(コラム&インタビュー)7月5日より「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」開催にあたって

メジャー、インディペンデントを問わず各国の映画でLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーなどのセクシュアル・マイノリティ)を扱った、または登場人物の中にLGBTのキャラクターが登場することが珍しくない昨今、なぜあえてLGBTを特別視するレズビアン&ゲイ映画祭を開催するのか、という疑問の声もあるでしょう。しかし東京国際レズビアン&ゲイ映画祭は実は22年もの歴史がある映画祭です。22年前と今の状況を考えると隔世の感があると言えますが、日本において果たしてセクシュアル・マイノリティほか様々なマイノリティにとって住みやすい多様性を受け入れる社会が実現されたかというと、まだまだでしょう。

アメリカのオバマ政権は、クリントン前国務長官が「ゲイの権利は人権であり、人権はゲイの権利である」と述べ賞賛を受けましたが、オバマ大統領も今年1月に行った第2期就任演説で「ゲイの同胞たちが法の下に平等に扱われるようになるまでは、私たちの旅はまだ終わらない」と語りました。日本の元首がこのような発言をしたことは今まで聞いたことがありません。 先月の国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会の対日審査で「日本の刑事司法制度は中世のようだ」との指摘がされ、日本の上田秀明人権人道担当大使が「日本は人権において最も進んだ国のひとつ」と反論し、会場から失笑が漏れたことは記憶に新しいですが(それに対し同大使が「シャラップ(黙れ)」と発したという恥ずかしいオチもつきましたが)、勘違いでもその自負は大いに結構。保守化ではなく人権先進国化を目指して欲しいものです。

同性婚を認める地域や国はここ一年でも増えていますが、そもそも未婚/既婚/非婚であろうが、同性・異性または大きな意味で家族となることを選択した人々が法的・社会的差別を受けなければ法的に結婚できるか/しているかどうかを問うことも不要となるのではないでしょうか。

7月5日から開催される東京国際レズビアン&ゲイ映画祭の運営委員会に下記の質問に答えてもらいました。筆者も2008年からトークの司会や通訳などで映画祭に参加しています。評判がよかったという昨年上映の『VITO/ヴィト』上映後のトークでは、アメリカ合衆国総領事パトリック・リネハン氏と夫のエマーソン・カネグスケ氏に登壇していただきお話を伺いました。今年は7月5日と6日に上映される『アウト・イン・ザ・ダーク』上映後のミハイル・メイヤー監督とのトークを担当します。社会派ドラマであり、ラブストーリーであり、スリル溢れる娯楽作品に仕上がっていますが、あまりにもイスラエルの状況を活かしきったこの作品の真意に迫りたいと思います。もう一本あるイスラエル作品は、エイタン・フォックス監督の10年前の作品『ヨッシ&ジャガー』(第13回TILGFFで上映)の続編にあたる『ヨッシ』です。真実の愛を失った喪失感と向き合い、前に進むことの困難を描き共感を覚える作品です。

映画祭から是非公開に繋がる作品も出て欲しいところです。昨年上映された『マルガリータ』は主人公の力強い生き方に励まされる秀作ですし、『彼と彼女のゲイビー大作戦』は日本に蔓延する出産は法的な婚姻関係にある男女の間で」という「常識」と昭和然とした「家族」のあり方に一石を投じる、そしてコメディとしてかなりウケた作品です。配給会社の皆さん、今からでも配給、遅くないですよ!
*参考サイト:「The Japan News by yomiuri shimbun

–LGBT作品であるという前提に加えて映画祭のプログラミングの肝は? TILGFFらしさはどのように出していますか?

運営委員会(以下、運営) TILGFFのお客さまは、セクシュアリティも年代も職業も国籍も本当にさまざまなので、なるべくジャンルや製作国のバランスを取ってバラエティ豊かなラインナップにすることを心がけています。製作数としてはアメリカの作品が圧倒的に多いので、どうしてもアメリカの作品の比率は高くなるのですが、近年ではアジアや南米、ヨーロッパの作品も積極的に取り入れています。いずれもプロットがしっかりしたウェルメイドな作品が多いのが特長で、普段あまり映画を観ない方やセクシュアル・マイノリティになじみのない方にも楽しんでいただけると思います。また、日本の作品を応援するために、毎年『レインボー・リール・コンペティション』という短編を対象とした観客投票形式のコンペティションも行っています。

