『グレート デイズ!-夢に挑んだ父と子-』ニルス・タヴェルニエ監督インタビュー

タヴェルニエ監督  スイム3.8km、バイク180kmの後に、42.195kmのフルマラソンをこなすアイアンマンレース。この過酷極まりないレースに、17歳の車いすの少年とその父親が挑む。父子はなぜ、こんな無謀ともいえる挑戦を仕掛けたのか――。フランス映画『グレート デイズ!-夢に挑んだ父と子-』は、アヌシー地方のアルプスの山々やレースが行われる海岸コート・ダ・ジュールなどフランスの美しい風景をバックに、障がいのある子供を持つある家族が、アイアンマンレースへの挑戦を通して再び強い絆を結びなおしていく様子を生き生きと描き出す。
 作品が持つ前向きなエネルギーが絶賛され、本国で大ヒットを記録。日本でも8月29日に公開初日を迎える。監督は、2001年にドキュメンタリー映画『エトワール』が日本でもヒットしたニルス・タヴェルニエ。公開より一足早く本作がお披露目された「フランス映画祭2014」にあわせて来日したタヴェルニエ監督に、お話をうかがった。


―この映画を作ったきっかけは?

 映画作りにおいては、色々な要素が絡まりあって繋がっていくので、直接「これがきっかけ」というものが存在するとは思っていません。これまで私が作ってきた作品は、『エトワール』(01)や『オーロラ』(06)のようにダンスを取り上げたものもありましたが、およそ8割が子供に焦点を当てたものでした。なかでも社会における子供たちの立場、とりわけ困難を抱えている子供たちに焦点を当ててきました。この映画を作る前に、ちょうど2年間フランスのある小児病院の神経内科を取材する機会があったんです。その取材を通して、障がいを抱えた人たちの家族や子供たちに出会い、長編映画を作りたいという想いが湧いてきました。

―車いすの少年ジュリアンを演じたファビアン・エローさん自身も障がいを持つ青年です。プロの俳優を使わず、実際に障がいを持った彼を起用した理由は?

main 障がいを持っていても人間は多くのことが出来るということを見せたかったので、障がいのない人の起用はまず考えられなかった。いずれにしてもフランスには、18歳の俳優で、それほどキャリアがある人もほとんどいません。
 障がいのない子供では、3歳半から7歳くらいまでの間に自分の感情をコントロールする機能が脳の中で形成されていきます。しかしファビアンの場合は、知能に障がいはないものの、は、小さい頃から感情をうまくコントロールすることができないのです。例えば、彼に対して「大好き」という愛情を全面に出してしまうと、逆に彼は気持ちをコントロールできずに不安定になってしまうし、音にも非常に敏感です。ファビアンは、自分がそうした問題を抱えていることをちゃんと認識しています。社会のしきたりも理解したうえで、時々上手くコントロールできないこともあります。そうした問題を何とかしようとする彼の気持ちを使いたかったのです。

―ジュリアン役を探すため、170ヵ所もの施設を回られたそうですね。

 私は20年にわたり、人と違うという困難を抱えた子供たちと出会ってきました。そこからさまざまなエネルギーをもらうことで、人間として、また芸術的にも形成されてきたと思っています。もちろん施設には寂しげな人もいれば明るい人もいますが、私は謙虚でありながらも前向きになろうとしている彼らのエネルギーを感じとっています。

―ファビアンさんとの出会いについて聞かせてください。

 オーディションでは候補者から動画を送ってもらったのですが、ファビアンの動画は若者が好むヒドい音楽のBGMをバックに、学校の芝生の上を車いすで走りながら泥を飛ばしてゲラゲラ笑っているというもので、すごく印象的でした。そして、実際会うことになりました。3週間カメラテストなどをした上で、本人に4ヵ月演技のトレーニングを受ける意志があるかどうか確認して決まったんです。

―ファビアンさん自身のキャラクターを役柄やセリフに反映させた部分は?

