スペインで社会的反響を呼んだアニメーション作品『しわ』

 スペインで公開されるやいなや大きな社会的反響を呼び、現在、フランスやアメリカなど、世界各国での公開が始まっている本作品。
無関心ではいられないけど、目をそらせていたい老後の重いテーマ、認知症と終(つい)の住処について、誠実に、ユーモアと温かい視線を交えながら描いたアニメーション作品だ。監督は幼少の頃から「アルプスの少女ハイジ」や「母をたずねて三千里」など日本のアニメーションに夢中だったという、アニメーターのイグナシオ・フェレーラス。

 かつては銀行勤めをしていたエミリオに、認知症の症状が現れるところから物語は始まる。やがて彼は老人ホームに預けられ、アルゼンチンからの移民ミゲルと同室になる。施設には、それぞれの事情と想い出を抱えた老人たちが、奇妙にみえる行動をとりながら、人生最期の日々を過ごしていた。
ある日、エミリオは薬を間違えられたことで、自分もアルツハイマーであることに気づいてしまう。ショックで症状がさらに進行したエミリオのために、ミゲルはある行動に出るのだが…。

 アニメーションだからこそ、より具体的な内面描写が可能だったのではないだろうか。頭ではわかっているのに、それを上手く伝えられない(言語化できない)エミリオの焦りやもどかしさ、またそれが引き起こす誤解や深刻な状況など、容赦のない描写に戦慄する。けれど、エミリオのような老人たちの内面で起こっていること、「記憶」と「認知」の症状の進行によって世界がどのように見えてくるのかなど、本作で初めて知ることができた部分も多い。彼らの姿と将来の自分を重ねて見てしまうだけにズシリとくる内容だ。

 とはいえ、ネガティヴなメッセージだけでは終わらない。心に深く刻まれた想い出というのはそう簡単に人から奪えるものではないのだという、クライマックスのエピソードには強く胸を打たれた。「脳」で記憶されるものと「心」で記憶されるものは、まったく別のものなのだ。この物語は老後の重いテーマだけでなく、人と人とを繋ぐ想いの深さを描いた作品でもある。

6/22(土)新宿バルト9他にて公開。全国順次ロードショー!

監督:イグナシオ・フェレーラス
原作:パコ・ロカ『皺』(小学館集英社プロダクション刊)
配給:三鷹の森ジブリ美術館
製作:2011年/スペイン/89分
(c)2011 Perro Verde Films – Cromosoma, S.A.
公式サイト:www.ghibli-museum.jp/shiwa/