テロ,ライブ
(映画の結末に触れています。これから鑑賞される方はご注意ください)
自身の不祥事によりテレビ局を追われた国民的人気キャスターのユン・ヨンファ(ハ・ジョンウ)は、ラジオの生放送中に爆弾予告の電話を受ける。イタズラと思い真面目に取り合わなかったヨンファだが、数分後に漢江にかかる麻甫大橋の爆破が起こり、局の独占スクープとして扱えると判断。自身がキャスターに返り咲くことを条件に上司に掛け合い、テロリストとの応酬をTV生放送で敢行する。
リアルタイムで進行するテロ。キーファー・サザーランド主演のドラマ「24」のような感じ? と思って観てみたらとんでもない、何とも刺激的な意欲作だ。監督は本作が商業デビュー作となる1980年生まれのキム・ビョンウ。「24」のスタイルとの決定的な違いは、主人公ヨンファとカメラをスタジオから出さず、我々観る側があくまでヨンファと共に時間を共有していく「一蓮托生型」である点だろう。それゆえ我々も、ヨンファと同じようにスタジオに入れ代わり立ち代わり入ってくる人物、TVモニター、電話などを介して入ってくる情報しか知りえない。さらにヨンファがスタジオから出られないのは、テロリストによりイヤフォンに小型爆弾が仕組まれているためで、主人公は命を賭してこの局面を乗り越えなければならないと言う仕掛けである。
こういった場合、我々が一蓮托生する主人公に感情移入できるかという点が重要なわけだが、ここが巧い。
冒頭のラジオ放送のシーンでは、髪もボサボサでセーター姿と言う出で立ちのヨンファだが、独占スクープにできると判断するやいなや、上司に電話で取引を持ちかけながら身づくろいを始める。髭をそり、ネクタイを締め、すばやく髪を整える。そう、それは彼がキャスター時代に繰り返してきた戦闘準備なのだ。一方で別れた妻(同局の記者)に電話を掛け、もう一度やり直さないかとメッセージを残す。冴えない表情が一転、一世一代の好機と捉え大逆転を目論む顔になるのである。地に落ちたエリートがこの先どうなるのか、華々しく成功を収めるのか再びどん底に落ちるのかを見てみたくなるのだ。
そして、橋の爆破からわずか15分後に始まるTVの生放送。もちろんヨンファとテロリストとの対峙は独占スクープだ。建設作業員のパクと名乗るテロリストは、2年前の麻甫大橋工事の事故によって命を落とした仲間への謝罪を大統領に要求。国会議事堂にいる大統領なら、ヨンファのTV局まで徒歩3分とかからないはずだと詰め寄る。しかし政府はテロリストの要求には応じようとしない。犯人の特定に手間取る当局。視聴率を取りたいTV局の思惑。次々と起こる爆破、市民の犠牲。随所に設けられるタイムリミット。野心と、プロとしてのプライドと、人間としての良心を揺さぶられ、自身の生命の危機により追い込まれていくヨンファ。間髪与えず次々と起こるショッキングな事態の展開に、観ている我々も主人公と同じジェットコースターに乗って乱高下していく。
また、刻々と変化していく彼の心情を、限られた場所での動作と表情で示すハ・ジョンウの演技が文字通り鬼気迫っている。加えて、主人公の身辺に配備されたツール……ペン、メモ用紙、電話、ペットボトル飲料(ラベルに「男」と書いてある!?)、いわば彼の武器になるわけだが、それらの使い方も非常に計算されている。
しかし本作はただ主人公と一緒にハラハラドキドキして終わるだけではない。醍醐味はその結末、終わり方にある。誰がこんなラストを予想しただろうか。「一言謝るのがそんなに難しいのか?」とヨンファに漏らすテロリスト。倒れゆくビルの先にあるのは国会議事堂ではないだろうか? 政府への圧倒的な不信感。「テロには屈しない」と言うスローガンの下に散っていく命。熾烈な競争と格差社会の歪み。自分だけ助かろう、汚いことをしてのし上がろうとする者への嫌悪感。犠牲になるのはいつも善良な市民。否応なく、我々は今年4月に起こった「セウォル号事件」を思い出してしまう。本作が本国で公開されたのは事件の前だが、事前に鑑賞していた韓国の人々はどんな心情に陥っただろうか……。何ともやりきれない思いが満ちる。
こんな社会は間違っている、と喉元に切先を突き付けるような『テロ,ライブ』。こういう作品が作られる時代が幸なのか不幸なのかはわからないが、映画界にとっては間違いなく「幸」だと言える。キム・ビョンウ監督の今後を期待したい。
▼作品情報▼
監督・脚本:キム・ビョンウ
出演:ハ・ジョンウ『ベルリンファイル』、イ・ギョンヨン『新しき世界』、チョン・ヘジン『アンティーク ~西洋骨董洋菓子店~』
配給:ミッドシップ、ツイン/提供:ツイン、ミッドシップ/
英題:THE TERROR, LIVE
2013年/韓国/98分/カラー/ビスタサイズ
公式HP http://terror-live.com/
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