【上海国際映画祭 その1】ハリウッドを呑み込む“昇り龍”の勢い
この『小時代』と同様に、アンディ・ラウ主演、リン・チーリン共演のアクション大作『天機-富春山居図』も「中国映画史上最悪の映画」と観客や批評家から酷評されながらも大ヒットしている。この映画が封切られて間もなく、第16回上海国際映画祭(6月15日~23日)を取材するため上海を訪れた。現地記者から「ねえ、あの映画観た?日本人から見てもヒドイ?」とあんまり何度も言われるので、逆に気になって気になって、取材の合間を見て劇場へ……「なるほど、この仕組みでヒットしてるのか!」と思いがけず合点がいってしまった。
2012年に中国で製作された映画は約900本にも上る。多様な作品がどんどん作られてはいるが、この2作の評価と興行成績の矛盾からも分かるように、“質”については玉石混淆。しかし、若者を中心に、SNS上で感想や批評を交わしながら盛り上がったり、家族や友人とイベント感覚で楽しむ身近な娯楽として映画が定着してきた。昨年日本を追い抜き世界第二位となった中国映画市場の勢いは衰えを知らず、今年はとりわけ国産映画が好調。上半期(1~6月)の中国大陸の興行収入は前年同期比36%増の計109億9,413万元(約1,777億円)にのぼり、そのうちの約6割に当たる65億5,000万元(前年同期比144%増)を国産映画が占めている(国家広播電影電視総局より)。
まだまだ釜山の背中は彼方、香港にも及ばないが、大きな伸び代のある市場を背景に、上海国際映画祭の注目度も年々高まりつつある。まず、ゲストの華やかさは既に東京の遥か上をいく。中華圏のゲストはもちろん、審査委員長には『レ・ミゼラブル』の大ヒットが記憶に新しいトム・フーパー監督を押さえ、キアヌ・リーブス、ヘンリー・カビル、ヘレン・ミレンといったスターたちや、オリバー・ストーン、レオス・カラックスら大物監督らを招待。上海の街中に映画祭のポスターが掲げられ、イベントとしての存在感や市民の認知度も高い。
上海国際映画祭は色んな意味でカネの匂いがする。潤沢な資金の出所なので致し方ないのかもしれないが、新作映画の記者会見がスポンサー企業のPRイベント化しているのは残念だし、映画祭運営の仕切りもまだまだ国際映画祭としては厳しいレベル。中国映画自体が直面している“質”の問題と同様、ソフト面の改善は今後の課題だ。しかし、映画祭全体に充満する“イケイケ”感は本物。日本の映画界ももっとこの隣の“昇り龍”に注目すべきでは?そう痛感した理由についてはまた次回。