【TNLF】『ムーミン谷の彗星』:トークショー

トーベ・ヤンソン生誕100周年記念特集

ムーミン谷の彗星2014年2月9日、『ムーミン谷の彗星』の上映後、森下圭子さん(ムーミン研究家)とムーミン関連のソフトを多数手掛けられている久保友里さん(ビクターエンターテインメント株式会社/ディレクター)のおふたりによるトークショーが行われた。20年ぶりにこの時期日本に帰ってこられたという森下さん、花粉症で気管支をやられてしまったということで声が出ず苦しそうな中、それでも「普段はカナリアのような声なんです」と持ち前の明るさで、会場を大いに盛り上げた。ムーミンの魅力、ムーミンを生んだフィンランドの文化のこと、トーベ・ヤンソン自身とムーミンの世界の関係性など、幅広く貴重な話が次々に飛びだした。



森下&久保

左から森下圭子さん、久保友里さん


(司会)まず、初めにどのキャラを押しているかお聞きします。

(森下圭子さん以下森下)私はムーミンです。私によく似ているのでそれが免罪符になっているので。(笑)フィンランドにいると何歳になっても、無駄な好奇心を受け入れてくれるということが生活しやすいと思ったところなんですけれども、ムーミンを観ているとまさにそんな感じですよね。無駄な好奇心に従って飛び出していくみたいな。

(久保友里さん以下久保)私はモランです。冬のお化けなんですよね。人といっしょにいたいのに近づいていくと、相手を凍らせてしまうという、切ないパーソナリティをもったお化け。しかも女性のお化けなので思い入れも倍増してしまいますね。トーベがどうしてそんなキャラクターを作ったのか不思議で惹かれてしまいます。

(司会)今日久しぶりにご覧になられたご感想はいかがでしたか

(森下)面白かったですね。ムーミンを好きになった頃は、何でもかんでも真面目に見ようとしていたところがあったのですけれども、今日は肩の力を抜いて、いちいち笑って観ていましたね。

(久保)原作も素晴らしいし、アニメになったらなったで、突っ込みどころ満載で面白いですね。スニフのお金好きというのがすごい良いなぁって思いましたね。

(森下)トーベ・ヤンソン生誕100年になって、今まで認めたがらなかったのですけれども、フィンランドでも俺の中のスニフを告白する人が増えてきていて、意外にスニフの人気が上がってきているんですよ。

(久保)今日の作品はフィンランドでも放送されたのですか。

森下さん1(森下)私はテレビで観たのですけれども、多分劇場でもやっていたのじゃないかなって思います。フィンランドではムーミンの爆発的人気っていうのは、アニメからでした。それまでは、一部のどちらかというと、文化的な家庭環境に育った人、本が好き、あるいは芸術的なものに力を入れている家庭の子供たちが読んでいるという印象が強かったです。今だに91年の物がテレビで再放送されたり、フィンランド放送のネット配信でも常にトップクラスになっています。

(久保)アニメは日本で作られたものがフィンランドで吹きかえられ国営放送で放送されているということなのですよね。ちなみに原作は児童文学になるのですか

(森下)そうですね。フィンランドでは寝る前の絵本の読み聞かせというのが日常的に行われていて、その中でも人気の高いのはムーミンの童話です。親にとっても、仕事から帰って段々自分の時間に戻るための大切な儀式にされている方も多いのですね。

(司会)大人が読んでも楽しめますものね。逆に言うと。子供をほったらかしで大人が夢中になるということもあるんじゃないですかね。

(森下)お母様が読んでいてはっとさせられるなんてことも聞きますしね。

(司会) アニメはかなり書き直されていますよね。

(森下)実は、原作ではミーが出てこないなんて話を控室でしていましたね。実はこれ、ムーミンの中では2作目で、「小さなトロールと大きな洪水」の次の作品で、なかなか出版されず、また出版されても、いまいちヒットしなかった作品なんです。随分苦労してやっとのことで出た一冊ですね。国際的にも評価されて売れるようになったのは、次の「楽しいムーミン一家」からです。トーベは、この時はまだ本当に貧しい画家としての生活が続いていた時期でもあるんですね。

(司会)なんで最初受け入れられなかったんでしょうね。怖いということもあるのですかね。出たのは、丁度戦争が終わって直後くらいですよね。

(森下)この暗い感じのものを子供に見せて良いのかっていうことがあるのですね。フィンランドでは、童話をよくお芝居にしてしまいます。で、12月の子供向けのお芝居っていうのは大抵「クルミ割り人形」とか定番的な物が多かったのですけれども、こんな難しいものを芝居にしてどうするんだって言われて物議をかもしだしたりもしているんですね。だから、文化的な人たちの間ではわりと評判が良かったのですけれども、一般的な評価としては、これは誰に向かっているのって感じだったんですね。

(司会)確かにそうですね。原作を読むとこれは大人向けに近いのかなっていう気もしますね。

久保さん(久保)子供のうちは、読んでいてわからないんだけれども、なんかすごいことが書いてあるんだなって思うような感じですね。子供の目線に降りていくというよりは、大事なことをしっかり持って、それを打ち出している作品のようには思いますね。

(司会)そういう意味では、アニメ化されることによってお子さんにも内容が伝わるような形になっていると思いますけれども。

(森下)やっぱりトーベ自身が形に一回出てしまったら後はみんなのものだっていうような気持ちでいらっしゃいましたね。創作している時は私だけのもの。誰かを想定するようなことはしません。でも、私がやりたいからやるんだって言うのだけれども、1度世に出てしまったら、それはみなさんのものなんですね。例えば「八百屋さんでムーミンの話をしているのを聴いたら私にとっても、とても大切な言葉だ」って言っていますし、子供向きに作りたい、子供がこういうのを喜ぶっていうのがあれば、その子供が喜ぶ姿を自分で想像してそれをまた喜ぶということがあったんですね。

