【上海国際映画祭 その2】「最近の日本映画は知らない」:日本の映画俳優=高倉健さんの普遍と、ドラマから生まれた新スター

 上海国際映画祭(6月15日~23日)のメイン会場となった映画館「上海影城」のロビーには、上映スケジュール表が大きなパネルで設置され、チケットが完売した作品には「満」と書かれたシールが貼られていく。そこで気がついたのは中国プレミアとなる海外のコンペティション部門作品よりも、回顧展や国内外で既にヒット済みの作品の売れ行きが良いということだ。日本の映画祭では、「初めて紹介される秀作が観たい!」とコンペティション部門の作品の人気が高いが、こちらは少々事情が違う様子。意気投合した地元大手新聞の文化担当記者にそう伝えると、「だって、映画祭は過去の名作をスクリーンで観られる滅多にないチャンスでしょう?」だそう。「プレミア上映の映画は面白いかどうか分からないじゃない」という意見も。外国映画の年間輸入本数に制限がある中国では、映画館にかかるハリウッド大作でない限り、映画ファンの多くは海賊版DVDで外国映画に触れている。もちろん違法行為だが、他に方法のない中国ではそれが現実。「一度スクリーンで観てみたい」という渇望は自然なものだろう。

記者会見に出席したコンペ出品作『爆心 長崎の空』の北乃さん(左)と日向寺監督

 これは日本映画に対しても同じだ。映画祭の一環として中国でも有名な小津安二郎作品の回顧展が開かれたが、『東京物語』と『秋刀魚の味』は特に人気で、チケットは早々にソールドアウト。やはり同映画祭内で開催された「2013上海・日本映画週間」のオープニング作『東京家族』(山田洋次監督)も、『東京物語』をモチーフにしているとして満席の盛況だった。
 コンペティション部門には、日本から唯一、日向寺太郎監督の『爆心 長崎の空』が出品され、カンヌで男優賞に輝いた柳楽優弥さんが出演しているということで、映画ファンからは注目を集めていた。公式上映にあわせて行われた舞台挨拶では、NHK・Eテレで放送中の『テレビで中国語』にも出演している主演の北乃きいさんが中国語で「小龍包が好き」とコメント。中国語を学んで使おうとしてくれる相手は心から応援してくれる中国の人々。北乃さんもしっかり上海っ子の心をつかんでいた。

 さて、中国で「いま人気の日本の“映画俳優”は?」と聞くと、いつもきまって「高倉健」という答えが返ってくる。今回も取材に訪れていた現地のマスコミ関係者に同じ質問をしたが、やはり「高倉健」という答えは鉄板。しかし、「映画俳優ではないけれど……」と前置きした上で、高倉健さんに並び100%の確率で上がった名前が若手俳優の古川雄輝さんだ。日本ではまだブレイク前の古川さんだが、CS放送フジテレビTWOで深夜に放送されたドラマ「イタズラなKiss~Love in TOKYO」が中国で大人気に。第10話からは日本のドラマとしては初めて中国で同日配信され、その人気に拍車をかけた。
 古川さんの微博(中国版ツイッター)への書き込みには毎回1万~2万コメントがつき、今月21日には日本人俳優としては初めてのファンミーティングを上海で開く。中国でのこの熱烈歓迎ぶりには、日中間の政治の冷え込みなど微塵も感じない。そういう意味では、「映画俳優」として高倉健さん以外の名前が上がらない現状は残念。相互理解のきっかけとして、やはりエンターテインメントの力は絶大だ。「最近の日本映画はほとんど知らない」という現地記者たちの言葉が耳に残る。



爆心 長崎の空


 
原作:『爆心』(文春文庫刊)
監督:日向寺太郎
出演:北乃きい、稲森いずみ/柳楽優弥/北条隆博、渡辺美奈代/佐野史郎/杉本哲太、宮下順子、池脇千鶴、石橋蓮司
配給:パル企画
2013年/日本/98分

オフィシャルHP http://www.bakusin-movie.com

7月20日(土)より東劇ほか全国ロードショー

(C)2013 「爆心 長崎の空」パートナーズ