プロミスト・ランド
脚本兼主演のマット・デイモンとガス・ヴァン・サント監督が3度目のタッグを組んで挑んだ意欲作。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)のコンビが、アメリカのエネルギー問題を背景にした作品で、ふたたび世界を驚かせる。
エネルギー資源の確保と環境保全の葛藤は、日本も含めて世界が直面している最重要課題だ。この映画でも、アメリカの田舎町を舞台にシェールガス採掘の賛否をめぐって、双方の支持者が激しく対立していく。この地方の小さな町において、エネルギー開発は経済再生の救世主となるのか、それとも、代々受け継いできた豊かな土地を破壊する死神となるのか。対立のなかで、開発の裏に隠された人間の野心と苦悩が浮き彫りになっていく。
マット・デイモンが演じるのは、大手エネルギー会社の幹部候補。「シェールガスの採掘によって、地方の経済が救われる」と信じている彼は、低収入にあえぐ農場主たちと採掘権の契約を結ぶ仕事にやりがいを感じている。しかし、ある田舎町で予期せぬ事態に見舞われる。採掘による環境被害を訴える化学教師と、突然町に乗り込んできた環境活動家によって、人々の心が反採掘に傾きはじめたのだ。不利な状況をなんとか立て直そうと画策していたところ、彼は図らずも、仕事への信念を根本から覆されるような衝撃の真実を知ることになる。
順風満帆な人生を歩んできた主人公が生き方に疑問を抱き、身の振り方を考えるというストーリーは型通りといえるし、かつてジュリア・ロバーツが演じた『エリン・ブロコビッチ』のように企業から史上最高額の和解金を勝ち取るというような痛快なドラマでもない。
ただそれだけに、ラストに起こる衝撃は効果的で、この騒動の裏にある真実に心底驚かされる。本作はエネルギー開発そのものを否定しているわけではないし、議論の余地も残している。だけど、「許されないのは開発そのものではなく、隠蔽だ」というスタンスは明確で、その論法もじつに鮮やかだ。そのカラクリをここで説明するわけにはいかないが、理想を声高に主張しつづけるのではなく、一瞬にして観る者の心に深いインパクトを与える脚本と演出の手腕に唸らされてしまった。
経済回復のために採掘に同意する人々と、環境保護の観点から採掘に反対する人々の、両者の立場からエネルギー産業をみつめているという点においても、今の日本人の心にリアルに迫ってくるものがあるのではないだろうか。
8月22日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー!
出演:マット・デイモン、ジョン・クラシンスキー、フランシス・マクドーマンド、ハル・ホルブルック
監督:ガス・ヴァン・サント
脚本:ジョン・クラシンスキー、マット・デイモン
原作:デイヴ・エッガース
原題:PROMISED LAND/2012/アメリカ/106分
(c) 2012 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
配給:キノフィルムズ
宣伝協力:スキップ
WWW.PROMISED-LAND.JP