ネクスト・ゴール!世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦

カネもない、スターもいないサッカーに原点を感じつつ、W杯に出場できることの幸せを噛みしめる

Next Goal Wins_main サッカーW杯ブラジル大会開幕まであと1か月。「映画とサッカーと野球があれば生きていける」と豪語する私としては日本代表の挑戦もさることながら、強豪国同士の凌ぎを削る対戦も今から楽しみで仕方がない。どのような観戦スケジュールを組むか、自分の予定ともにらめっこ状態で悩ましく、あぁW杯期間中の仕事が恨めしい・・・(切実)。

私だけではなく多くの人々を熱狂させるW杯は世界最大のスポーツの祭典ではあるが、出場できるのはわずか32チーム。出場できない国、地域のほうが圧倒的に多い。本作の主役であるアメリカ領サモア代表チームもその一つだ。10年以上にわたりFIFAランキング最下位で、2001年の日韓W杯予選ではオーストラリア代表に0対31の歴史に残る記録的大敗を喫したという。だが、それも致し方がない結果かもしれない。選手はプロではなく寄せ集めのアマチュアで、スポンサーもいないし、練習環境も整っているわけではない。正直なところ、見下したわけではないが弱くて当然だとも思った。その上、選手のインタビューからも窺えるように、負けるのが当たり前、負けグセがついている。

そんなチームに熱血のオランダ人監督が着任したことで、変化が生まれる。まぁ、短い準備期間でチームが劇的に強くなるはずはない。だが監督が自分の娘を亡くした辛い経験を語ったり、選手たちも悩みを吐露することで、異文化や人種、そして心の距離を縮めていく。それらの結果として、チームに自然と勝利への意欲が形成されていく様子が何とも素晴らしい。そして彼らは、彼らにとっての大きな目標を掲げる。まずは初勝利、そしてブラジルW杯1次予選突破だ。

Next Goal Wins_sub1 彼らがスペインやブラジルに勝利したのなら世界に大々的に報じられただろうが、彼らの挑戦は現在のサッカー界に大きな影響をもたらす規模のものではない。しかし勝利への執念をむき出しにした彼らの姿には、勝敗を超えて観る者の胸を熱くさせる。監督の檄に応え、奮闘する選手の様子につい感情移入し、おのずと力が入る。臨場感に溢れた試合の様子には、ぐおぉぉっ!と血湧き肉躍る思い。ゴールラインぎりぎりで失点を防いだDFの気合いのクリアには泣きそうになり、ポストに弾かれたシュートには思わず天(というより試写室の天井)を仰いだ。もちろん、冷静に見れば彼らのプレイも「何でそこをフリーにするかね~」等ツッコミどころはある。でもカネもない、スターもいないサッカーでここまで心揺さぶられるとは・・・。完全にやられた。弱くて当然と思ってしまったことが申し訳なく、恥ずかしく思えた。

この予選を通じて彼らは人間的に成長を遂げ、勝利以上に“何か”を得たという達成感に、サッカー素人の自分が言うのも僭越だがサッカーの力を強く感じる。強豪国にも弱小国にも共通しているものは、サッカーへの愛と情熱と誇りなのだろう。それがサッカーの原点ではないだろうか。むしろ、これらは弱いチームのほうが純粋で強いのかもしれない。中途半端にテクニックがないゆえに、逆にそういう思いがストレートに伝わっていた。

またサッカーは、人種や文化の壁を越える最良の手段の一つだと思う。本作でのオランダ人監督と選手の絆を見れば明快だ。昨今、サッカー界での人種差別問題は憂慮すべきことだが、それは我々がサッカーの原点を見落としていることにも原因があるからではないだろうか。そんなことも考えさせられるのだ。

そして目を転じて、自分の国がW杯に出場できることの幸運を思う。5大会連続出場であり、過去最高の成績を残してほしい気持ちには変わらないが、昨日選ばれた代表選手にもその喜びを噛みしめながら戦ってほしいと思わずにはいられない(上から目線で恐縮です)。W杯前だからこそ原点を見直し、気持ちを盛り上げていきたい作品だ。

Next Goal Wins_sub2▼作品情報▼
原題 Next Goal Wins
監督:マイク・ブレット&スティーブ・ジェイミソン
出演:アメリカ領サモア サッカー代表チーム、トーマス・ロンゲン監督
2014年/イギリス/英語・サモア語/カラー/98分/配給:アスミック・エース
公式サイト:http://nextgoal.asmik-ace.co.jp/
©Next Goal Wins Limited.
5月17日(土)角川シネマ新宿ほか全国順次ロードショー

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)