『バチカンで逢いましょう』女優マリアンネ・ゼーゲブレヒトさんインタビュー

「再び世界を駆け巡りたいという思いもあり、この時をずっと待っていた」

DSC_0000大ヒット作『バグダット・カフェ』(87)で世界中の映画ファンを虜にした女優マリアンネ・ゼーゲブレヒトが、チャーミングに歳を重ね、人々を幸せにする笑顔とともにスクリーンに帰ってきた。舞台はイタリアのローマとバチカン。夫を亡くし、それまで隠し続けてきた罪を法王の前で懺悔するため、独りバチカンへ向かうおばあちゃんを演じている。そこで家族やパートナーとのあいだに問題を抱える人々と出会い、騒動を繰り広げるのだが・・・。イタリア屈指の名優ジャンカルロ・ジャンニーニと息の合った掛け合いも楽しく、二人乗りのベスパで街を巡るシーンなど『ローマの休日』を思わせるこだわりのカットも盛りだくさん。運命の出会いや家族の繋がりを描いた人間ドラマが、より豊かなエンタテインメント作品となっている。
今作のプロモーションでようやく来日を果たしたマリアンネさん。国際的キャリアの一歩目となる『シュガーベイビー』(84)が世界で最初に公開されたのが日本というのもあり、特別な縁を感じているという。インタビューでは、大成功をおさめながらハリウッドから身を引いた理由や、ふたたび今作で表舞台にカムバックしようと思った経緯など、今日までの歩みをじっくりとうかがった。


——『バグダッド・カフェ』の成功によって女優人生は変わりましたか? 『ロザリー・ゴーズ・ショッピング』の後、日本では主演作が公開されていないのですが、どのように過ごされていたのでしょうか?
マリアンネさん(以下、マリアンネ):『バグダッド・カフェ』は全世界で大きな成功をおさめ、出演できたことに運命を感じています。その後の『ロザリー・ゴーズ・ショッピング』と『ローズ家の戦争』も成功をおさめ、素晴らしい映画に出演できたことに感謝しています。成功が続いたことで国際的にも注目されるようになりました。『ローズ家の戦争』の後、ハリウッドのウェイティングリストに載せないかと言われたのですが、5年間もハリウッドに留まらなくてはならないうえ、出演作品を自分で選ぶこともできず、当時ミシェル・ピコリと映画を撮る約束をしていた私は、その話をお断りしました。ユニバーサル・スタジオの方はとても怒って、「今この話を受けないのであれば、私たちは今後あなたと仕事をしない」と言ってきましたが、それならそれで仕方がないなと思いましたし、仕事があれば電話やファックスで連絡してくれればいいわけで、待ち時間をずっとハリウッドで過ごす必要はないと思いました。
またアメリカでは、ドイツ人の俳優はナチスの役を演じさせられる傾向があります。ドイツの俳優たちはハリウッドに行きたがりますが、そういう役をやらされることが多く、みんながっかりして帰ってきますね。

そういう状況もあって『ローズ家の戦争』の後、ヨーロッパ映画には出演していたのですが、一度身を潜めて、以前から興味のあった医療の分野で本を書いたり、ハーブを育てたり、年に一度はTV映画にも出演したりと静かな生活を送っていました。

この間にもハリウッドからのオファーはありました。例えば、オスカーにもノミネートされた『トゥモロー・ワールド』ですが、女性が子供を産んではいけないという話で、私の役は女性が子供を産まないように見張る役でした。そんなこと私にはできません。「これはフィクションだから気にすることなくやってほしい」と言われましたが断りました。『ハリー・ポッター』からのオファーもありましたが、その段階で私の役は未定でした。とにかくロンドンに来てくれということでしたが、自分が何をするのか、どんなセリフを言うのかも分からないまま引受けることはできませんでした。それからシュワルツェネッガーからも『エンド・オブ・デイズ』という映画でオファーがあったのですが、産婆として乳をあげながら赤ちゃんをサタンに差し出すという役で、反キリスト教的な話です。映画の中で言うセリフも私にとっては本当のことなので、「セリフだから」と自分に言い訳をすることはできませんでした。あとウディ・アレン監督からもオファーがありましたが、「5日後に来てほしい」とあまりにも急で、他に約束している仕事があったのでお断りしました。役者仲間からは怒られましたが、ファンの方々はどうして引き受けないのかを理解してくださるので無理してやるつもりはありませんし、自分のやることには責任を持っていたいのです。犯罪映画や出演している方を批判するつもりはなく、私は出ないというだけで、それで40年間やってきました。

——なぜ今回、国際的な作品にカムバックしようと思ったのでしょうか?
マリアンネ:今作は原案者のクラウディア・カサグランデさんが自分の祖母のことを書いた実話で、「祖母を演じてくれるのはマリアンネ・ゼーゲブレヒトしかいない」と、他界したおばあさんの姿を私の中に見出していただけるということでしたので引き受けました。国際的な作品になることはわかっていましたが、再び世界を駆け巡りたいという思いもあり、この時をずっと待っていました。こうして日本に来ることができましたし、アメリカやフランス、スペインにも行きました。映画にはそれぞれの運命というものがあると思いますが、この映画は再び私を世界に連れて行ってくれるという運命を持った映画だと思います。日本に来ることが決まった時、神秘的な気持ちになりました。『シュガーベイビー』が最初に上映されたのが日本だったからです。当時、私はマイケル・ダグラスと撮影をしていたため、来ることができなかったんです。

