【イタリア映画祭2013】『素晴らしき存在』“見る”ことにフォーカスしたドラマ
(物語の詳細に触れています。これから鑑賞される方はご注意ください。)
役者を夢見て田舎からローマにやって来たゲイの青年ピエトロ(エリオ・ジェルマーノ)は、世話好きな従妹の反対を押し切り、古いが手ごろな家賃のアパートで独り暮らしをすることを決める。夜はパン屋で働きながら、昼間はオーディションに臨むものの失敗、思いを寄せていた人にもフラれる始末。そんな折、アパートにどうも「何か」がいるような気がしていたピエトロは、8人の幽霊と遭遇する。彼らの正体は、1943年に消息を絶ったある劇団のメンバーたちだった……。
役者志望と言いながら演技が巧いわけではなく、緊張屋で自己アピールも苦手、頼れる友人もほとんどなく、恋人もいない。主人公は、ともすればローマという大都会に消え行ってしまいそうな、孤独で不器用な青年。そんな彼だけに見える、古臭い装いをした幽霊たち。最初こそ困惑するピエトロだが、プロの彼らから(昔は通用していた)演技指導を受けたり、一緒にカードゲームに興じたりと、疑似家族のようなひとときは、彼のみに与えられた贈り物のようにも思える。
しかし、何故ピエトロにだけ彼らが見えるのか? いや、彼にも8人の姿が見えなくなった時期があった。どこに行っていたの? と聞くピエトロに幽霊は答える。「僕らはずっとここにいたよ」。
人間の目は不思議であると常々思う。シャーロック・ホームズが「君はただ眼で見るだけで、観察ということをしない。見るのと観察するのとでは大違いなんだ」と言うように、視野に入っていても我々には「見えていない」ものがある。一方、アン・リー監督の作品『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012)には、人は見たいと思っているものを相手に見る、と言うような台詞があるが、人間には無意識のうちに求めているものを見ようとする傾向があるように思える。それが現実の世界になければ、虚構の中に見出そうとする。本作は現実と虚構を行ったり来たりする物語だが、その浮遊感は、演技を生業とする役者(ピエトロ、幽霊たち)だけでなく、演劇や映画と言う虚構を見る観客も味わうことになる。夢か現(うつつ)か。その境界を行き来することの不思議な魅力を我々にもたらしてくれる。
しかし、この物語は現世の人間と幽霊の交流に終始するわけではない。なぜ8人は1943年に死に至り、いまだ幽霊としてとどまっているのか? 彼ら自身も知りたいこの「謎」について、ピエトロはやがて衝撃的な事実を突き止める。知らない方がいいのかもしれない。しかし、彼らは真実を求め、ピエトロはすべてを明かした。現実というものは、時に目を背けたくなるほど辛辣である。しかし、見たくないものをしっかりと見て、受け止める。その結果、彼らの魂はやっと解放されていくのだ。
虚構に夢や希望を見るのも、現実を直視することもできるのが人間だ。「見る」ことにフォーカスした『素晴らしき存在』。イタリア映画祭でぜひ堪能してほしい。
▼作品情報▼
原題:Magnifica presenza
監督・原案・脚本:フェルザン・オズペテク
出演: エリオ・ジェルマーノ、パオラ・ミナッチョーニ、ベッペ・フィオレッロ、マルゲリータ・ブイ、ヴィットリア・プッチーニ
2012年/イタリア/106分
▼イタリア映画祭2013▼
会期:4月27日(土)~29日(月・祝)5月3日(金・祝)~ 6日(月・休)
会場:有楽町朝日ホール(千代田区有楽町2-5-1 マリオン11階)
<イタリア映画祭2013大阪>
会期:5月11日(土)~12日(日)
会場:ABCホール(大阪市福島区福島1‐1‐30)