【TNLF】ラグナロク(仮題)

魅惑の北欧神話の贈り物には危険がいっぱい

ラグナロク考古学者のシーグルは、妻を癌で亡くし、今は思春期の娘と幼い息子との3人暮らし。研究者としては優秀だが、博物館の研究費を集めるためのプレゼンでは、オタクっぽく自分の興味のある世界へと突っ走ってしまい失敗、そのうえ娘の歌の発表会を忘れてしまうダメパパぶり。『コン・ティキ』のポール・スヴェーレ・ハーゲンの大人に成りきれない男ぶりが板についてなかなか良い。この作品では、冒険ものという要素の他に、子供たちを発掘の旅に一緒に連れて行くことによって、ダメパパが、頼もしい本当の父親になるまでが描かれており、ファミリー映画といった趣もある。そのあたりが、ハリウッドの『インディ・ジョーンズ』シリーズなど“考古学冒険アドヴェンチャーもの”とは大きく違うところだ。

 シーグルがヴァイキング船から発見したルーン文字(北欧古代文字)は、北欧神話における終末の日を意味するラグナロクについて書かれたものである。ギリシャ神話のトロイ戦争だって本当にあったことなのだから、それより新しいヴァイキングの時代の北欧神話にも、真実の出来事が含まれているはず。その謎を解き明かすことは、シュリーマン以来の世界的な大発見に繋がる。彼はそんな風に考えていた。あながち空想の世界とは言えないところもあり、謎を読み解く過程にはワクワクさせられる。

 そのような訳でこの作品には、北欧神話の断片が色々詰め込まれている。シーグルという名前からして、ドラゴンを倒した北欧神話の英雄シグルズから来ている。ちなみにこの名前はドイツでは、ジークフリートとなり、「ニーベルングの歌」として物語が残っている。こちらのほうが有名かもしれない。彼らが向かう古代の地図が指し示していた場所は、湖に浮かぶ“オーディンの眼”という島だ。オーディンは、北欧の主神。片目は、ミーミルの泉の水を飲み、知恵を身に付け、魔術を会得した時の代償として失ったとされているので、この島の名前は意味ありげである。

また、主人公たちが遭遇する怪物は、ドラゴンというよりは、大蛇である。ラグナロク(世界の終末)に、海中から出現し陸に向かって進み陸地に洪水を起こした、ヨルムンガンドを想起させる姿である。元々オーディンが海に捨てたところ、ミズカルズ(人間の住むところ、中つ国とも訳される)を取り囲む形で、海底で巨大化したと言われている。そういう意味では、シーグルが解き明かす、大蛇を退治し島を征服しようとした古代ヴァイキングたちの物語は、武装船団でもって海を越え、他民族を侵略した彼らの歴史をも象徴するようで興味深い。

 もっともこの映画の中の大蛇は、そんな大袈裟なものではない。主人公たちを執拗に襲ってくる様子は、『ジュラシック・パーク』のT‐REXを思わせる。ただその怪物が、彼らを襲う理由がわかってみると、まるで神聖な場所を守る守り神のようにも思えてきて、そういう昔話には事欠かない日本人の我々にも親しみがもてる?存在となる。欲をかいた人間には罰が当たるみたいな発想が、きっと北欧にもあるのだろう。

それと、これは直接本作とは関係のないことなのだが、この物語から筆者は『100,000年後の安全』を思わず想起してしまった。オンカロに人を近付けないために、どうすべきか。何も示さず忘れ去られるほうがいい。いや、100,000年後の人類は今の言語はわからないから、危険を知らせる記号を示しておくべきだ。考古学者が、たかだか千何百年程度しか経っていない、古代ルーン文字を解き、謎に迫ろうとするとき、その魅惑から警告をそれと感じないことは、当然である。果たしてオンカロは大丈夫なのだろうか。『ラグナロク(仮題)』自体に、地球上には、我々が冒してはいけない神聖な場所があるというメッセージがあるので、そんな連想をしてしまったのかもしれない。




▼作品データ▼
原題:Gåten Ragnarok/英題:Ragnarok
監督:ミケル・ブレネ・サンデモーセ
出演:ポール・スヴェーレ・ハーゲン、ニコライ・クレーヴェ・ブロック
ビョルン・サンドクヴィスト
(2013年/ノルウェー/94分)
提供:インターフィルム
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