『ローマでアモーレ』ローマの中心で名声欲と自己愛を叫ぶ?!
ロンドン、バルセロナ、パリ——近年、存在そのものが画になるヨーロッパの美しい街を舞台に作品を撮り続けているウディ・アレン監督。その最新作『ローマでアモーレ』(6月8日公開)は、タイトル通り、個性的な登場人物たちが観光案内さながらローマの名所を迷走するラブ・コメディだ。
映画館で思わず笑ってしまうこと請け合いのシニカルで愉快なエピソードが満載。今作で改めて感じたのは、ウディ・アレンはやはり女性の描き方が巧いということ。御年77歳。相変わらず、いや、老いてますます経験がものを言うのか、アレン監督の人物描写が冴えわたる。
例えば、“どんな男性も虜にする小悪魔キャラの売れない女優”というふれ込みで登場するモニカという女性。この役にエレン・ペイジ? フツー過ぎない? と最初はジェシー・アイゼンバーグ演じるジャック同様ピンとこないのだが、彼女が自分の話ばかりまくし立て始めるや、「いるいる。こういう子!」と合点がいき、あっという間に惑わされていくジャックに「そうそう。こうして騙されるのよね」と、過去にどこかで目にしたことがあるような光景が走馬灯のように蘇る。そこで間違っても小悪魔系にはなれない筆者のようなオッサン系は、心の中で「あ〜ぁ、バカだなぁ」と悪態をつくのだが、その辺りの残念感もアレック・ボールドウィンのキャラクターが程よく担っているという、アレン監督さすがの人物造形なのだ。
モニカは“とにかく私を見て!”という名声欲と自己愛に満ちている。この名声欲こそ、『ローマでアモーレ』が語る作品のテーマの一つ。最もあからさまなエピソードは、ある日突然マスコミに追いかけられるセレブになってしまった平凡なサラリーマンの話だろう。その他、都会での成功を夢見る田舎育ちの夫と、偶然出会った映画スターの誘惑にホイホイ乗ってしまうその妻の話や、特異な習性を持つ美声の男とアレン演じる元オペラ演出家の話などが入り乱れる。それぞれのキャラクターが、それぞれの形で他者からの評価と関心を得ようと奮闘する群像劇でもある。
名声の恩恵と弊害を熟知しているアレン監督は、恩恵の魅力を肯定した上で、「でも結局大した意味はないんだよね」と言わんばかりに、最後に観客に無常感を味わわせることも忘れない。そんな人間の哀しい性(さが)に右往左往する人々の中、ばーんと他者のために(色んな意味で)一肌脱いでくれるペネロペ・クルスがまさにこの作品の女神様のようで神々しい。
ローマでアモーレ
原題:To Rome with Love
監督・脚本・出演:ウディ・アレン
出演:アレック・ボールドウィン、ロベルト・ベニーニ、ペネロペ・クルス、ジュディ・デイヴィス、ジェシー・アイゼンバーグ、エレン・ペイジ
提供:角川書店、ロングライド
配給:ロングライド
2012年/アメリカ・イタリア・スペイン/111分
(C)GRAVIER PRODUCTIONS,INC. photo by Philippe Antonello
公式HP http://romadeamore.jp/
6月8日(土)より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマほか全国公開