【LBFF】マジック・マジック

アリシアはいかにして、或いはなぜ壊れていったのか?

マジック・マジックアメリカからの留学生サラ、従姉妹で、カリフォルニアから初めて外国を訪れたアメリカ人のアリシア、サラの恋人アグスティンその友人たちが、離島の別荘でバカンスを過ごすことになる。アリシアは、内気で神経質、あまり外に出たがらない性質らしい。そこで、母親が従姉妹のサラに、部屋に閉じこもっている彼女をバカンスに連れて行くよう頼むという経緯があったようだ。ところが、サラは追試の連絡が入ったということで、そんな彼女を置いて、ひとり学校へ戻って行ってしまう。親しい友人サラの従姉妹だからということで、皆気を遣っているのだが、「なぜこんな子を連れてきたの」的なムードが仲間内に流れているのがわかる。これだけでもとても痛い状況なのだが、孤独感を募らせたアリシアは睡眠障害に陥り、次第に精神を病んでいってしまう。

 「この人たちはみんなおかしい」とるに足りない出来事が強迫観念となって、彼女を追い詰めていくという意味では『レベッカ』型のスリラーである。この作品では、音がとても重要な役割を果たしている。別荘に向かう車の中で間違ってかけてしまうCDの曲は、キャブ・キャロウェイの♪ミニー・ザ・ムーチャー。コットン・クラブの大スタアである彼のテーマ曲である。「ハイデハイデハイデホー!」の繰り返しが、ここでは呪術的な響きをもって聴こえてくる。カーステレオが壊れ、曲を止めることができないことで、これが別世界への入り口であり、もう後には引き返せないことが示されるのである。道中、子犬を拾ったのに、うるさいからと道端に捨ててきてしまうという事件が起きるのだが、その子犬の切なく啼き続ける声、別荘に着いた時外で不気味に鳴き続けていたカラスの声。神経に触るこれらの音は、「ハイデハイデハイデホー!」と呼応した音の繰り返しでもあり、アリシアの幻聴としてその後も続いていく。それと、もうひとつ彼女の精神状態を表しているのが、動物たちである。牧羊犬に追い立てられる羊たち、アリシアに近づいて来るや、彼女に向かってマウンティング行為をする犬。それは、それぞれ彼女の強迫観念、性的抑圧感を示しているといえる。

 それでは一体アリシアは、なぜこうなってしまったのか。遊び半分でかけた催眠術が彼女の更なる混乱を引き起こしたことは確かである。また睡眠薬、精神安定剤の摂取過剰ということも理由であろう。けれどもそれだけではない何かがある。彼女がこの地に来た時感じた不安感は、単に従姉妹から置き去りにされたことだけではない。暗闇に何かがいるような感覚は、明るいカリフォルニアの空に慣れた少女にとって、脅威となったはずだ。得体のしれない精霊の力が彼女に不安を与えたと言ってもいいかもしれない。後半インディオたちが登場すると、神秘的感覚が益々強くなる。そういった意味では、アメリカ文化の明るさと、チリの文化の暗闇。この違いが、彼女を狂わせてしまったという一面もこの作品にはあるような気がしてならないのだ。ちなみに本作は、アメリカではサンダンス上映後にパニックをおこす観客が多かったということで、一般公開が見送られたといういわく付きの作品である。アメリカ人には馴染めない感覚がやっぱりこの作品にはあるのだ。



▼『マジックマジック』作品情報▼
監督:セバスティアン・シルバ
出演:ジュノー・テンプル、マイケル・セラ
カタリーナ・サンディノ・モレノ
2013年/チリ・米/97分
(C)LBFF2013実行委員会


▼第10回ラテンビート映画祭開催概要▼
【東京】10月9日(木)~14日(月)
会場:新宿バルト9(新宿三丁目イーストビル9階)
【横浜】10月24日(木)~27日(日)
会場:横浜ブルク13(TOCみなとみらい6階)
【京都】10月17日(木)~20日(日)
会場:T・ジョイ京都
【大阪】11月8日(金)~10日(日)
会場:梅田ブルク7
公式サイト:http://www.hispanicbeatfilmfestival.com/

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