『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』大友啓史監督インタビュー:“アクションが凄い”では終わらせない、上がり続けるハードルに挑む
2012年夏に公開された『るろうに剣心』は“事件”だった。生身の俳優が本気で剣をあわせてぶつかり合うアクションに、日本映画でもここまで出来るのかと、新たな歴史の幕開けを誰もが実感したに違いない。
この日本発のスーパーアクション時代劇は世界64ヵ国で配給され、アジアを中心に大ヒットを記録。とりわけフィリピンでは公開からわずか3日間で日本映画の歴代興行収入記録を塗り替えるなど、熱狂的に迎えられた。
1作目の成功を受け、原作シリーズの中でも最も人気の高い「京都編」で続編の製作が始動。シリーズ完結となる二部作『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』となり、今夏再び劇場を賑わせている。当然、内容、興行成績ともに“前作越え”のノルマが課せられことになるわけだが、この難題に挑みメガホンを取ったのは、もちろん前作に引き続き大友啓史監督だ。『~京都大火編』のPR活動と『~伝説の最期編』の編集作業で多忙な最中の大友監督にお話をうかがった。
‐‐プロデューサーのお話によると、もともと「京都編」の製作を目標としつつの『るろうに剣心』であり、“続編もいける”という手ごたえは前作の途中で感じたということでした。大友監督としてはどのあたりから続編製作を意識されていたのでしょう?
やはり前作の公開後、海外の熱狂的なリアクションをみて「いける」という感じになりましたね。「るろうに剣心」というコンテンツはすごく可能性があるんだなって、改めて思いました。1990年代全盛期の「少年ジャンプ」の代表作だし、本当に世界中に熱狂的なファンが多い。海外に出て行きやすいキャラクターの「ONE PIECE」と違い、日本の時代劇、歴史モノで世界に広がっているというのは、やはりすごいことだと思うんですね。その国特有の時代劇や歴史モノって、文化の違う国ではなかなか受け入れられませんからね、それが意外にするっと(受け入れられた)。やはりサムライというキャラクターは強いんですね。それで僕の中では、「これで京都編をやったらまた大騒ぎになるかな」という感覚になっていきました。
もちろん、三部作でという入り口で始めてはいましたが、実際『~京都大火編』を観ていただくと分かるように、自分の作品ならではのクオリティーに引き上げるには「しんどいな、これ」って(笑)。志々雄真実(ししお・まこと)のビジュアルひとつとってもそうですし、色々と高いハードルが多すぎる。大丈夫かなというところと、やっぱり京都編はやりたいよねっていう気持ちとでゆらゆらしながら、でも、待っていてくれる人がいるのは日本だけじゃないんだなという思いもあって、ちょっとずつ前向きになっていきましたね。
‐‐今回は二部作で30億円の製作費をかけていますね。
やっぱりかかるんですよ、「京都編」は。前回はこじんまりと神谷道場を守る話にいろんな事がからまっていくという展開だったのでシンプルだった。それが今回は、剣心が新しい時代を守るという話ですからね。しかも(巨大戦艦の)「煉獄」みたいなものまで登場させなきゃいけない。この企画を考えると、「煉獄どうするんですか?」って話から始まりますよ、普通(笑)。でも、その辺を一つ一つ、現場のある種の勢いで製作サイドに「ここまでのものが出来ます」「このぐらいのクオリティのものが出来ます」とプレゼンテーションしながら納得してもらい、作っていったという感じですね。
‐‐前作で監督は「アクション一点突破」という話をされていましたが、今作はより物語が複雑化しています。アクションとストーリー性のバランスをとるのは難しかったのでは?
