『グランドピアノ 狙われた黒鍵』エウヘニオ・ミラ監督インタビュー:「イライジャ・ウッドはとても肉体的な俳優だと感じたよ」

grandpiano_dir『ロード・オブ・ザ・リング』のフロド役で一躍有名になったイライジャ・ウッドが、今作では正体不明のスナイパーに命を狙われる天才ピアニスト役に挑む。伝説のピアノ“インペリアル”に隠された秘密を解く鍵は超難曲のフレーズにあり、一音でも間違えたら観客が見守るステージの上で殺されるという、サプライズにみちた音楽サスペンス。手掛けるのはスペインの若手監督エウヘニオ・ミラ。音楽家、作曲家でもあり、劇中で重要な鍵を握る難曲「ラ・シンケッテ」の作曲も担当している。 幅広いジャンルで才能を発揮しているミラ監督であるが、本作を「僕にチャンスを与えてくれた特別な企画。大変だったけど、その努力に見合う作品」と振り返り、インタビューに応じてくれた。

——本作を監督しようと思った理由を教えてください
ミラ監督:とても素晴らしい脚本だったし、プロデューサーからも「面白くて、みんな気に入っている」と聞いていたので。しかし、これをどうやってスクリーン上に落とし込むのかと少し冷や汗をかいたよ。見た方にリアルを体感してもらうのがチャレンジだった。

——主演にイライジャ・ウッドを起用したのはなぜですか?
ミラ監督:イライジャとは2010年にオースティンでのファンタスティック映画祭で会って、一緒にカラオケにも行ったんだけど、翌年に再会した時に僕のことを覚えていてハグしてくれたんだ。たまたま再会の2ヵ月前にこの脚本を仕上げていて、主人公のトムは天才だけど、イライジャも『ロード・オブ・ザ・リング』で素晴らしい演技を見せていたし、彼の持っている優しい部分もこの役にピッタリだと思った。

——彼のピアノ演奏はどうでしたか?
grandpiano2ミラ監督:幼少期に習ったピアノはすべて忘れてしまっていたらしいけど、カラオケに行った時に、僕はミュージシャンだからイライジャの素質をすぐに見抜いたよ。リズム感がある、とね。ピアノコーチについてもらったし、手元のクローズアップのシーンは別にしても、90%をイライジャが演じているんだ。彼に備わっている自然な才能だと思うけど、とても肉体的な俳優だと感じたよ。走るにしても、動くにしても、それを通して演技ができる。ピアノから身体を、指を離す動きにそれを感じた。彼はどんな要求にも応えられる才能溢れる役者であるばかりか、フィルム・メーカーでもあり、「監督とキャストが共犯関係にある」と思わせてくれる俳優なんだ。

——スナイパーを演じたジョン・キューザックのキャスティングと印象について
grandpiano3ミラ監督:この物語を成立させるにはビッグネームが必要で、いろんな方々の名前が挙がる中、僕のファーストチョイスはジョン・キューザックだった。シカゴ出身ってこともあってね。彼は「今のハリウッドじゃこういう映画は撮れない」と言ってくれて、映画を本当に愛しているんだなぁと。彼のセリフを先に録って、イライジャはそれを聴きながら演技をしたんだけど、冷たい声から落ち着いた声、怒る声など本当にプロフェッショナルなものを届けてくれて、(監督の)オファーを受けて良かったと心から思ったよ。

——サスペンスの鍵を握る難曲“ラ・シンケッテ”の作曲について
ミラ監督:とにかくリアルに感じるようにすることが重要だった。カタルシスを感じさせるようなイメージで。最後の15小節は演奏不可能だよね、本当にスポーツのようだから(笑)。だんだん感情的になっていくトムを誰も止めることができないという感じで。プロデューサーがその方向性を信頼してくれたのでラッキーだったよ。

——世界最高級ピアノであるベーゼンドルファーのインペリアルを弾くという設定に、何か特別な想いはありましたか?
ミラ監督:最初に手掛けた映画のサントラを書くためにブルガリアのソフィアに行ったんだけど、たまたまインペリアルが2台あったんだ。音楽界のキャデラックが2台も(笑)。ドイツでは“黒い小人”と呼ばれていて、この映画の話を考えた時に、それはイライジャと繋がって面白いなと。

——映画監督になろうと思ったきっかけについて
ミラ監督:ピアノを3、4歳から始めて、一つの言語として音楽が身に付いていたんだ。英語もそうで、映画をたくさん観たら自然と話せるようになった。『ジョーズ』『E.T.』『スター・ウォーズ』を観て育った僕は80年代の産物だ。本当にスゴい映画が世に送り出されていた時代だったから、映画が好きになり監督を目指すようになったんだ。テクノロジーの進歩も監督になったきっかけかもね。映画は20世紀の真の表現だと思っているし、まだまだこれからも新しい表現ができるだろう。イリュージョンのように人を驚かせるような映画を撮っていけたらと思う。

——全編英語の作品ですね。最近のスペインの若手監督は積極的にハリウッド俳優とタッグを組んで挑戦的な作品を撮っているという印象です。そのような傾向はあるのでしょうか?
ミラ監督:もともと全編英語の作品を撮りたいと思っていたんだ。アメリカのシネマはコスモポリタンで、(ロマン・)ポランスキーや(ポール・)バーホーベンが近い存在と言えるかもしれない。いつか80年代のような作品を撮ってみたいと思う。スペインの作家たちも僕らの世代から、世界を意識している人たちが増えている気がするんだ。

『グランドピアノ 狙われた黒鍵』は3月8日より新宿シネマカリテほか全国ロードショー

<エウヘニオ・ミラ監督 プロフィール>
1977年、スペイン・バレンシアナ州出身。
音楽家、作曲家でもあり、本作の「ラ・シンケッテ」の作曲も手がける。初めて手掛けた長編映画『The Birthday』(04)〈未〉がシッチェス・カタロニア国際映画祭、ポルト国際映画祭に出品される。監督作品に『拘禁 囚われし宿命の女』(10)〈未〉。セカンド監督作に『インポッシブル』(12)、また、『レッド・ライト』(12)ではロバート・デ・ニーロ扮する役の若き頃を演じるなど幅広いジャンルで才能を発揮している。


grandpiano20140307064215監督:エウヘニオ・ミラ
出演:イライジャ・ウッド、ジョン・キューザック、ケリー・ビシェ、タムシン・エガートン、アレン・リーチ、ドン・マクマナス、アレックス・ウィンター
製作:2013年/スペイン・アメリカ/91分
配給:ショウゲート/宣伝:スキップ
公式サイト:http://grandpiano-movie.jp/
(C) NOSTROMO PICTURES SL / NOSTROMO CANARIAS 1 AIE / TELEFONICA PRODUCCIONES SLU / ANTENA3 FILMS SLU 2013

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  1. 映画感想 * FRAGILE

    グランドピアノ〜狙われた黒鍵〜/震える指でその身を守れ

    グランドピアノ〜狙われた黒鍵〜GRAND PIANO/監督:エウヘニオ・ミラ/2013年/スペイン、アメリカ イライジャ・ウッドがずっと困り顔でピアノを弾いています。 試写会で鑑賞。ショウゲート試写室でした。公開は2014年3月8日です。予告を見て面白そうだなあと思って見に行きましたよ。そしたらねーこれは面白かったですね。 あらすじ:1音でも間違えたら殺されます。 超難曲をミスったせいで舞台恐怖症になって引きこもってたピアニスト(イライジャ・ウッド)が、恩師の追悼コンサートに出ることになっちゃったん…

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