【フランス映画祭】ジェロニモ ― 愛と灼熱のリズム

ロミオとジュリエット、あるいはロマンが失われた時代の恋愛悲劇

03_Gerominimo-main 純白の花嫁衣装のまま、画面の右手から左に少女が走り抜けて行く。トルコ系の16歳の少女ニルだ。左手からは、バイクに乗ったロマの若者ラッキーが画面の右側に向かって疾走してくる。そして画面の中央でふたりは、これ以上ない笑顔抱き合う。家族によって年のいった男性との結婚を決められたニルは、たった今結婚式場を抜けだし、恋人の元へと逃げたして来たところだ。揺れる画面は、ふたりの抑えきれない気持ちを、興奮した息遣いを感じさせる。落ち合ったふたりはバイクで海辺に出て、喜びを全身であらわす。潮風になびくニルの髪、空に向かって響くふたりの笑い声、愛しくてしようがないというように、車上の上で絡み合う二人の足。何と活き活きとした喜びの表現!

 これは、南フランス版の『ウエストサイド物語』すなわち『ロミオとジュリエット』である。ニルとラッキーはそれぞれ敵対するロマとトルコ系住民のコミュニティーに属している。フランス移民の中でも最底辺の人たち。若者たちは、仕事が無く街中でブラブラしている。その2人が恋に落ち、それぞれの集団が彼らを巡って対立する。その間に入り、ふたりを助ける役目を果たす女性が、ジェロニモだ。ジェロニモ、インディアン酋長。恐らく彼女のその愛称の由来は、若き日に反逆者であったことによるものだろう。最も今では、この地域の少年少女の指導に携わっており、その面影はない。けれども反逆者だったゆえに、荒む若者の気持ちがよくわかる。酋長ジェロニモには、家族を愛し、勇気ある誇り高きインディアン指導者という別の側面もあるのだが、彼女の今はそれに近い。しかし、何とか事態を収拾させ不毛な争いを止めようという彼女の努力は、ふたつの集団が民族のサガといったものを抱えているため、容易にはいかない。

 本作で民族のサガは、音楽、リズム、ダンスで表現されている。それが、自身半分ロマの血が流れているトニー・ガトリフ監督らしい。二つの集団が初めて正面衝突するシーンは、暴力ではなく、ヒップホップ、フラメンコ、トルコのリズムがぶつかり合い、ロマの激しいフラメンコのステップでその勝敗が決まる。これは、単なる暴力シーン以上の効果をあげている。それは例えフランス人になったとしても、身体の中の民族の血、持って生れたリズムは、決して失われないことを意味するからだ。しかし、民族の誇りの裏には、往々にして悪い因習もある。イスラム文化圏では、どこでも見られることなのだが、トルコでも、名誉殺人といった考え方が色濃く残っている。それは、婚前交渉、婚外交渉をした娘を殺すことによって家族の名誉が守られるというもので、親の決めた結婚を破談させ、花婿に恥をかかせた本作のケースもそれに当たる。それゆえにニルは、自分の兄からも命を狙われることになってしまう。集団の意志が自分の意志になってしまった状態は、単なる復讐よりも性質が悪い。この対立が容易に解決できない理由はそこにある。

実際に今フランスでは、こうした若者たちによる犯罪が横行している。敵対するグループの復讐合戦がおこり、警察も襲撃される。警官たちは、なかなか解決策を見いだせずに、あえてそうした地域に乗り込まなかったりもする。貧しさだけが対立の原因ではない。この作品は、その複雑さを「ロミオとジュリエット」の悲劇に託して描いている。どちらの側にも与しないジェロニモという女性は、こうした問題に対するひとつの向き合い方を示すのだが、決して楽観的には描かれてはいない。せめて子供たちの世代には変わっていってほしい。そんな願いがラストに込められている。



▼『ジェロニモ ― 愛と灼熱のリズム』作品情報▼
原題:Geronimo
監督:トニー・ガトリフ
出演:セリーヌ・サレット、ラシッド・ユセフ、ダヴィッド・ミュルジア
制作:2014年/フランス/104分/シネマスコープ
© Film du Losange


【フランス映画祭2014】
日程:6月27日(金)〜 30日(月)
場所:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長:トニー・ガトリフ監督
*フランス映画祭2014は、プログラムの一部が、福岡、京都、大阪で6月27日(金)から7月11日(金)まで、巡回上映します。
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2014/
Twitter:@UnifranceTokyo
Facebook::http://www.facebook.com/unifrance.tokyo/
主催:ユニフランスフィルムズ
共催:朝日新聞社
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC/在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛:ラコステ/バリラックス/ルノー/ELLE JAPON/LVT
運営:ユニフランス・フィルムズ/東京フィルメックス

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