それはほんとにすごく難しくて。前回の時はこの手のアクションってなかったので、初めて観るものって鮮度が高いんですよね。だからそこのアクションの凄さで一点突破できるっていう判断でやっていたんですけど、今回はそれぞれの登場人物の感情がうねり始めます。志々雄の剣心に対する感情、剣心の志々雄に対する感情。1作目で出来上がっている仲間たちとの感情もそうだし、隠密御庭番衆もそう。それぞれがちゃんとしたドラマ上の感情とモチベーションを持って動くという構造になっているんです。
明治になって士農工商が崩れ、侍という地位が失われて自分たちの拠り所がなくなった人たちですから。どこか時代に置いてけぼりをくった人たちが(登場人物の)メインなんです。ということは、幸せな時代に適合して生きていく人たちよりも、当然いろんな感情を持っていますよね。「なぜこんな時代になってしまったのか」「なぜ俺たちはこんな目に遭っているんだという」という、時代というものに対するそれぞれの内面が複雑になってきている。大きく時代の価値観が動くときって、そこに上手く乗ってしまえる人とそうじゃない人が生まれるじゃないですか。そこを描いている映画なので、感情がどうしたって高まりますよね。
前回は剣心にとって、かつて自分が清里を殺めたときの巴の悲鳴が人を斬らないモチベーションだったけど、今回は、志々雄によって巴と同じような慟哭が何千にも何万にもなってしまうかもしれないということをリアルに想像していく。国のためや何かのためという大義名分で動くのではなく、自分が過去に何よりも心を痛めた慟哭をこれ以上増やしたくないっていう思いで動いていきますから、ドラマの構造もスケールも大きくなるし深くなります。
アクションについては谷垣健治もいるし、うちのアクションチームもいるので、その面白さや凄さは十分担保がとれている。ただ、アクション部はアクション部で前回と同じものじゃダメだって僕はお願いしました。「さらに上に行こうよ」って、全員がそういう気持ちになったら間違いなく凄いものができる。ただ、そこに感情がのらないと、アクションがインフレを起こしてしまう。“凄い”だけで終わらせないためには、観客がちゃんと戦う理由に共鳴し、誰かになったつもりでハラハラできるかがすごく大事なんですね。役者それぞれが戦いのモチベーションと、戦いに至る経緯と、どういう思いを積み重ねて剣を合わせているかというところを理解して、演技としてアクションをする。そこを皆がんばってやっていますね。
‐‐監督のお話のとおり、それぞれの壮絶な戦いのシーンでは、「なぜこの人といま戦っているのか」という想いが伝わってきます。伊勢谷友介さん演じる蒼紫(あおし)なども、ずっとある執念を引きずったままのキャラクターですね。
蒼紫なんか現代にその辺歩いてたら危なっかしくてしょうがないよ、「早く110番しろ!」みたいな(笑)。
でも、翁(田中泯)とのシーンでは、蒼紫は相手を蔑むような目で見ながら、ここ(目頭)にちゃんと情が見えるんですよ。そのへんは“伊勢谷オリジナル”だと思うんです。伊勢谷君ならではの絶妙なバランス感とエモーション、ストイックさで演じてくれている。クールな蒼紫がボロッボロッと簡単に(情を)見せたんじゃ恥ずかしい。蒼紫じゃなくなるんですよ。だから、そういうことを役者が一人一人ちゃんとやってるんですよね。『るろうに剣心』はエッジの効いた作り方をしているし、どうしても派手なところに目がいくんですけど、繰り返し見るほど発見があって、感情移入や感動するポイントが変わってくると思います。何回も視聴に耐えるようなつくりをしているし、ディテールまで読み取れなくても、中学生でも単純に面白いって思えるつくりはしてるんだけど、逆に大人でも必ず感情移入できてグッとくるシーンがたくさんあると思うんです。
‐‐伊勢谷さんもそうですが、今回から新たに参加されたキャストも皆さん魅力的。とりわけ、全身を厚いコスチュームで覆われながらも、これまでの映像作品におけるベストパフォーマンスではないかと思うほど志々雄役の藤原竜也さんに圧倒されました。
藤原くんはやっぱり舞台役者から始まっているので、会場の隅々まで届けるパフォーマンスの訴求力って凄いんですよね。志々雄はあの時代にいろんな人を従えて、頭首として新しい時代をぶち壊そうとする、いわば“志々雄劇場”の主役じゃないですか。目鼻を隠され、ものすごく動きづらい“志々雄スーツ”を着てアクションするって拷問ですからね!それでもあのパフォーマンスとカリスマ性を出す凄味っていうのは、普通は観客には伝わりづらいと思うんだけど、映像で見ていただければご覧のとおり!藤原竜也でしか、あの迫力はありえない。現場で一緒にやっているときから、「スゲェなこいつ!」って彼の底力を感じましたね。
神木(隆之介)くんも、子役出身ということでもう少し小ぎれいな、まとまった芝居をするかと思ったけど、全然そんなことはなくて、すごく骨の太い子だってわかった。『~伝説の最期編』を見ていただくとわかりますけど、どちらかというと文化系男子というイメージだったのが、体も動くし、そうじゃない。新しい魅力が出てきていると思います。
伊勢谷くんと翁っていうのは、僕にとってブルース・リー対ジャッキー・チェンぐらい夢の対決だったからね(笑)。本当は戦わなくても、にらめっこだけで勝負できる2人だから。顔勝負というか、眼光勝負ですよ、香川(照之)さんとはまた違った意味で(笑)。あの顔を持ち、インテリジェンスもある2人が肉体で勝負するっていうところがいいですよね。『〜伝説の最期編』では、(土屋)太鳳ちゃんのドラマも始まって、新たな魅力を出しています。あと、オススメは滝藤(賢一)ですね。「やっぱりちょっと濃い~人1人要るよね、“そっち系”で」ということで、ポスト香川照之として用意しました(笑)。
‐‐逆刃刀の生みの親・赤空が残した「子に恨まれんとも孫の世の為」という言葉が登場しますが、今回はそこに強いメッセージが込められているのでしょうか?
