『スノーピアサー』ポン・ジュノ監督インタビュー:豪華キャスト実現の出発点は、ティルダ・スウィントンとジョン・ハート
『殺人の追憶』『グエムル‐漢江の怪物‐』『母なる証明』など、エンターテインメント性の中に人間の暗部を巧妙に潜ませた個性的な作品を発表し、世界的に高い評価を得てきたポン・ジュノ監督。一見ハリウッド映画かと見まがうような豪華インターナショナル・キャストで贈る最新作『スノーピアサー』が2月7日(金)日本公開を迎える。
2014年7月、地球温暖化を阻止するために散布された薬品が原因で、地球は深い雪と氷に閉ざされた“氷河期”に突入。生き残った数少ない人類は、唯一生存可能な場所となった「スノーピアサー」と呼ばれる列車内で暮らし、17年もの間、地球を周回し続けている。長い長い列車の前方では上流階級が贅沢な暮らしを謳歌。一方、後方車両には貧しい人々が押し込められ、劣悪な環境の下で残酷に支配されている。絶望的な状況にあってもなお、階層社会を形成する人間たち。そしてついに、最後尾車両のカーティス(クリス・エヴァンス)たちが反乱を起こし、前方車両を目指すのだが…。
物語はすべて列車という密室で展開する。そこにエヴァンスのほか、エド・ハリス、ジョン・ハート、ティルダ・スウィントン、ジェイミー・ベル、オクタヴィア・スペンサーといったオスカー級のスターたちが集結し、ポン監督作品の常連であるソン・ガンホや『グエムル~』で映画デビューを飾ったコ・アソンがキー・パーソンとして絡むという、映画ファン垂涎の作品だ。
キャストが多国籍になり、ポン監督の過去の作品と色合いは随分変わったが、観る者を不穏な気持ちにする演出は相変わらず冴えている。登場人物の心の深淵、秘密をかさぶたを剥すように晒していく変態的な“らしい”要素も健在だ。
本国・韓国はもちろん、フランスでも大ヒットを記録。世界からの注目も更に高まり、今月6日~16日に開かれるベルリン国際映画祭にも異例の出品が決まった。来日したポン監督に、この作品に込めた思いを伺った。
--原作はフランスの名作コミック『Le Transperceneige』 ですが、これを映画にするに当たり、脚本化で一番こだわられたところは?
監督:コミックと最初に出会ったのは2005年1月でした。その後、06~09年にかけて『グエムル‐漢江の怪物‐』があり、『TOKYO!<シェイキング東京>』や『母なる証明』も撮ったので、脚本にとりかかったのは2010年です。1年かけて脚色をしました。
人類の生き残りが走り続ける列車に乗り、外は凍りついているという、非常にユニークで偉大な世界観と発想が原作にはありました。それをどのように2時間の映画として、最初から最後までパワフルに映画的な構造を作り出していくのかということを考えながら書きました。
シナリオでは、物語の構造が列車の車両の並びと一致しています。つまり、クリス・エヴァンス演じるカーティスが後方から前方へ突き進んでいく過程で、植物館の次は水族館という風に、それぞれの車両が登場します。実際に列車のセットも同じ順番で作りました。映画の中で、クリスは前に行ったり、後ろに戻ったりはしないですよね。一直線で貫通する。その空間的な構造を考慮しながらシナリオを書いていったのです。列車の構造を作る作業というのは、シーンのリストを作る作業でもありました。
--オスカー俳優も多数参加しているハリウッド映画でも不可能なほどの豪華キャストです。これが可能になったのはなぜでしょうか?
監督:最初から華やかなキャスティングを目指したのではありません。監督としては、演技の上手い俳優、キャラクターにいち早く溶け込んでくれる俳優を探したいですから。
キャスティングが上手くいったのは、出発点が良かったからですね。それはティルダ・スウィントンとジョン・ハートです。
2009年、ティルダが釜山映画祭に来た時に「『グエムル』のファンで家族と何度も観ている」と語ったインタビュー記事をたまたま読んで、とても嬉しく思ったんです。僕もティルダのファンでしたから。俳優と監督というものは、互いにファンだと確認した瞬間、武装解除されたように心が開くのです。そして2年後、カンヌ国際映画祭で実際にお目にかかりました。会ってすぐに打ち解けて食事をご一緒し、ちょうど『スノーピアサー』を準備中だったので、「必ず一緒にやりましょう」ということで握手を交わしました。ところが、執筆中のシナリオの中に彼女のやれる役がなかった。そこで、当初中年男性の設定だったメイソンという役を女性に変えて彼女にオファーしたところ、大変気に入ってくれたんです。
ジョン・ハートとは別の仕事でロンドンに行った時にお会いしました。彼も映画祭で『母なる証明』を観てとても気に入っていたということで、すぐに意気投合し、本作への参加が決まりました。ティルダとジョンといえば、業界でも俳優たちの尊敬を集める俳優です。そんな2人がこのプロジェクトに参加しているという話が広まったことで、他の俳優たちの参加も非常にスムーズに決まっていきました。
--クリス・エヴァンスが好演していましたが、これまでの彼の印象とは違う役どころですね。彼を選んだ理由を教えてください。
監督:クリスについては、『キャプテン・アメリカ』や『アベンジャーズ』のマッチョなスターで、大作映画に出演している俳優というある種の偏見をもたれていると思います。でも彼は、そうした大作の合間に、『パンクチュア 合衆国の陰謀』<日本未公開>や『THE ICEMAN 氷の処刑人』といったインディペンデントの作品で独特なキャラクターを繊細に演じています。クリス本人もそういう作品を探し求めているタイプの人で、先に『スノーピアサー』のシナリオを取り寄せて読んでいて、彼の方から連絡があったんです。そうして、会ってからはとんとん拍子に話が進みました。
アメリカでテスト・スクリーニングを行ったときに、映写技師の人が映画が始まって20分経っているのに、「クリス・エヴァンスはどうして出てこない?」と聞いたというエピソードがあるくらい彼の姿がイメージとがらりと変わっていて、そうした観客の反応を私もクリスもとても喜んでいいます。暗い過去を抱え、哀しい痛みを持った人物を見事に演じていたと思います。
--ティルダ・スウィントンはすごく奇抜なキャラクターを創り上げていましたね。撮影の舞台裏は楽しいものだったのではないでしょうか?
