ムネオイズム ~愛と狂騒の13日間~

鈴木宗男と選挙活動を通して見えてくる事

この映画の、スクリーンから押し寄せてくる様な熱気と風圧はいったい何だろう。ナレーションもなく、ただただ一人の政治家に密着する事で、その人物の不思議な魅力にせまる、素晴らしいドキュメント映画である。この映画は、ある意味誰よりも有名な政治家である鈴木宗男氏の、2009年8月の民主党が大勝した総選挙で新党大地の代表として行なった13日間の選挙活動を描いたものである。

それにしても、鈴木宗男という人物はつくづく不思議な人物だ。利権政治家のイメージが付きまとい、汚職疑惑で逮捕までされた人であるのに、地元北海道の人達に愛され、周りに集まる人は減るどころか増えており、国会議員でなくなった今も紛うことなき政治家であり、タレント活動までやれてしまう人だ。そんな人物、これまでのどんな大物政治家にもそうある事ではない。逮捕などされたりしたら政治家として終わってしまうのが普通だろう。では、鈴木宗男の普通と違うそのキャラクターの秘密は何か。その答えを、この映画は短い時間で出してくれている。

これを観た人は、宗男氏の圧倒的なバイタリティ、前向きな姿勢、誰とでも親しく接する人柄に驚かされるのではないだろうか。選挙期間の13日間で、いったいこの人は北海道を何か所回ったんだろうか。生まれ故郷の足寄から、札幌すすきのの夜の飲食店、果ては北海道以外の人達がまず知らないであろう数々の地域まで、動きに動き、走りに走り、しゃべりにしゃべる。息つく暇もないとはこういう事を言うのだろう。この姿を見ていると、これはよく働く人だ、きっと国会でも働いてくれるだろうと思う人がいるのは間違いない。実際、疲弊した地方経済、北方領土問題、アイヌ民族問題という北海道の問題を一番よく知り、そのために働いてくれる我らの政治家鈴木宗男という思いを持つ道民の気持ちが、この映画を観るととてもよく伝わる。地方にしか分からない問題があり、その思いや生活の苦しさを代弁して政治に反映してくれる人を切実に望むこの気持ちは、地方に住む人なら少なからず理解出来る事だと感じる。

ここで見られる宗男氏は生き生きとしていて、強靭な肉体を持ち、明るさを失わない。民主党に風が吹いた2009年の総選挙で、少数政党であるがゆえに明らかに不利な状況であるにも関わらず、最後まで動く事をやめず、とにかく選挙区を隈なく回り、走り、握手し、演説しながら泣き、ハコ乗りして思いっきり手を振る。これでもかと言わんばかりの泥臭いどぶ板選挙だ。しかし、この諦めない姿勢にこそ、辛い時や逆境をはね返すヒントがあるのだと感じる。この姿勢に共感する人が多いからこそ、応援する人も多いのだろう。映画にも出てくる松山千春は、宗男氏が悪徳政治家の代表の様に言われていた時期でも、ファンが離れる可能性やイメージダウンを物ともせず郷里の先輩である宗男氏を応援してきた人である。そういう人が少なからず周りにいる鈴木宗男とはどういう人間なのかを映画を観ながら考えているうちに、どんどん映画に引き込まれてしまった。

批判的な部分も少なからずある宗男氏の政治的信条への言及はここではせずにおくし、実際この映画は政治的な主張をほぼ取り上げずに鈴木宗男という人物を描いている。そこがこの映画を面白いものにしているし、誰が見ても興味深いドキュメンタリーになっていると思う。とにかく、鈴木宗男みたいな人はなかなかいない。そういう人物にスポットを当てて映画を撮った、目の付け所がいい。こういう世界があり、こういう人物がいるんだという事を知ってもらうために、むしろ政治に興味がない人にこそ観て欲しい映画である。

6月22日よりオーディトリウム渋谷ほか、全国順次ロードショー

監督・編集・撮影:金子遊