(久保) 彗星がやってくるとみんな滅びちゃうという危険な時に、じゃ天文台にみんなで見に行きなさいって送りだす両親がいるんですけれども、トーベ自身もこの後やるドキュメンタリーとかを観ると、本人もずっと冒険をされていた方だってわかるのですけれども、危険だっていう時に送りだすムーミンの両親の姿っていうのが、もしかしたらトーベのご両親にもあったのかしらなんて見てしまうのですけれども。

森下さん2(森下)一応残っている資料などを見ると、お父様ってすごいロマンチストなんですよね。自らの家族を守るために内戦に出て行ったりとか。お母さんはトーベのやりたいこと、言っていることを全面的に支えようとします。本当に小さい頃からトーベは外国に出て、留学もしていますけれども、その時一番手紙を書いているのは、家族に向けてなんですね。家族の絆がとても強い。芸術一家なので普通の職業の方よりも長く休みが取れる。夏になると一家で、3カ月4カ月と離れた海辺の島で暮らすわけですけれども、そこでやっていることひとつひとつを聴いていて、びっくりしますね。トーベが14歳の時、勝手に小さな島とも言えない岩の上に、ひとりが入れるような小屋を突然自分で建てて泊まるんですよ。夜寝てたらガタガタとすごい音がしたので、誰かならず者が入ってくるんじゃないかって、ビクビクして眠れないまま、ずっと中に閉じこもっていたのです。けれども翌日彼女は何をしたかというと、家に帰るんじゃなくて、逃げるための穴を作ったんですね。単にそれは強い風だったんですけれども。そういうことを元々やらせてくれていたんですね。それは、トーベの一家は特に強かったと思うのですけれども、フィンランドでは実はあることなのかなとも思いますね。危ない危ないとあまり言わない。すごく自主性を重んじているところがあるような気がしますね。

(久保)今日の映画の中でスナフキンと初めて出会うシーンが出てくるのですけれども、彼はテントで暮らしていますね。『ハル、孤独の島』では、島に小屋を自分たちで建てているにも関らず、さらにテントを建てて過ごしていたりするのですけれども、フィンランドではみなさんキャンプとかするのですか。

(森下)一般的には、森の中の自分が建てた小さな小屋で過ごすことが多いのですけれども、自分の家の庭に子供が「僕は今日から夏の間テントで寝るよ」みたいなことがよくありますね。

(久保)あとムーミンとスナフキンが出会ったときに、最初の一言が「コーヒーを持っているかい」ですよね

(森下)実はトーベはあまり食べることには興味がなかった人らしいのですね。それでもコーヒーそれも強いコーヒーは好きだったって言いますね。ちなみにフィンランドはコーヒーの消費量が世界一ですから、トーベだけじゃなくて、みんながそうなんですね。人が来たらコーヒーでもてなすというのが普通に行われていることなのですね。

(久保)スナフキン直火でやかんからコーヒーを出していましたけれども。

(森下)それがコーヒー好きにとっては一番美味しいコーヒーのいれ方なのですね。

(司会)あれは西部劇なんかでやるような豆をそのままぶち込むっていうやつ。

(森下)そうです。挽いたやつを。フィンランドのスーパーに行くとちゃんと、ドリップコーヒー用かやかんコーヒー用かでちゃんと挽きかたを分けてあります。今日の映画の中にも出てくる自然との対話の仕方とか、危機を工夫して乗り切るところとか、やかんのコーヒーとか、フィンランド人がこうあったらいいなっていう夢に描いていることを実現している部分でもあるんです。

(久保)旅をする中でヘンな食虫植物がでてきますよね。もちろんフィンランドにはないですよね。トーベの中に南の地方に対する憧れがあるんですかね。

(森下)ありますね。特にこの彗星の話のアイデアが浮かんだのが、イタリアを旅行した時に火山を見て、ひらめいたと言う風に言われています。なので、なんとなく土地の感じも地形もそれを彷彿させるものだったりとかします。あと戦時中には、芸術家のコミュニティーをどこかに作るっていう妄想で楽しんでいたりするのですけれども、モロッコだとか、タヒチだとか、そういうところに建てられたらいいなと。そういう理想の家を描いていたりもしています。

(久保)今日の映画では、最後は海が戻ってくるっていうシーンです。トーベもずっと夏の間海の近くで暮らしていたりとかするんですけれども、フィンランド人のみなさんにとって海とはどういうものなのでしょう。

(森下)私自身は子供の頃海沿いの街に住んでいたのですけれども、ものすごい波とかが印象にあったんですね。フィンランド人を見ていたらそれとはちょっとスタンスが違う。トーベにとっては、海が安らぎになっているし、自分の冒険の場所でもあるし、ヘルシンキに住んでいてすら、わざわざアトリエに海が眺められるロフトをつけるくらい海って欠かせない要素だったんですよね。フィンランドって永らく阻害されていた国ですよね。独立してまだ100年も経っていませんし、自分たちの国が小さな貧しい国という時代が長かった。今は経済的には成長したけれども、それでもまだ言語的には500万人しか話さないフィンランド語を話していて、どこからもちょっと隔離されているみたいな気持ちがあるんですね。そんな中で海というのは世界に繋がる自分たちの出発点なんですね。ここから世界に広がっている。海を介して自分たちの世界が広がるとか、そういうところがあるんじゃないですかね。

▼作品データ▼
英題:Comet in Moominland
監督:斉藤博 (Hiroshi Saito)
声の出演:高山みなみ/大塚明夫/谷育子/
かないみか/子安武人/佐久間レイ
(92年 /日本・オランダ/72分)


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