欲望のバージニア

アメリカ社会の縮図と日本の現状問題

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アメリカ社会を理解するのに、これほど良い題材はないだろう。ならず者同士の闘争映画という先入観を持たず、現代にも通じるテーマがある事を感じて欲しい。

1931年、禁酒法時代のアメリカ、バージニア州フランクリン。長男ハワード、次男フォレスト、三男ジャックのボンデュラント兄弟は密造酒のビジネスを営み、保安官も一目置く地域の有名人である。その地に、新しい取締官レイクスが着任し、商売するなら賄賂をよこせという要求に対して屈しないボンデュラント兄弟。そこから、兄弟と取締官との終わりの見えない闘争が始まる・・・。

この縮図、実は現代にも当てはまるところが非常に多いのである。違法とはいえ曖昧な法律である禁酒法をかいくぐり稼いでいるが、特に地域で問題を起こしている訳でもないボンデュラント兄弟。そこに現れる都会から来た悪徳取締官が禁酒法を盾に取り、地域から利益をかすめ取ろうとする。地域の密造者の中で、取締官に逆らうのは得策じゃないと従う者と、反対してこれまでの商売を守ろうとする者に分かれ、地域が分断される。そこを巧みにつき、権力と暴力と恐怖で支配しようとする権力者。

誤解を恐れずに言えば、例えばなぜ今の日本でTPPに反対する人が多いのか、その理由をこの映画に見るのは自分だけだろうかと訊ねたい。今ではこの様な暴力闘争はまず認められない事であるが、現代の先進国の闘争は戦争などの目に見える暴力ではなく、経済で行われるのである。その事に気付くと、この映画の取締官の様によそからやってきた人間が、勝手なルールを自分達に押し付けようとしていると感じてTPPに反対する人の気持ちが分かると思う。そして、本来のアメリカの人達とはドラマ「大草原の小さな家」に代表される、自らの土地や地域の自治を望む人達の集まりであり、多少暴力が過ぎるとはいえボンデュラント兄弟はまさにその様な人達なのである。だから、多くを儲けようとして商売を他の州にまで広げようとする三男のジャックを見て、過剰な金儲けに走り他の州にまで出たり派手に振る舞ったりせず、今の仕事や家族を守る事が第一なんだぞという思いから、長男も次男も反対するのである。そんな腕っぷしや度胸もある長男次男の、家族思いだったり友情に熱かったりする本来の姿を見た後で、「これが、ならず者の正義だ」というキャッチコピーがこの映画についていたのを思い出し、いったいならず者は兄弟と取締官のどっちなんだと思ってしまい、違和感を持ってしまった事を自分はここで告白してしまおう。

個人的な感想はさておき、実話に基づいたこの映画は、この時代の街や自然の描写が美しく、次男フォレスト(トム・ハーディ)と都会から来た女マギー(ジェシカ・チャステイン)との恋愛や三男ジャック(シャイア・ラブーフ)と厳格な牧師の娘バーサ(ミア・ワシコウスカ)との恋愛もあり、暴力や銃撃戦のシーンの迫力ありと、最後まで飽きさせない仕上がりである。また、禁酒法時代に詳しくなくとも問題なく楽しめる映画であり、個性的なキャラクターが次々と出てくるエンターテインメント映画としてぜひ観てもらいたい、実に面白い映画である。

▼作品情報▼
監督:ジョン・ヒルコート
出演:シャイア・ラブーフ、トム・ハーディ、ジェシカ・チャステイン、ジェイソン・クラーク、ミア・ワシコウスカ、ゲイリー・オールドマン、ガイ・ピアース
公式サイト:http://yokubou.gaga.ne.jp/
6月29日から丸の内TOEI、新宿バルト9ほか全国で順次公開
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