『最後の晩餐』オ・ギファン監督インタビュー:「合作映画は、ターゲットの国にフォーカスを絞って製作しないと、なかなか難しい」

オ・ギファン監督  高校時代から初恋を育んできた爽やかなカップル。ある日、彼は意を決してプロポーズするが、意外にも彼女から“別れの契約”を突きつけられる。
「別れましょう。お互い夢を叶えて、5年後まだ独身だったら結婚する」。
 拒絶の真意を図りかねるまま、悔しさをバネにシェフとして大成功を納めた彼。約束の5年後、2人は再会するのだが…。

 観慣れた韓国のメロドラマ…と思っていると、「あれ、ちょっと違う」と気付くはず。中国・韓国合作映画『最後の晩餐』(3月1日公開)は、パッケージこそ甘くドラマティックな王道の韓流ラブ・ストーリーだが、蓋を開けてみると、今の中国の若者の価値観をふんだんに盛り込んだ“二重構造”になっている。大陸特有のざらりとした空気感や、趣ある街並みもストーリーに彩りを添える。
 監督を務めたのは、『ラスト・プレゼント』(01)が日本でもヒットした韓国のオ・ギファン。『最後の晩餐』は、オ監督が自身の代表作を中国を舞台に換骨奪胎した作品だ。ヒロイン・チャオチャオを演じるのは、『失恋33天』(原題・11)で失恋直後の女性の心情を等身大の魅力で演じて一躍人気女優となったバイ・バイホー。決して正統派の美女ではないが、豊かな表情と伸びやかな手足をダイナミックに使ったコミカルな演技が愛らしく、観客の心をつかむ。お相手のリー・シンには、テレビドラマでアイドル的人気を博した後、『ジャンプ!アシン』(11)『激戦』(原題・13)などで演技派俳優としての評価を固めつつある台湾のエディ・ポンが扮する。

 昨年10月、ちょうど映画祭シーズンの東京にやってきたオ・ギファン監督。韓国人監督が中国映画を撮る苦労や、多国籍スタッフ・キャストで臨んだ製作の裏側についてお話を伺った。


『最後の晩餐』メイン
‐‐どういう経緯でこの作品を監督されることになったのですか?

監督:映画会社のCJ Entertainmentが中国に進出して6年くらい経ち、何か映画を作って結果を形にしようということで、私が監督のオファーを受けることになりました。最初は『ラスト・プレゼント』を撮ろうという話をしていたのですが、韓国人と中国人の情緒の違いなど、いろいろな部分がネックになってしまい、フレームは残しつつ、そのほかの部分は作り直すという形で『最後の晩餐』が生まれました。大きく変えた理由は主に2つあります。まず、韓国的なコメディのできる俳優が中国にいなかったこと。それから、『ラスト・プレゼント』で描いた夫婦の関係が、中国人の目には親と子の関係に映ってしまういうことでした。

‐‐中韓合作という形で、韓国でも公開されていますが、最初から中国市場向けだったのですね。

監督:最初は韓国での公開は念頭に置かずに作りました。ただ、制作時から、もしかしたら日本の観客には興味を持ってもらえるのではと少し思っていましたね。
これまで私は日本、中国、韓国と、同じアジアの国はものの感じ方なども同じようなものだと思っていたのですが、映画を作ったことで大きな違いがあるのだと実感しましたね。例えば、私は和食が非常に好きなのですが、それはあくまで自分の好み。もし私が日本で映画を撮ろうとしたら、やはり細かく勉強して理解しないと、日本人に共感してもらえる映画は撮れないのだと思いました。

【最後の晩餐】サブ1
‐‐中国人との感じ方の違いを一番感じられた部分は?

監督:やはり、『ラスト・プレゼント』を中国人が観ると親子の話だと感じるというのは衝撃でした。それから、映画のディテール設定のために中国人スタッフと話して分かったのですが、韓国では恋人同士がケンカをすると女性の方が泣くんですけど、中国では男性がよく泣くという(笑)。それにも驚きましたね。

‐‐では、脚本はどう練っていったのですか?

