【LBFF】グロリア(邦題:グロリアの青春)
劇場公開タイトル『グロリアの青春』2014年3月1日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国ロードショー
今年のラテンビート映画祭は、チリ出身のセバスティアン・シルバ監督作品が3本も入っている。『クリスタル・フェアリー』『家政婦ラケルの反乱』『マジック・マジック』。その上『NO』『グロリア』もチリの作品である。この2作品では、ピノチェト独裁政権の前と後、この国の変化が見て取れるのも興味深い点である。
さて、本作の主人公は、グロリア…栄光という意味の名前を持つ58歳の女性だ。その名前とは裏腹に彼女は、12年前に離婚し、子供はすでに独立、毎日仕事場とアパートメントを往復するだけの寂しい生活をしている。もう若くはない。かといって、年寄りでもない。ときめきを求めて行ったお見合いパーティーで、グロリアは7つ年上の元海軍将校ロドルフォと出会う。年は上だが、子供っぽい無邪気さを残しているところに惹かれたのだろうか。ふたりは交際を始める。
この作品は、58歳の一人暮らしの女性の孤独を徹底的に見つめている。彼女の孤独とは、置いてきぼりにされたような感覚である。子供たちは別の人生を歩んでいる。夫と離婚したことで、付き合いが途切れた人たちがいる。子供と仕事で生きてきたこれまでの人生。ふと気が付いてみたら世界の大きさは変わらないというのに、自分の周辺だけが縮んでいってしまうような心持がする。それを象徴するかのように、視野が狭まる緑内障にもかかってしまう。遠くない定年の時、自分はどうなるのか焦ってしまうのも無理はない。そんなことからいい人をみつけようと行ったお見合いパーティー。だが履き慣れない靴を履いてこけてしまうのが、彼女の無理を象徴している。階下には、精神的に病んだ若者が住んでいて、いつも大声を張り上げている。「孤独だー惨めだ、助けてくれー」と。その若者の親に、うるさくて眠れないと苦情の電話を入れたグロリア。けれども彼の心の叫びは、彼女自身も感じていたことに違いない。それが余計に彼女の心を乱したのではかなろうか。
若い時のグロリアは、その名のとおり華やかで、美しい女性だったに違いない。化粧をして、きちんとした身なりをしている時の彼女は、それなりに華がある。けれども、監督は、彼女の本当の姿を容赦なく暴きだす。化粧を落とした後の、疲れ切った皺だらけの顔。それどころか衰えた肢体すべてを白日の元に晒させる。デートの前に70年代のディスコ調の曲にノリノリになりながら、脚の無駄毛を処理する場面も丁寧に写す。娘時代に戻ったかのような活き活きとしたさまが可愛らしくもあり、一方痛々しくもある。
なぜそんなところまで、彼女の外面、内面を残酷に写しだす必要があったのか。それは彼女自身が、そんな自分を認め、脱皮する過程を見せるためである。くだらない男との一時の甘い言葉、快楽も、子供に頼られたいという願望も所詮他力本願に過ぎないのである。心の問題を解決し、人生を前に進めることができるのは、所詮自分だけなのである。数々の廻り道をし、散々傷ついた末に見つけた自分の生き方だったからこそ、ラストにかかる70年代のヒット曲ウンベルト・トッツィの「グロリア」(ローラ・ブラニガンがカヴァーして全米でも大ヒット)はまるで彼女の再生を祝福しているようで、とても幸せな気分に浸ることができるのだ。
▼『グロリア(仮題)』作品情報▼
監督:セバスティアン・レイロ
出演:パウリナ・ガルシア、セルヒオ・エルナンデス
ディエゴ・フォンテシージャ
2013年/チリ・スペイン/105分
※2013年ベルリン国際映画祭女優賞、パウリナ・ガルシア
提供:株式会社RESPECT
配給:株式会社トランスフォーマー
(C)LBFF2013実行委員会
▼第10回ラテンビート映画祭開催概要▼
【東京】10月9日(木)~14日(月)
会場:新宿バルト9(新宿三丁目イーストビル9階)
【横浜】10月24日(木)~27日(日)
会場:横浜ブルク13(TOCみなとみらい6階)
【京都】10月17日(木)~20日(日)
会場:T・ジョイ京都
【大阪】11月8日(金)~10日(日)
会場:梅田ブルク7
公式サイト:http://www.hispanicbeatfilmfestival.com/