「100歳の少年と12通の手紙」余命12日の少年が教えてくれる、人生のヒント ： 映画と。

監督は『地上5センチの恋心』のエリック=エマニュエル・シュミット。自身のベストセラー小説「Oscar and the Lady in Pink」の映画化に自らメガフォンをとった。10歳の少年オスカーはいたずら好きの男の子だが、白血病を患って残り12日の命。悲しみに暮れる両親は少年に本当のことを言えず、周囲の大人たちも腫れ物に触るように接するばかり。そんなオスカーの前に現れたのはデリバリーピザ屋のローズ。「失せなガキ！」と叫ぶ口の悪い中年女性になぜか魅了されたオスカーは、彼女にだけ心を開くようになる…

 10歳の少年に残された時間はあと12日…誰もが目を背けたくなるけど、オスカーにとってはそれが現実。じゃあ、どんなふうに残りの数日を生きればいい？「12日」と口を滑らせ、オスカーに余命を教えてしまったローズは、「1日＝10年」と考えることを提案する。恋をする思春期、責任の30代、困難の降りかかる40代…年代を増すごとに少年はその年代に即した悩みを抱え、人生を考え、毎日手紙にしたためる。オスカーは10歳の子供ではなく、大人の人間に日々成長し、天寿を全うするのだ。

何と言っても魅力的なのは、主人公を見守るローズ（ミシェル・ラロック）だ。ピザの箱を両脇に抱えながら、ショッキングピンク色の服に身を包んで病院にやってくる姿は病身のオスカーとは真逆の存在で、生命力そのもの。彼女の放つ辛辣な言葉も、嘘のつけないストレートな彼女の性格を表していて、聞いていて心地よいほどに憎めない。だからこそオスカーは彼女を信じられる人間と思ったはずなのだ。「神様は僕に罰を与えたの？」と問うオスカーに、病気や死は罰じゃなくて単なる事実。私もあなたの両親もいつか死ぬ」と語る。彼女自身も神様のように達観できているわけじゃないし、問題も抱えている。しかし、この短い時間の中で彼女なりの人生のアドバイスを少年に与える。親や医師ではない、赤の他人だからこそ、できることもあるのかもしれない。

主人公が難病にかかったり、死期の迫った人間の姿を描く作品は数多くある。けれど、本作は「お涙ちょうだい」的なドラマではないし、主人公は残りの人生を自分らしく生きようと行動できる「大人」でもない。少年が死ぬまでの間に劇的な何かやミラクルが起こるわけでもない。…オスカーは「人は、年をとればとるほど人生を味わうセンスが必要になる」と語る。本作は、まさに人生を歩むのに必要な気づきを、見る者にちょっぴり教えてくれている。ファンタジックでユーモアにあふれていながら、どこかスパイスの効いている、そんな愛すべき映画と言えるだろう。

Text by　外山　香織

オススメ度★★★☆☆

製作国：フランス　製作年：2008年
【監督・脚本・原作】エリック=エマニュエル・シュミット
【出演】ミシェル・ラロック、アミール、マックス・フォン・シドー、アミラ・カサール、ミレーヌ・ドモンジョ

(C) 2008 Pan-Europeenne-Studiocanal-Oscar Films-TF1 Films Production-Cinemaginaire-RTBF(Belgian Telecision)

「100歳の少年と12通の手紙」公式サイト