イーダ

ポーランドの戦後の複雑さを描く傑作

メインモノクロでシンプルな80分の映画に、第二次大戦後のポーランドが抱える複雑な思いが内包されている。絶叫型ではなく淡々と語られる罪のやるせなさが、深く静かに心に響く映画だ。

時は1962年のポーランド。戦争孤児として修道院で育てられ、間もなく修道女になろうとするアンナは、院長から「実はあなたは孤児ではなく叔母がいる」と聞かされ、修道女になる前に一度会う様勧められる。そこで叔母のヴァンダに会いに行ったアンナは、「実はあなたはユダヤ人で本名はイーダ」と告げられる。イーダ(アンナ)はヴァンダに「両親のお墓へ行きたい」と頼んたが、ヴァンダは「大戦中にナチスから迫害されたユダヤ人であるが故にお墓はなく遺骨もない」と説明。そこで二人は両親が住んでいた家に行き両親の手がかりを探す事になり、現在そこに住んでいる家族に当時の両親の事を尋ねたが、どうも歯切れが悪い答えしか返ってこず、いろいろ調べるうちにイーダとヴァンダは驚愕の事実を知る事になる・・・。

イーダという何も知らない無垢な女性を通して、ポーランド人とユダヤ人それぞれが第二次大戦で背負った、言葉にするのもはばかられる様な事実が明らかになる。ポーランド人はソ連とドイツという大国に挟まれ蹂躙された被害者でありながら、ドイツ占領下においてはユダヤ人虐殺に加担した加害者でもあるという事実。ユダヤ人は迫害を受け殺された被害者でありながら、叔母のヴァンダの様に戦後のポーランド人に対して過酷な判決を下した加害者でもあるという事実。

お互いに触れたくない過去を再び見つめなければいけなくなった双方の立場に胸が痛む。他者からの断罪ではなく、自ら罪を認めそれを誰からも断罪されず引きずりながら何年も生きていかなければならない事の方がどれだけ苦しいか。そこはもう反省も後悔もしているのだから触れないでおこうと双方は思っている。しかし、そこにイーダが現れた事で、何も知らないこの子に伝えなければいけない、この子になら伝えられるという気持ちになる。そこの描写がとてもうまく、良心的な映画になっている事がこの映画の素晴らしいところだ。

片方の立場から物事を見ただけでは分からない事がある。それをラストのイーダは物言わず我々に伝えてくれる。修道院だけで生きてきて、ただこのまま修道女になって良いはずがない。それではもう一方の事は分からないままだ。そう考えた時に初めて、例え今後何者になろうとも自分の意思で進む事が必要だという自身の経験としたのであろう。決して、当時の時勢におもねり間違いを犯したポーランド人の家族や叔母のヴァンダの様になってはいけないのだと。

この映画は、おそらく双方の立場から批判も受けるだろうと思う。しかし、立場が違う双方の存在や思いを理解しなければいけないという、今に生きる人にとって大事な姿勢を教えてくれる。それを観やすく観客に提示した優れた映画といえるだろう。

▼作品情報▼
監督:パヴェウ・パヴリコフスキ
出演:アガタ・クレシャ、アガタ・チュシェブホフスカ、ダヴィド・オグロドニク、イェジ・トレラ、アダム・シシュコフスキ他
2014年8月2日(土)よりシアターイメージフォーラム他全国にて公開
公式サイト:http://mermaidfilms.co.jp/ida/

ⓒPhoenix Film Investments and Opus Film

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