監督:中国の脚本家3人と一緒に作業しました。そのうち1人とは中国人の感情や情緒の描き方について話し、もう1人とは中国人が好むシチュエーションについて話しました。3人目の脚本家とは、それぞれのシチュエーションで中国人がやり取りする会話について話し合い、3人との作業を通してストーリーが完成していきました。やはり、外国人の感情や情緒を理解するには努力が必要でしたね。

‐‐フレームが韓国で、設定が中国ですが、私たち日本人も涙を絞られてしまうとすれば、それはこの作品で描かれた「自己犠牲」に感動するという共通の感性があるからだと感じました。

【最後の晩餐】サブ3監督:女性がメロドラマを好きな理由は、現実世界の男性に自己犠牲の精神がほとんどないからではないでしょうか(笑)。だから、男は反省して妻やガールフレンドに倍以上の愛情を注ぐよう努力し、女性は愛情を得るためにさらに自分磨きに励むというのが、こういったメロドラマを観る一番の効能かもしれません(笑)。
この映画を恋人同士が観終わった後に、お互いを見つめ直し、“私たちの恋はこの映画よりもっと揺るぎない”と確信を持ってもらえればいいと思います。

‐‐現実世界にはほとんどいないとのお話ですが(笑)、リー・シンを演じたエディ・ポンさんはまさに優男という印象で、この作品にマッチした上手いキャスティングですね。大陸の俳優を起用していたら、もっと男臭い感じになってしまったと思います。キャスティングはどう進められたのですか?

【最後の晩餐】サブ2監督:中国を訪れて最初に観た映画が『失恋33天』で、バイ・バイホーさんがヒロインを演じていました。それで「彼女いいね」とプロデューサーに話してオファーを出したら、すんなり引き受けてくれました。『失恋33天』が公開されていたのは2011年の末。明けて2012年の初め、エディが出演していた『LOVE』も封切られてヒットしました。それを観て、相手役にエディはどうかとバイ・バイホーに聞いたら、「実は私もそう思っていた」と言ってくれたんです。こちらもすぐOKをもらえたので、中華圏で今最高の人気俳優をキャスティングできたと光栄に思っています。

‐‐監督は、映画製作においてアジア各国の合作の意義や将来性についてどうお考えですか?

監督:合作映画への臨み方については、恋愛に近いものがあると思います。三角関係に例えると、1人の男性が2人の女性のどちらからも愛されたいと考えてしまっては、きっと上手くいかない。映画に関しても、合作とはいえ、ある国をターゲットとして、そこにフォーカスを絞って製作していかないと、なかなか難しいと思います。韓国人男性と日本人女性の恋といった設定は上手くいかないですね。

Profile
1967年9月16日、韓国・釜山生まれ。『ラスト・プレゼント』(01)、『ナンパの定石』(05)、『オガムド 五感度』(09)ほか、幅広いジャンルの作品を手がける。


<取材後記>
 昨年、オ・ギファン監督をはじめ、比較的短い期間に韓国の監督数人を取材させていただいた。映画監督にもさまざまなタイプがいて当然だが、クリエイティヴな芸術家然としたパク・チャヌク監督やポン・ジュノ監督と比べ、オ監督は“デキるビジネスマン”という雰囲気。ニーズに応えて最善を尽くす、今の時代に応じた仕事人と言えるのかもしれない。
 ちなみに、日本の俳優の中で好きなのは蒼井優さんだとか。ポン監督も蒼井さんを起用されたことがあるし、確かホ・ジノ監督もお好きだと言っていた。韓国人監督の間の蒼井さん人気、すごいです。


【最後の晩餐】サブ5▼作品情報▼
『最後の晩餐』
原題:分手合約
監督・脚本:オ・ギファン
出演:白百何(バイ・バイホー)、彭于晏(エディ・ポン)、ペース・ウー(呉佩慈)、ジアン・ジンフー(蒋勁夫)
配給=CJ Entertainment Japan
2013年/中国・韓国合作/103分

3月1日(土)より、シネスイッチ銀座、横浜ブルク13ほか全国順次公開

公式HP http://bansan-movie.com/

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