監督:初めて会ったときティルダとは、「メイソンという人物のテーマは“トランスフォーム(変形)”である」ということで意見が一致しました。ある意味、彼女は「スノーピアサー」の創造主であるウィルフォード(エド・ハリス)の“道化”なんです。後方車両の人々は先頭の車両に行かなければウィルフォードに会えないので、絶えずメイソンを通じてウィルフォードの話を聞くことになる。メイソンが実は彼の道化だという設定であれば、メイクもするし仮面を被りもする。そういったところから、アプローチから始まりました。
最初の衣裳テストのとき、ティルダの方から「私の家でやりませんか?」という提案があり、私と衣裳デザイナーとプロデューサーとでスコットランド北部の田舎町にある彼女の家に行ったんです。スコットランドの手料理も振舞ってもらったのですが、「さあ、これからショーが始まるわよ!」と言うティルダの扮装ショーを一日中見ることになりました。アクセサリーやおかしなメガネといった彼女の家にある物すべてを動員し、私たちが持って行った小道具とミックスしてありとあらゆる試みをその場で見せてくれたんです。彼女が飼っている5頭の犬がその回りをずっとウロウロしていました(笑)。振り返ってみると、この映画のプリプロダクションの中で、あの日が最も楽しい1日だったと思います。
--最近の韓国映画では、痛みの伝わる振り切れたアクションシーンが多い気がします。本作でも非常に激しくて凄惨なアクションシーンが印象に残っていますが、今回こだわられたところは?
監督:列車の中でオノで戦うという光景そのものが珍しい、変わったシーンですよね。列車という狭くて長い空間で、飽和状態となった人の体と体がぶつかり合うアクションが展開していきます。この映画はSFですし、未来の列車を描いてはいるのですが、その中で展開する戦いは、あくまで原始的に描いていこうという当初からのコンセプトがありました。
ハイライトといえるのが、中盤にオノで戦うシークエンス。刀や、挙句の果てには松明まで登場し、原始部族の戦いのようにも見えます。撮影は実際、照明をつけずに松明の明かりだけで行いました。何か心臓がドキドキするような興奮を味わいましたね。このエネルギーは、突き詰めるとすべて、列車という空間があったから生み出されたのだと思います。一直線なので逃げ道がない。前に進んでいく人と、防ぐ人。彼らは正面衝突を避けられないので、逃げ場がないというところから生じるもの凄いエネルギーがあると思います。
また、列車というものはクネクネと動き続けます。橋を渡ったり、トンネルをくぐったり。そこから来る興奮も、まさに列車アクションならではの魅力ではないでしょうか。
--ここまで大規模なインターナショナル・キャスト&スタッフとの仕事は初めてだと思いますが、経験されてみていかがでしたか?
監督:国際的な映画を撮るからといって、映画の作り方が変わるわけではありません。規模が大きいからといって特に変わったこともなく、これまで通りのやり方で進んでいきました。良い通訳さんがいれば、スムーズに進行していくものなのです。これまでにも、『グエムル~』ではアメリカやオーストラリア、ニュージーランドの特殊効果チームと、『TOKYO!<シェイキング東京>』では100パーセント日本のスタッフ・俳優たちと仕事をした経験がありますから、今回のプロジェクトが馴染みのないものだとは感じられなかったですね。
全世界の映画人、特にスタッフは本当にみな同じですね。遠くから見て、「あれは照明部だな」と思うとその通り照明部だったり、撮影が押すと疲れたり。同じ人間であり、スタッフであり、みんな本当に映画を愛していて、まったく違いはないということを感じました。
Profile of Bong Joon-Ho
1969年9月14日生まれ。韓国・ソウル在住。2000年、監督・脚本を務めた劇場長編映画デビュー作『吠える犬は噛まない』で一躍注目を浴びる。03年『殺人の追憶』が大ヒット。06年には当時の韓国歴代観客動員記録を塗り替えた『グエムル‐漢江の怪物‐』を発表し、韓国を代表する映画監督となる。08年にミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックスとともに『TOKYO!』に参加。香川照之、蒼井優らをキャストに迎え、三部作の1編『TOKYO!<シェイキング東京>』を東京で撮影した。09年『母なる証明』はカンヌ国際映画祭・ある視点部門に出品されたほか、国内外で高い評価を獲得している。
▼作品情報▼
『スノーピアサー』
英題:Snowpiercer
監督:ポン・ジュノ
出演:クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ、ティルダ・スウィントン、オクタヴィア・スペンサー、ジェイミー・ベル、ユエン・ブレムナー、エド・ハリス
原作:「LE TRANSPERCENEIGE」 ジャン=マルク・ロシェット、ベンジャミン・ルグランド、ジャック・ロブ
脚本:ポン・ジュノ、ケリー・マスターソン
配給:ビターズ・エンド、KADOKAWA
2013年/韓国、アメリカ、フランス/125分
©2013 SNOWPIERCER LTD.CO. ALL RIGHTS RESERVED
2月7日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国にて公開
公式サイト http://www.snowpiercer.jp/
公式Facebook https://www.facebook.com/snowpiercer.jp
公式Twitter @snowpiercer_jp
2020年2月17日
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2020年3月9日
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