 ファビアンはすごく真似をするのが上手いので、私が演技をして見せたら、すぐに真似してやってくれました。
 ファビアン自身のキャラクターとして持ち合わせていなかったのが“怒り”という部分なのですが、映画ではそれも表現しなければいけません。そこは演技指導でクリアしていきました。ファビアンは実生活で自動車免許を取得できなかった経験があったので、その時の怒りを父親にぶつけてみろと言いました。これまで経験した思いを演技にぶつけろと指導したのです。

―ファビアンさんを起用したことで、予想外のケミストリーは起きましたか?

 ファビアンは嘘のない忠実な人間で、とても人から好かれる子でした。ファビアンがいると現場の雰囲気がとても良くなるんです。1つサプライズだったのは、撮影2日目にして既に素晴らしい俳優になっていたことです。

―アイアンマンレースのシーンはとても迫力がありました。競技に挑む父親役のジャック・ガンブランさんのリアリティある演技も素晴らしい。撮影時の様子を教えてください。
 
sub4  どの作品においても素晴らしい役者であるガンブランについては安心して任せていました。また、ガンブラン自身がすごいスポーツマンなので、既にこの役を演じる素質は持っていたといえます。彼の素晴らしいところは、セリフがなくても目線で感情を表現できるとことです。

―先ほど、これまで撮った作品の8割は子供に焦点を当てているとおっしゃいましたが、何かきっかけはあるのですか?

 これは母親から言われたことなのですが、私は5歳の時から赤ちゃんに興味を持っていたそうです。男に生まれたことは嬉しいですが、自分が実際に妊娠して子供を産めないのは残念だと思っています。
 私は世の中を理解するときに、子供の置かれた状況に焦点を当てると一番語りやすいと思っています。子供というのは、どういった環境に生まれるかで社会との結びつきが決まる。その後受けていく教育もまた、その子がリンクしている社会が反映されたものになると考えています。

―最初こそ障がいを持った少年の話という意識でこの映画を観始めたのですが、そのうち両親の仲をより良くしたいと頑張る息子の物語という捉え方に変わっていきました。

 私は普段から、親や社会が子供の希望を聞いてあげるというのは素晴らしいことで、反対にその子がやりたいということを否定するのは良くないと思っています。過度なプレッシャーをかけられすぎて、じっくり考える時間も与えられずに周囲にのせられた子供は、いざ失敗すると、自分はダメな人間なんだという風に感じ、すごく大きな失敗としてその子のなかに残ってしまう。
 母親であれ、父親であれ、それは分かってはいるのですが、つい、もっと子供に大きくなってほしいと願ってしまう。私自身も親として、そのバランスはとても難しいと思っています。より早く子供に学んでほしい、早く成功してほしいとついついプレッシャーをかけながらも、振り返ってみると、「ああ、自分もミスをしてきたな」と思うのです。
 この映画はまさにそういうことを語っています。父親が息子の言うことに耳を傾けることで、自分自身も変わり、成長していく物語なのです。

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Profile of Nils Tavernier
1965年フランス・パリ生まれ。77年、父ベルトラン・タヴェルニエ監督の『Des enfants gâtés』で俳優デビュー。『女ともだち』(83)、『パッション・ベアトリス』(87)、『主婦マリーがしたこと』(88)、『恋の掟』(89)、『L.627』(92)、『ソフィー・マルソーの三銃士』(94)などに出演。その後、短編やドキュメンタリーの監督として活躍。2001年、パリ・オペラ座のバレエダンサーたちの情熱を追いかけたドキュメンタリー『エトワール』が日本でもヒット。06年に初のフィクション映画『オーロラ』を手がけた後は、TVのドキュメンタリー作品などを監督している。


▼作品情報▼
『グレート デイズ!-夢に挑んだ父と子-』
原題:De toutes nos forces
監督・脚本:ニルス・タヴェルニエ
出演:ジャック・ガンブラン、アレクサンドラ・ラミー、ファビアン・エロー、ソフィー・ド・フルスト、パブロ・パウリー、グザビエ・マチュー
配給:ギャガ
2014年/フランス/90分
(C)2014 NORD-OUEST FILMS PATHE RHONE-ALPES CINEMA

8月29日(金)よりTOHOシネマズ 日本橋、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
公式HP http://greatdays.gaga.ne.jp/

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