リヴ&イングマール ある愛の風景

ふたりの愛が辿りついた場所

Behind the Scenes Persona同棲解消後、しかもお互いに伴侶がいながらも生涯親しい間柄にあったという点で、スウェーデンの偉大な監督イングマール・ベルイマンとリヴ・ウルマンの関係には、何か理解し難いものを感じていた。アーティストというのは、平凡な我々の感覚とは所詮違うのだと…この作品を観るまでは。

このドキュメンタリーでリヴ・ウルマンに要求されたのは、わずか2日間のインタビューと彼女による自身の本の朗読、それだけである。それにも関らず、ふたりの物語を劇映画のように映像で観ることができたという印象が残る。この作品がふたりの暮らしたフォール島の家で撮影されており、当時のスティール写真や、貴重な記録ムーヴィーが挿入されていこと。また、本作で挿入される『狼の時刻』『恥』『沈黙の島』の三部作の主演が、いずれもマックス・フォン・シドウとリヴ・ウルマンであり、特にフォン・シドウが、ベルイマンの自画像の役割を担わされていることもあるのであろう。

サブ2ベルイマンは、フォール島に家を造る。外界から遮断されたふたりだけの世界。その時、49歳と28歳。20代の女性には、かなりしんどい状況である。彼女が幸福を感じながらも、やがて孤独になり追い詰められていくのも無理はない。娘が生まれる。リヴはベルイマンと子供との間で板挟みになる。そして彼の嫉妬が始まる。リヴは、彼の人生を支配することが自分の安全と考え、自由を捨てて彼の領分に入る。エゴとエゴのぶつかり合い。こうしてふたりの仲は修復不能になっていく。それでも彼女は「彼の欠点や弱さが見えるようになった。理解や尊敬は高まった。賢いけれど、うぬぼれやのエゴイスト。同時にこれが愛だと感じた」と語る。泥沼になる前に、まだお互いに未練を残しながら、まるで旅行にでも行くようにして、リヴはベルイマンの元を去っていくのである。

「恋」「孤独」「怒り」「痛み」「渇望」本作の章の冒頭についているタイトルは、まるでベルイマンの作品テーマのようである。愛が苦悩の元になり、エゴを生み、孤独に落ち込んでいく。それでもリヴは「互いに自分をさらけ出した。人間同士として魂で結びついた」はっきりとこんな風に言い切る。馴れ合いではない、真剣なふたりの愛、こうした中からベルイマンの作品もまた生まれてきたのであろう。別れた後も、親友としての関係が築けたのは、思いを残したまま別れたということだけでなく、この時の「魂の結びつき」の感覚が残っていたからに違いない。

サブ1『ある結婚の風景』で別れたふたりが再会するシーンが挿入される。「私もあなたを愛していると思う?」「うん、思うよ。でも“話し”をすると壊れてしまうと思う」論理ではなく、魂の結びつきと言ってもいい別の何かが二人を結びつけている感覚。この穏やかさは、まるで後年のベルイマンとリヴを見るかのようである。『ある結婚の風景』は、テレビを見るために帰宅する人たちの車の列で交通渋滞が生じたという。こうした事実、そしてこのドキュメンタリーを観ていて気が付くのは、彼らが特別な存在ではなく、私たちとさほど変わらない、ただ私たちより少し繊細で、真剣だった一組のカップルであったということである。彼らの中に私たちもあるということ、ここにベルイマン映画の普遍性と、今日までの人気の秘密を見た思いがする。



▼作品データ▼
原題:Liv & Ingmar
監督:ディーラージ・アコルカール
製作:ルネ・H・トロンソン
脚本:ディーラージ・アコルカール
撮影:ハルバルド・ブレイン
キャスト:リヴ・ウルマン
     イングマール・ベルイマン
製作2011年/ノルウェー・スウェーデン・イギリス
・チェコ・インド合作/84分
提供、配給:ブロードメディア・スタジオ
公式ページ:http://livingmar.com/
(C)NORDIC STORIES 2012
12月7日(土)よりユーロスペース他全国順次ロードショー