【TIFF】4枚目の似顔絵(台湾電影ルネッサンス2010~美麗新世代) 

孤独な少年が学んだこと

4枚の似顔絵(第23回東京国際映画祭・台湾電影ルネッサンス2010~美麗新世代)

少年の父親の死のシーンからこの映画は始まる。父親の眠る青白い病室に対して、その四角い小さな窓から見える外の世界は、木々が萌え小鳥がさえずる生の空間。生と死が、この小さな窓、壁一枚を隔てて明確に分かれているのが見て取れる。

父親を亡くした少年が、川で洗濯をしていると、シャツが流され、トンネルに入っていく。少年は洗濯物を追いかけてその暗いトンネルに入っていく。大丈夫なのだろうか、自分も流されてしまわないだろうか、そんな心配をしていると、まもなく彼は汚れてしまったシャツを抱えてこちら側に戻ってくる。まだ幼い子供は、あちら側の世界とこちら側の世界の中間にいるなどと言われることがある。それゆえ大人には見えないものが子供には見えると。暗いトンネルの中に入って行った少年の姿を見ていて、そんなことが思い起こされた。

タイトルの『4枚目の似顔絵』は、少年が父親の死の直後から、母親にひきとられて生活するうちに描いた4枚の似顔絵からきている。4枚目の似顔絵は、画面に映し出されることはないのだが、少年にとってはとても重要な意味を持つので、このタイトルになっている。

3枚の似顔絵には、すべて死の匂いがつきまとっている。特に3枚目の似顔絵は、長いこと行方不明になっている少年の兄が、薄暗い海辺を歩いている暗い絵。この絵は彼が生と死の境目を歩いているかのような印象を与える。また、それと同時に少年自身が置かれている場所をも暗示している。母親にひきとられても、義理の父親からは邪魔者扱い、暴力に怯える日々を過ごす少年。彼には、死の危険が迫っている。

そんな彼を救うのは学校の用務員のおじさんだ。彼自身も戦争中に両親を亡くし、ひとり上海から台湾に渡るというむごい経験をしてきている。少年に自分の幼い日々を重ね合わせる部分もあり、放ってはおけなかったのだろう。そのうえ少年の家族もまた、台湾人ではなく上海出身というではないか。言葉に親近感もある。彼は、学校の先生が教えてはくれない人生の経験を少年に惜しみなく与える。そんな大人がひとりいたからこそ、実は周りの大人たちもまた、ちっぽけで悲しい存在であることを、少年は理解するようになる。4枚目の似顔絵は自画像、どんな絵になるのかは示されないが、そこには自分をちゃんと見つめられる、こちら側の世界にしっかりと足をつけた少年の姿がいるのではないかと想像した。

おススメ度:★★★★☆Text by 藤澤 貞彦

原題:第四張畫
監督:チョン・モンホン
脚本:トゥー・シァンシー
制作:2010年/台湾/103分
出演:ピー・シャオハイ、ハオ・レイ、レオン・ダイ、テリー・クアン

公式サイト:東京国際映画祭公式サイト

コピーライト:©Cream Production

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