「不殺(ころさず)の誓い、逆刃刀」と言うのはいいけど、敵は殺そうとしてくるわけじゃないですか。その敵に対しても不殺の誓いで向かっていく剣心を思うと、彼の贖罪の深さと、かつて人を斬ったことでどれくらい傷ついたかという絶望の深さがよくわかる。だから、剣心の「人を二度と斬らない」という想いは、繰り返し強調していかなきゃいけないんですよ。
普通、主人公っていうのは成長していくのだけど、剣心は変わらないんです。自分の目に映る者たちだけは逆刃刀で守っていくということを、ただただずーっとやってるだけなんですよ。でも変わらない剣心のスタンスを確認しながら、その想いの深さは強調されていかなきゃいけないんですよね。“相手が俺を殺しに来ても、世の中でどんなことが起きても、俺は殺さない”。対して、“いつまでバカ言ってられるんだ”っていう話なんです。変わらないから、その「殺さない」と誓うためのハードルをどんどん高くしていかなきゃいけない。だから、志々雄一派と「ほんとに殺さずに戦えるの?」ということが『~伝説の最期編』のテーマになってくるんですね。
それについて、多分、剣心には結論がないと思うんです。相手を殺さないで、結果、何が生まれるのか?その結論って、誰がどうつけるの?倒すってじゃあどういうことなのか?という。単純に善が悪を倒すという話ではない。同じ元人斬りの志々雄と剣心は同じ穴の狢というか、歴史の中で弄ばれた存在。その2人が新しい時代になって運命の再開を果たし、どういう風に戦っていくのか…。構造としても、ものすごくドラマティックなはずなんです。全篇を舐めつくすように(笑)、ぜひ隅々まで楽しんでいただきたいですね。
Profile
1966年生まれ。岩手県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、1990年NHK入局。97年から2年間L.A.に留学し、ハリウッドで脚本や映像演出を学ぶ。NHK時代に演出・監督した作品は「ちゅらさん」シリーズ(01~04)、「ハゲタカ」(07)、「白洲次郎」(09)、「龍馬伝」(10)、映画『ハゲタカ』(09)など。2011年にNHKを退局。独立後初の監督作『るろうに剣心』(12)、続く『プラチナデータ』(13)ともに大ヒットを記録。13年「クリエイティブ喧嘩術」(NHK出版新書)を出版。
<取材後記>
大友啓史監督の印象を筆者なりに一言で表すと、「こんな上司の下で働きたい!」と思える方。明確なビジョンとロジックを持ち、誰よりも高い熱量でもってチームを巻き込み、また巻き込まれ、最高のエンターテインメントを完成させようと突き進む。多くの俳優たちが「大友組」での仕事を熱望するのも納得だ。
大友監督の下、スタッフ・キャストの熱が一丸となって製作された『るろうに剣心』完結編二部作。まずは“壮大なる序章”ともいえる『~京都大火編』で気持ちを高め、9月公開『~伝説の最期編』まで観る側も一緒に走り抜けたい。
▼作品情報▼
『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』
監督:大友啓史
脚本:藤井清美、大友啓史
音楽:佐藤直紀
出演:佐藤健、武井咲、伊勢谷友介/青木崇高、蒼井優/神木隆之介、土屋太鳳、田中泯、宮沢和史、小澤征悦/滝藤賢一、三浦涼介、丸山智己、高橋メアリージュン/江口洋介・藤原竜也
配給:ワーナー・ブラザース映画
2014年/日本/139分(『~京都大火編』)
(C)和月伸宏/集英社 (C)2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会
『~京都大火編』は公開中、『~伝説の最期編』は9月13日(土)より全国公開