犬と猫と人間と2-動物たちの大震災
犬の保護施設から町のほうをいつも眺めている犬。後ろからその姿をそっと写し「いつも飼い主が避難している福島の町を眺めている」という自らのナレーションを入れる。本当にそうかもしれないし、そうではないかもしれない。こんな所に宍戸大裕監督の動物との関りあい方、優しさが滲み出ている。
しかしながら、現実は大変厳しい。目を背けたくなるような厳しい映像も所々に挿入される。繋がれたまま死んでしまった犬、牛舎の中で朽ち果ててしまった牛たち、震災後生き抜きながらも死んでいく動物たち。けれども、私たちはそれをしっかりと見なければならない。そうでなくては、そこに生きる人たちの気持ちは到底理解できない。宍戸監督はその中に飛び込み、福島第2原発の警戒区域に入ることも厭わず、地元の人たちと一緒に動物たちの保護活動をする。そうした中で、動物の向こうにいる人々の姿が見えてくる。この作品は、原発や行政の遅れについて声高に非難することはない。けれどもそうした人々の姿からきちんとメッセージが伝わってきている。
震災で家族を失い、残されたペットを頼りに生きる人、折角愛犬を見つけ出しても住宅事情で一緒に住めない人、行方不明になったペットを今でも探し続けている人、避難場所まで連れてきていたにも関わらず、やむなく建物の外に置いて犬を死なせてしまった人の苦悩、これは現在進行形である。動物は、今もたくさん警戒区域に放置されたままであり、それを保護し助けている人たちがいる。彼らは、飼い主を探しあるいは新しい飼い主を見つけ、人と動物の橋渡しもする。これは終わりのない活動であることを私たちは知らなくてはならない。
放射能に汚染され“経済的価値のない”牛を世話する“やまゆりファーム”の代表岡田久子さん。牛の殺処分を認めず、ひとり頑張る畜産農家の老人と知り合い、手伝いをしていたことから、やがてその牛たちを引き継ぐことになる。元々平凡な主婦だったというのに、それが今では、農家の方から「素人には無理」と言われた難しくて厳しい作業をこなし、“希望の牧場”の一角を借りて75頭もの牛の世話をしている。彼女の顔は、被災地の犬猫を保護するボランティアを始めた頃と比べ、たくましくなっている。自分にも何かできないかという気持ちで始めたボランティアだが、これまでには様々な葛藤があったであろうことは、その顔を見ているだけで想像がつく。
その姿を観ていて思う。牧場では、死んでいく牛たちもたくさんいる。それについて私たちに何が言えようか、と。1人2人で牛を世話している牧場の現状を見れば、尚更である。「牛を助けてやって」誰だってそんな気持ちにはなる。「牛の殺処分反対」こんなことは誰にだって言える。けれども、農家の人たちが牛を飢え死にさせるより安楽死の道を選択したことについて、誰か責められるだろうか。動物愛護の精神は、時に身勝手な主張に陥ることがある。私たちは、被災地から実際の距離以上に遠く離れた都市の住人なのかもしれない。でもそれではいけない。例え限られていたとしても、人それぞれ何か出来ることがあるはずだ。せめて、目をつむらずに現実をちゃんと知ること、そして自分の頭で考えることが大切なのではなかろうか。この作品を観ることは、その最初のステップになるであろう。
▼『犬と猫と人間と2-動物たちの大震災』作品情報
監督・撮影・ナレーション:宍戸大裕
構成・編集・プロデューサー:飯田基晴
音楽:末森樹
製作:映像グループ ローポジョン
配給:東風
2013年/日本/104分
(C)宍戸大裕
6月1日(土)~ユーロスペースにてロードショー、ほか全国順次公開
公式サイト:http://inunekoningen2.com/