–ボランティア運営で今年で22年目を迎えるというのは画期的ですが、それを可能にしたものは? LGBTという共通項により、連帯感があることの強みでしょうか。

運営 ボランティア運営の厳しさや難しさはいろいろありますが、それを上回る楽しさや居心地の良さがこの映画祭にはあります。率直なところ、数値で出せるようなものではないので、そんな気がしますという程度のものなのですが、スタッフ・観客問わず感じていることのようです。
最近はLGBTと呼ばれることの多いセクシュアル・マイノリティをテーマにした映画祭ではありますが、それを強く意識して連帯感を持っている訳ではなく、隣にいる人のセクシュアリティは知らないけど、どんなセクシュアリティもあり得るよな、という気遣いがそんな雰囲気を作り上げているように思えます。
そしてこういったイベントを続けていきたいというスタッフの気持ちが、長い間続けてきた結果になっているのだと思います。

–運営メンバーの当事者(LGBT)と非当事者の比率は?当事者と非当事者の混成メンバーの場合、混成であることの難しさそして利点はなんでしょうか。

運営 運営メンバーのセクシュアリティは不問としているので明確には判らないのですが、マイノリティが多いのかなと感じます。当事者か非当事者かというのとはちょっと違っていて、いろんなセクシュアリティの人が自分の立場で映画祭に向き合っている時点でみんなが当事者だと思います。だからこそいろんな意見が出る。運営上は、利点も難しさも併せ持っていますが、力の源泉であるともいえます。

–LGBTのビジビリティーや権利といった面で映画が果たす役割は大きいですが、TILGFFが果たそうとしている目的は何ですか?あるいはより楽しいお祭りという要素を全面に出したいのでしょうか。

運営 映画祭の目的の1つにはマイノリティが自分のセクシュアリティに気兼ねすることなく、心から楽しんだり考えたりする機会を作りたいということです。これがいってみればお祭りの部分ですが、見える化という観点からすれば、マイノリティたちが自分たちだけでお祭りを楽しんでいてもダメだと思うのです。
そこでもう一つの目的は、いろんなセクシュアリティの人が一緒に楽しんで、考えて、つながれる場所の提供。ここでの体験が最初に回答したような居心地のよい雰囲気が生まれるのだと確信しています。この体験が日本中に広まれば、セクシュアリティに関わりなく気持ちよく共生のできる社会になるのではと考えています。
あともう1つは、日本発信でのセクシュアル・マイノリティの映像作品がたくさん生まれる環境を作ること。レインボーリール・コンペティションという観客賞を用意していますが、より社会の理解や共生が進めば、たくさんの作品が生まれるのだろうと期待しています。

–今まで上映した作品の中で一番人気があった、反響があった作品は?その理由は?

運営 「一番」というのは正直わからないのですが、ゲイ作品では第15回の『ラターデイズ』、第17回の『シェルター』、第21回の『ウィークエンド』などは人気が高く、上映後に輸入盤のDVDを買い求める方も多かったようです。この3本はAfterElton.comの“Top 100 Greatest Gay Movies”でも10位以内にランクインしており、海外でも評価の高い作品です。いずれの作品も、主人公たちが葛藤しながらも成長していくという普遍的なストーリーであることが共通しています。レズビアン映画では第13回の『百合祭』、第16回の『ちっちゃなパイパイ大作戦!』、第21回の『夕立ちのみち』などの反響が高かったです。ゲイ作品は静かな感動を呼ぶドラマ、レズビアン作品はパンチの効いたコメディが人気という対比が面白いなと思います。

–個人的に今年イチオシの作品はどれですか?そしてなぜですか?

運営 1本だけ選ぶのは難しいのですが、ドキュメンタリー作品4本はいずれもオススメです。今年は選考過程で長編・短編合わせて150本以上の作品を見ましたが、良質なドキュメンタリーが多いことが印象的でした。また、第21回の『VITO/ヴィト』や第20回の『あの頃、僕らは―いま語られるエイズの記憶』が大変好評で、お客さまからも「もっとドキュメンタリーが観たい」という声をいただいていましたので、今年は実験的に例年のラインナップよりもドキュメンタリーの比率を上げてみました。ドキュメンタリーというと「難しい」「堅い」というイメージを持っている方もいるかもしれませんが、観ているうちに引き込まれて気づいたら終わっていた…というくらい面白くてテンポのよい作品を集めましたので、どうぞご期待ください。

text by:松下由美

profile of Matsushita Yumi
映画祭や映画宣伝の司会・英語通訳のほか「中華電影データブック」「アジア映画の森」などへの執筆を行う。外国映画・メディアの製作や映画祭のキュレーターも担当している。https://twitter.com/MatsushitaYumi

【第22回東京国際レズビアン & ゲイ映画祭】
期間:7月5日(金)~6日(土)7月12日(金)~15日(月・祝)
会場:東京ウィメンズプラザ(5日~6日)、スパイラルホール(12日~15日)
公式サイト:http://tokyo-lgff.org/2013

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)