【TIFF】流れ犬パアト(アジアの未来)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

監督:アミル・トゥーデルスタ
出演:モスタファ・ササニ、サイード・ソヘイリ、ソニヤ・サンジャリ、ネガル・ハサンザデ、ジャムシド・ヌリ、マンダナ・ノスラティ、ファヒメ・ダッバギ、ババク・ハミディファルド

作品解説(公式サイトより)
飼い主が殺されて宿なしになった犬のパアトが大都会をさまよう。犬の目を通して人間社会の光と影を照射した新感覚イラン映画。パアトの名演は特筆もの! トゥーデルスタ監督は31歳の新鋭。

犬を飼うことが禁止されている町で、妻とのトラブルを抱える男が飼っている犬の名はパアト。トラブルの末に男は殺される。パアトは家を飛び出して都会をさまよい、様々な人々との出会いと別れを繰り返していく。そこから浮かび上がる人間社会の光と影…。イラン映画といえば、子どもを主人公に据えて社会を批評的に観察する諸作品が有名だが、本作は物言わぬ動物の目を通してそれを行っている。移動のたびに車窓から外を見つめる場面をはじめ、パアトの名演技は特筆もの。トゥーデルスタ監督は、かつてキアロスタミやナデリも所属していたイラン青少年映画協会でキャリアを開始し、CMディレクターとして名を揚げた若手。本作にはイラン社会の矛盾が反映されていると語っている。


クロスレビュー

モフモフした茶色い毛並みと太いしっぽを持つ、人懐っこい大型犬パアト。優しく、おとなしく、どこか心細げなパアトが流れて行く先で出会うのは、そのほとんどが、どんなに努力しても社会の仕組みによって追い込まれてしまう底辺の人々だ。貧富の差、女性たちのおかれた立場。犬の視点を通して淡々と描かれるイランの現実にショックを受ける。車の窓から顔を出して、流れる景色を追う不思議そうなパアトの表情。あの子の心には、人間の世界はどう映っているのだろう。
(北青山レオ/★★★☆☆)

主人の突然の死によって野良犬になってしまったパアト。人から人へ、街から街へと旅生活が始まる。どこに行っても厄介払いされるパアトを最初は同情的な目で見ていたけど、途中でアレっ?と気づかされる。パアトが見ている人間社会もたいして変わらないのではと。いや、嘘や裏切りのない犬たちの方がまだマシなのかも。絶え間なく行き交う車の流れや工場の煙突から出続ける煙を見ながら、賢いパアトは案外「人間って哀しいな」なんて思ってるかもしれない。
(鈴木こより/★★★☆☆)

塀の中では穏やかな日常が流れていた。が、優しい飼い主さんの死でパアトの運命は変わる。彼が近づく人間たちは、不幸な人ばかり。まるで自分と同じにおいのする人を嗅ぎ分け選んだかのように。最初は詩を奏でていた暗転する映像も、これ以上描写不能という意味に役割を変える。中絶、臓器売買、麻薬、売春。女性の受難が中心なのだが、よくもこれほど詰め込んだこと。犬は、その度に汚れていく。最後まで犬の視点を貫けば、描写に余裕が出来たはず。それが残念だが、ここまでイランの暗部を描けたのは、政権が代わりイラン映画に春が近付いたことの証か。
(藤澤貞彦/★★★☆☆)


© Amir Toodehroosta
80分 ペルシャ語 Color | 2013年 イラン |

上映情報
▼TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen1
10/22 18:45 – (本編80分)
登壇ゲスト(予定): Q&A: アミル・トゥーデルスタ(監督/プロデューサー/脚本/衣装)

▼TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen1
10/24 20:45 – (本編80分)
登壇ゲスト(予定): Q&A: アミル・トゥーデルスタ(監督/プロデューサー/脚本/衣装)


第26回東京国際映画祭
期間:2013年10月17日(木)〜10月25日(金)9日間
場所:六本木ヒルズ(港区)をメイン会場に、都内の各劇場及び施設・ホールを使用

公式サイト:http://tiff.yahoo.co.jp/2013/jp/tiff/outline.php