼
『不機嫌なママにメルシィ!』
原題:Les garcons et Guillaume, a table!(意味:男の子たちとギヨーム、ご飯ですよ!)
監督・脚本・主演:ギヨーム・ガリエンヌ
出演:アンドレ・マルコン、フランソワーズ・ファビアン、ダイアン・クルーガー、レダ・カテブ
配給:セテラ・インターナショナル
2013年/フランス・ベルギー合作映画/87分
(C)2013 LGM FILMS, RECTANGLE PRODUCTIONS, DON’T BE SHY PRODUCTIONS, GAUMONT, FRANCE 3 CINEMA, NEXUS FACTORY AND UFILM

9月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
公式HP http://www.cetera.co.jp/merci/

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