最後のマイ・ウェイ
華やかで、わがままで、熱気に溢れたフランスのスーパースター、クロード・フランソワ。日本ではあまり知られていない人だが、彼の起伏に富んだ人生を描き、魅力的な歌とダンスのパフォーマンスいっぱいのこの映画は、クロード・フランソワを初めて知る人にも昔からのファンの人にも親しみやすく楽しめる伝記映画となっている。
この映画は、クロードが作曲し、後にポール・アンカが英詞をつけた、フランク・シナトラの「マイ・ウェイ」という曲がモチーフとなっている。日本ではおっさんが唄うと嫌われるカラオケ曲の第一位の栄冠(?)に輝く曲なのだが、ちゃんとシナトラ本人のを聴けば、起伏の小さい序盤から一転して盛り上がる終盤がドラマチックな曲で、後悔したり大切なものを無くした事もあったが決して諦めず自分らしく生きたという歌詞が胸に沁みる名曲だと改めて思う。そして、クロードの人生とはまさにその様な人生であったと思うのだ。
この映画で描かれるクロードは、人格者でも何でもない人間臭い男だ。固い考えの父との不仲、ギャンブル癖のある母親を持つ悩み、妻や付き合った女性への嫉妬やストーカー行為と浮気の数々、宣伝のためにライブ中に失神した振りをしたり、果ては隠していた息子の存在までも宣伝に利用する狡猾さ。まあ忙しい人物である。しかしこれは裏を返せばそれだけエネルギッシュな人だという事でもある。
とにかくクロードは、いろんな事を諦めない。売れなくても売れなくても必死に自分を売り込む。売れた後でも飽きられないために新しいスタイルに挑戦し、自分を変える事を厭わない。好きな女性に何度断られても諦めない。音楽活動だけでは飽き足らず、経営者になって会計のチェックまでしたり雑誌を出版したりする。これら全てを一人の人間がやれる事に驚いてしまう。そんな人生で、彼は失敗も数多くした。しかし、何かを諦めて立ち向かわなかった事はひとつもなかっただろう。これはまさに、「マイ・ウェイ」という曲の歌詞そのものの人生じゃないだろうか。元々はただの失恋ソングだったこの曲が、他人の手によって別の詞がつけられ、それが彼の人生そのものの曲になった。そんな風に考えると、例え失敗が時々あったとしても、一生懸命な人には何かの縁というか不思議な作用が人生には働くのかなと感じて、人間臭いクロードが愛おしく思えてきた。
この映画は、悲しいシーンや不幸な場面もあるのだが、フランスの60~70年代当時のステージやファッションや芸能界の華やいだ雰囲気が感じられるとともに、クロード・フランソワがいかにフランスの人達に愛されたスターだったかがよく分かる。シナトラファンの筆者としては「マイ・ウェイ」という曲も再評価されればと願うが、それ以上に日本であまり知られていないクロード・フランソワというスターが日本で再評価されればと願う。
▼作品情報▼
監督:フローラン=エミリオ・シリ
出演:ジェレミー・レニエ、ブノワ・マジメル、モニカ・スカティーニ、サブリナ・セイヴク、アナ・ジラルド、マルク・バルベ
7月20日よりBunkamuraル・シネマ他、全国順次ロードショー
© Tibo & Anouchka
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
公式サイト:http://www.saigono-myway.jp/