【TIFF】オルドス警察日記(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

監督:ニン・イン
出演:ワン・ジンチュン(王景春)、チェン・ウェイハン(陈维涵)、スン・リャン(孙亮)、ホウ・イエンスン(候岩松)、バイ・ボー(白波)、チャン・ジエ(张杰)、ユアン・リージエン(袁利坚)

作品解説(公式サイトより)
内モンゴルのオルドス市で、ひとりの警察官が死ぬ。彼のキャリアを振り返ると、そこには驚きの実像があった…。実在した人物の足跡を、中国を代表する女性監督のひとりであるニン・インが骨太のドラマとして丹念に映画化。

アクション・コメディ、センチメンタル・ストーリー、そしてファミリー映画など、近年はバラエティに富んだ作品を手掛けていたニン・イン監督が、骨太の社会派人間ドラマに正面から取り組んだ意欲作である。『無窮動』(05)で中国映画における中国女性像を変えたと評されるニン監督であるが、本作では内モンゴルのオルドス市を舞台に、男の中の男のような警察官の生き様を描き、彼のまっすぐな姿に中国現代史を照射することで、その急成長の裏にある矛盾を現出せしめようという試みに見事に成功している。ニン監督は、1993年の『北京好日』で第6回東京国際映画祭「ヤングシネマ・コンペティション」部門の最高賞を受賞している。


クロスレビュー

「今でも夢の中でさえ、夫を待ち続けているのです」映画の中にも出てくるこのセリフは、監督自身が、実在の人物から直接聞いた言葉だという。確かにハオ・ワンチョンという人物は、実直で正義感に溢れる人物なのかもしれない。ただ、家族がまだこのような気持の段階で伝記映画を作れば、やはり描けることも限られてくる。おまけに公安がこの作品に全面協力しているとなると、彼の周囲の悪が描けない。その組織の中で彼が感じていたプレッシャーまでは当然描けない。オルドス自体がかなり問題の多い街であるだけに、私たちは、最大限の想像力を掻き立てながら、この作品を観るしかなくなってしまう。
(藤澤貞彦/★★☆☆☆)

公安に依頼されたジャーナリストの目線で、英雄と称えられた警察署長の実像に迫っていくという物語。公安の存在があるだけに本作がどこまで真実を語っているのか、という点で疑問が残るが、彼が残したエピソードの数々には引き込まれてしまった。地元の有力者との駆け引きや、土地開発に立ちはだかる闇の人物の逮捕劇など、スリリングな描写のなかに中国の現状が見えてくる。なぜ、彼は死ぬまで自分を仕事に追い込んだのか。画面に映し出される妻の怒りの沈黙が、ある意味、ひとつの真実を語っているようにも見えた。
(鈴木こより/★★★☆☆)

実在した人物を描くと言うのは難しいと私は思う。伝記ものは珍しくないし、最近でもFDR、ダイアナ妃、ジョブズが映画化されているが、既出の事実を並べても盛り上がりにはならない。歴史の記述方法に編年体や紀伝体、紀事本末体などがあるように、「年」「人」「事」のどれに焦点を当てるかで言えば、本作は男の警察官人生を描くよりも、彼が扱った一つの「事件」をフォーカスした方がより厚みが出たような気がする。にしても国家や公安、遺族の存在など様々な制約の中での映画製作は苦労も多かったのではないだろうか。限定された条件でいかに「自分」を出すか。もがき苦しむ創作者は昔も今も存在するのだと思う。
(外山香織/★★☆☆☆)


© Inner Mongolia Blue Hometown Production Co., Ltd.
113分 北京語 Color | 2013年 中国 | 

上映情報
▼TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen7
10/19 17:45 – (本編113分)
登壇ゲスト(予定): Q&A: ニン・イン(監督/脚本)、ワン・ジンチュン(俳優)、チェン・ウェイハン(女優)

▼TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen6
10/21 14:20 – (本編113分)
登壇ゲスト(予定): Q&A: ニン・イン(監督/脚本)、ワン・ジンチュン(俳優)、チェン・ウェイハン(女優)、ニン・ダイ(脚本)


第26回東京国際映画祭
期間:2013年10月17日(木)〜10月25日(金)9日間
場所:六本木ヒルズ(港区)をメイン会場に、都内の各劇場及び施設・ホールを使用
公式サイト:http://tiff.yahoo.co.jp/2013/jp/tiff/outline.php