『ジンジャーの朝 さよなら、わたしが愛した世界』13歳のエル・ファニングがこの役で魅せた、たしかなもの

 エル・ファニングの表情から目が離せない。瑞々しさや透明感だけではない、主演女優としてのたしかな存在感に魅了された。とくに“瞳”の演技がいい。撮影時、エルは13歳。『タクシードライバー』のジョディ・フォスターや『レオン』のナタリー・ポートマンも運命の作品と出会い、鮮烈な印象を残したのが13歳の時だが、子役の俳優(とくに女子)にとってはターニングポイントとなる特別な年齢なのかもしれない。エルもこの貴重なタイミングで、この年頃の少女にしか出せない魅力を存分に映像に焼き付け、ただのヤング・セレブではないことを感性豊かな演技で証明している。

 舞台は1960年代、東西冷戦下のロンドン。キューバ危機で、時代の緊張感がピークを迎えていた頃、少女ジンジャー(エル・ファニング)も核の脅威に怯え、未来を憂いていた。物語はジンジャーの青春をベースに、少女の葛藤と成長、不安定な時代を生きた人たちのメンタリティを描く。
ジンジャーは同い年の親友ローザ(アリス・イングラート)といつも一緒で、ともに育ち、思春期を迎えていた。双子の姉妹のように一心同体だった二人の関係も、少しずつ変わり始めていく。同じ髪型にして、一緒に出かけても心の距離は広がるばかり。その頃のジンジャーは社会への不安から政治や思想に傾倒し、父親のいないローザは友情以上に愛情を求めていた。

 キューバ危機の時にちょうど13歳だったサリー・ポッター監督は、「本当に世界が終わってしまう」と感じていたという。不安な気持ちを詩につづるジンジャーの姿は、当時の監督自身の姿でもあるのだろう。少女たちの友情についても女性監督ならではの描写だ。仲睦まじく微笑ましい関係に少しずつ生まれる“違和感”というものが、とてもリアルに表現されている。無常感と真実味によって徐々に高まっていく緊張感。観る者はぐいぐいと引き込まれ、まさかの展開に衝撃を受けることになる。
この後の登場人物たちの行動は、はっきり言って理解を超えている。驚きとともにジリジリとフラストレーションが溜まっていくのを感じた。誰にも相談できずに、一人でどんどん窮地に追い込まれていくジンジャーにさえも、「なぜ、彼女はこんな不条理を受け止めようとするのか」と思わずにはいられない。悶々と考えながら、ようやくラストになって腑に落ちる。ジンジャーの詩にその答えが示されているのだが、不安定な時代を生きた少女の“たった一つの願い”に心震えた。

8月31日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー!

監督:サリー・ポッター
出演:エル・ファニング、アリス・イングラート、クリスティーナ・ヘンドリックス、アネット・ベニング、アレッサンドロ・ニヴォラ、ティモシー・スポール、オリヴァー・プラット、ジョディ・メイ
製作:2012年、90分、イギリス・デンマーク・カナダ・クロアチア
配給:プレイタイム
公式サイト:http://www.gingernoasa.net/
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