「第4回アジアンクィア映画祭」開幕!セクシュアル・マイノリティーを扱った27作品を一挙上映

 5月24日(金)、シネマート六本木にて「アジアンクィア映画祭(以下AQFF)」が開幕した。「クィア」とはレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーなどのセクシュアル・マイノリティーたち、そして既成概念を壊し、軽やかに生きる人々のことである。2007年から隔年で開催され、今年で4回目を迎えるAQFFでは、長編・短編を含めた27作品が上映される。

 LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)映画祭は世界に多々あるが、AQFFはアジア系LGBT作品に特化した世界で唯一の映画祭となる。映画祭の運営とプログラミングは主に共同代表の入(いり)美穂さんと大石夏絹(なぎ)さんによって行われているが、二人とも普段は別の仕事をしながら日々地道に映画祭の準備をしているという。LGBTをテーマに含んだ作品はカンヌ、トロントなどの国際映画祭でも数多く上映され、ベルリン国際映画祭にはテディー賞というLGBT作品を対象にした賞もある。そういう映画祭に参加して、上映作品を扱う会社と交渉できればいいのだろうが、彼女たちのような独立系映画祭主催者にとって渡航滞在費の負担は大きな問題である。そこで、彼女らはインターネットで独自の情報網を駆使し、作品の情報共有や交換を行っているという。

 AQFFのコンセプトは、日本のLGBT映画祭または東京で未公開のインディペンデントの作家の作品を上映すること。LGBTを扱う作品であっても監督や製作者自身がクィアでない場合もあるので、表現に不適切、不快なところがないかを確認してから上映を行っている。

AQFF開催の経緯について
アジアの中でLGBT作品が多く製作されているのはタイ、フィリピン、台湾などで、それはセクシュアル・マイノリティーへの社会の寛容度に比例しているとも言える。検閲が厳しく、同性愛を犯罪と見なすソドミー法が敷かれているシンガポールやマレーシア、死刑を宣告される一部のイスラム圏の国から見ると日本は寛容度が高いかのように感じられる面もあるが、LGBTをカミングアウトしている監督は非常に少なく、製作本数も多くはない。ある程度知名度があり、メインストリームな活躍をしているのは橋口亮輔監督ぐらいと言えるだろう。
もともとクィアで自主映画を作っており、日本では発表の場が少なく作家を育てる土壌が培われていないと感じていたAQFF代表が、韓国や台湾など横の繋がりのある映画祭や作家たちの後押しを受け、日本そしてアジア圏のLGBT作家たちを応援するためにこの映画祭を立ち上げた。作り手目線で映画を選ぶため、作品としては荒削りで完成度が低くても、パワーがあり面白い作品を積極的に選び、なかなか見る機会のないドキュメンタリーや短編集の紹介にも力を入れているという。

なぜアジア系の作品に的を絞っているのか
今年で22年目を迎える「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(以下TILGFF)」は日本で一番大きく、知名度もあるLGBT系映画祭で、満席となる作品も多く成功している映画祭だ。AQFF同様有志の運営による映画祭であるが、TILGFFは商業的な欧米系の作品が多いという点でAQFFと異なる。AQFFは日の目を見ない作品に光を当てたいという希望から、上映作品には不器用で生真面目な映画が多い印象も受けるが、胸キュンでビタースイートなもの、骨太なものから笑い満載の健気なドキュメンタリーなど多様な作品が揃っている。AQFFが映画祭をアジア(系)作品に絞ったのは、共同代表が自作をアメリカの映画祭などで上映した際に「アジア作品って感じだよね」「自分の国の作品よりは遅れている」といった反応があったのに対し、アジア圏で上映すると「わかるわかる」といった共感の声が多かったからだという。

国別の特徴について
国別の特徴を挙げるなら、タイはコメディが多く、日本でいうところのオネエ系キャラが幅を利かせている。フィリピン同様、一家に一人?とはいかないまでも、ドラマには欠かせないキャラとなっている。当事者(クィア)から見ると必ずしも好ましいとは言えない過剰表現が目に付くこともあるそう。台湾では人気俳優がゲイ役を演じる秀作ドラマをテレビがゴールデンタイムに放映するなど、家族の一員としてのセクシュアル・マイノリティーを描く段階にまできている。
そして父系社会で儒教の国ながら、ゲイ作品も多い韓国。今回クロージング作品として上映される、『One Night and Three Days』のイ=ソン・ヒイル監督は第1回AQFFでも紹介され、主催者にとって思い入れのある監督だというが、韓国映画界で初めてカミングアウトした監督である。媚びた描写はせず、当事者であることの視点はしっかり維持しつつ、ボーイズラブ系が好きな女性も取り込み成功している。映画産業が発達しており観客の目が肥えている韓国で、イ監督の実力は認められており、彼に追随してカミングアウトする監督も韓国では増えているようだ。

日本におけるセクシャル・マイノリティについて
AQFFがスタートして7年になるが、日本でセクシュアル・マイノリティーを取り巻く環境は変わったのだろうか。代表の二人は「性同一性障害の疾患への理解などは深まりましたが、LGBTの人たちが社会の中できちんと認知されているかと言えばそうでもないと感じている」という。
メディアの都合のいいように、セクシュアル・マイノリティーを説明する際には格好よく見栄えのいい人を扱う傾向が目に付くが、実際に彼らの中には高収入の人も多く、ピンク・マネーやゲイ資本に目をつける人やビジネスもある。しかしコミュニティー内にも経済格差があり、精神的に病む人も多く、女性は就職の機会が少ないという現実も存在している。先月ディズニー・シーでレズビアン・カップルが結婚式を挙げ、そのきらびやかな結婚式が内外のメディアで取り上げられたが、日常生活となると厳しい問題も山積している。

純粋な映画ファンにも見て欲しい
映画祭発足当時は「当事者に共感してもらいたい」という気持ちだったようだが、今ではテーマに馴染みのない人や嫌悪感がある人にも「セクシュアル・マイノリティーは自分と変わらない」ということを知って欲しいとのこと。セクシュアル・マイノリティーへの理解を深めるには他の手法もあるが、クィアが動いて語るというリアルな表現が可能な映画は、胸にグッと迫るものがある。純粋に映画としての素晴らしさを味わえる作品が多いため、セクシュアル・マイノリティーというテーマに興味のない人も楽しめるだろう。以前は悲劇的なエンディングの作品が多かったが、今ではポジティヴな作品が増えているので、クィアを家族に持っている人にも是非見てもらいたいとのこと。そしてカミングアウトできずにいる当事者にとっても、カミングアウトするきっかけになるであろう素晴らしい作品が揃っている映画祭である。

text by:松下由美

profile for Yumi Matsushita
映画祭や映画宣伝の司会・英語通訳のほか「中華電影データブック」「アジア映画の森」などへの執筆を行う。外国映画・メディアの製作や映画祭のキュレーターも担当している。https://twitter.com/MatsushitaYumi


【第4回アジアンクィア映画祭】
日程:2013年5月24日(金)〜26日(日)/ 31日(金)〜6月2日(日)計6日間
会場:シネマート六本木
公式サイト:http://aqff.jp/2013
twitter: https://twitter.com/AQFF
facebook: https://www.facebook.com/aqff.jp

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