——バチカンやローマでの撮影で、とくに印象に残っているシーンは?
マリアンネ:マルガレーテが法王の顔にペッパースプレーをかけてしまうシーンですが、あれは実話です(笑)。実際は顔ではなく、少し衣装を汚した程度だったそうですが、そこは映画として面白くしました。その後マルガレーテはバチカンの守衛に捕まるのですが、映画のために演じていただいた本物の方々だったのでドキドキしました。ジャンカルロさんが助けにきてくれるシーンも本当に素晴らしい演技でした。イタリア人は愛と情熱に弱く、「愛と嫉妬ゆえの行動」と分かれば、警察でさえもお目こぼししてくれるという場面です。

——ジャンカルロさんとの掛け合いは息もピッタリでしたね
omainroma2マリアンネ:ジャンカルロさんとの共演を監督に提案したのは私でしたが、彼はアメリカでボンド映画を撮っていたので難しいだろうと思っていました。ところが、「『バグダッド・カフェ』は大好きで、僕はマリアンネ・ゼーゲブレヒトの大ファンなんだ。もちろんやるよ」とオファーを受けてくれました。「愛とアナーキーの映画」に出演していたジャンカルロさんをずっと尊敬していましたが、実際に共演してみても素晴らしい方でとても楽しい時間を過ごせました。
二カ国語で映画を撮る時、相手がしゃべり終わって次は自分だという時に「今だ!」と目を大きくしてしまう方もいますが、イタリア語のリズムは好きで演技の時もスッと入ってくる感じでした。

——作品で語られる故郷バイエルンと、マリアンネさん自身のアイデンティティについて
マリアンネ:『バグダッド・カフェ』は監督との共同脚本ですが、下地になっているのは実在するバイエルンのカップルの話です。冒頭、ヒロインのジャスミンはバイエルンを象徴するようなコスチュームを着ていますが、途中、彼女は夫と決別し、シンボルであるコスチュームを脱ぎ捨てて、ブレンダという異国の女性のところで暮らします。『バチカンで逢いましょう』のマルガレーテはジャスミンと違い、異国でもバイエルン出身というアイデンティティを守っています。マルガレーテはジャスミンほど自由な身ではなく秘密も抱えていて、そこが二人の女性の違いだと思います。
バイエルンはドイツの最南端にある州でイタリアに隣接していますが、地理的なこともあり、歴史的に早い時期からマルチカルチャーな遺伝子をもつ、他民族国家であるといえます。とてもリベラルな空気に支配されている場所で、北の人たちとはその点で違うのですが、性格的にもオープンで人懐っこいという特徴もあると思います。

私自身については、肉体はバイエルン的といえますが、心は100%アジア的だと思っています(笑)。というのも、子供の頃に出会った牧師がカトリックでありながら仏教も学んでいて輪廻転生の話をしてくださったり、医療の分野に興味を持っていた時に出会った医師が中国で東洋医学を勉強していたりと、人生の節目で彼らの影響を受けているからです。あるがままでいいのだと考えられるようにもなりました。
テレビのトークショーなどでそのようなことを言うと残念ながら軋轢が生じてしまうので、考えを受け入れてもらえる時を待とうと思っています。お金やキャリアが大事だという考えには賛同できず、お互いに分け合い、心のふれあいを大切にする社会であればいいと思っています。

『バチカンで逢いましょう』は4月26日(土)より、新宿武蔵野館にてGWロードショー!ほか全国順次公開


マリアンネ・ゼーゲブレヒト Profile

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5冊の本を執筆しているマリアンネさん、挿絵もご自身で描いている

1945年、ドイツ・バイエルン出身。77年に喜劇「オペラ・キュリオーザ」を立ち上げてドイツ各地を巡業し大評判となる。79年、舞台を観たパーシー・アドロン監督に見出され、TVドラマに出演。83年にアドロン監督の「Die Schaukel」で映画デビューを果たす。84年『シュガーベイビー』に主演、87年に大ヒット作『バグダッド・カフェ』のジャスミン役で大ブレイク、続いて『ロザリー・ゴーズ・ショッピング』に出演。世界的な人気を得て、ハリウッド進出を果たし、『パラドールにかかる月』『ローズ家の戦争』に出演した。92年に「Martha et Moi」でヴェネツィア映画祭最優秀女優賞を受賞。近年、ドイツのテレビドラマでの活躍が多く、映画主演作としては00年の「Thanksgivin’,die nachtblaue Stadt」以来12年ぶりとなる。


『バチカンで逢いましょう』作品データ
omainroma1監督:トミー・ヴィガント
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、ジャンカルロ・ジャンニーニ、アネット・フィラー、ミリアム・シュタイン、トーマス・カイラウ
原案:クラウディア・カサグランデ
製作:2012年、ドイツ、105分
公式サイト:http://www.cinematravellers.com/
© 2012 Sperl Productions GmbH, Arden Film GmbH, SevenPictures Film GmbH, Co-Produktionsgesellschaft “Oma in Roma” GmbH & Co. KG, licensed by Global Screen GmbH.

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