8月の家族たち ： 映画と。

「家族なんて、遺伝子で繋がってるだけの無作為に選ばれた細胞だ」

父親が失踪した知らせを受け実家へ戻った三姉妹。責任感の強い長女バーバラ（ジュリア・ロバーツ）、おとなしい性格で一人地元に残って両親の面倒を見てきた次女アイビー（ジュリアン・ニコルソン）、自由気ままに恋愛に生きる三女カレン（ジュリエット・ルイス）。そして迎えるは口腔癌を患う母親のバイオレット（メリル・ストリープ）。三姉妹の家族や恋人、バイオレットの妹家族が一堂に会したオクラホマの家で、彼らの鬱屈した思いは爆発し、それぞれの秘密が徐々に明らかになっていく……。

『カンパニー・メン』のジョン・ウェルズ監督がトレイシー・レッツ作の人気戯曲を映画化。レッツは本作の脚本も手がけ、映画の大半は洪水のような会話の掛け合いで構成されている。とにかくまあ、メリル演じる母親の毒舌キャラが圧倒的。家族であろうとなかろうとヒステリックにまくしたて、「私は何でもお見通しよ」と魔女のように視線を射る（ほんとにお見通しだからスゴイ）。闘病中で口の中が痛いと喘ぎながらも喋る喋る……。しかしながら、長女のバーバラも負けてはいない。皆が勢ぞろいした食卓での二人の罵り合い、果ては掴み合いにまで発展するシーンは鬼気迫るものがある。一方、「喋る」という行為は「黙る」と言う行為を否応なしにクローズアップさせてゆく。本当に大事な事柄はずっと秘され、それが明らかにされた時、家族は、そして観客は驚きと同時に人間の持つ複雑さを思い知らされる。

さて、本作を貫く縦糸は、冒頭で紹介したセリフのなかにある「遺伝子」ではないかと思う。「家族なんて、遺伝子で繋がってるだけの無作為に選ばれた細胞だ」。家を飛び出した姉や妹に代わって両親を見てきた次女が発したからこそこの言葉に重みがあるのだが、要するに家族は皆助け合って生きていこうなんていう「神話」の時代は終わっている、少なくともその域まで達観せざるをえない状況があるのだ。遺伝子で繋がっているだけ。そう突き放せたらどんなに楽だろう。しかしながら、本作は「繋がっていること」の残酷さをも提示する。親の介護問題だけではない。否が応でも似てしまう親子。他人ならいいのに、血縁だからこそ生じる苦しみ。かの発言をした次女にこそ、遺伝子の「災難」が降りかかる。たかが遺伝子、されど遺伝子。人間、と言うより生物である以上、遺伝子からは逃れられない。

さらにもうひとつ、本作には生物的なファクターがあるように思う。それは「若さと老い」だ。バイオレットは「老いた女はセクシーでなくなる」と語るが、若い女に男を奪われるというモチーフがここでは三度登場する。種の保存の本能、食物連鎖とは言い過ぎかもしれないが、抗えない（特に女性の）老い、若さへなびく（特に男性の）サガというものが、これまた残酷さをもって描かれている。スクリーンに登場する女性たちも、長女の一人娘（アビゲイル・ブレスリン）以外は皆いい年齢だが、母親は黒々としたカツラをかぶりバッチリメイク、長女と次女はほぼスッピン、三女は若作りが痛々しい（個人的にはジュリエット・ルイスの老け感に驚いた）。老いに対してそれぞれがどう捉えているかという対比も徹底しているなあと思う。

と、ある意味女性にとっては厳しいドラマだが、安易に楽観的な着地点を求めないところが本作の思い切りの良さかもしれない。辛辣な言葉の応酬にシリアスな展開が続くので、体調が良い時に見ることをオススメしたい。

▼作品情報▼
監督：ジョン・ウェルズ
原作・脚本：トレイシー・レッツ
出演：メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ、ユアン・マクレガー、クリス・クーパー、アビゲイル・ブレスリン、ベネディクト・カンバーバッチ、ジュリエット・ルイス
2013年／アメリカ／121分
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2014年4月18日よりＴＯＨＯシネマズシャンテほか全国ロードショー
公式サイト　http://august.asmik-ace.co.jp/