【TIFF】ゼフィール

子供であるがゆえの残酷さと純粋さ

(第23回東京国際映画祭・コンペティション部門)

©FiLMMiK/FC ISTANBUL, 2010 TURKEY

トルコの山岳部で祖父母に預けられている少女ゼフィールは、母親がいつか迎えに来て一緒に暮らせる日がやってくるとひたむきに信じている。だが、母親は仕事にすべてを賭ける思いで、ゼフィールをこのまま自分の両親に預けていくつもりでいたのだ。母親の愛を独占したいゼフィールと、娘を愛しながらも自分の信じる生き方を全うしたい母親。互いの思いを分かり合えないうちに、悲劇が起こってしまう。

ゼフィールの祖父は死んだ生き物を丁寧に葬る。それは、自然のなかで共に生きる仲間として、生きとし生けるものへの敬意の表れなのだろう。映画のなかでも生き物への慈しみが感じられる。かたつむりや蜘蛛の巣、蛾など、普段は見過ごしがちな小さな生き物に向けられる、映画の作り手の眼差しは優しい。

ゼフィールも祖父の行いを見て、息絶えた動物を見つけては、埋葬するようになる。もちろん、それは彼女の生き物に対する愛情からの行為だ。そして「死」を受け入れ、向き合うことを自然に身につけているように感じられた。だが、彼女は「死」はどういうものなのか、まだ本質を理解できておらず、それゆえに衝撃的な結末を迎えることになるのだ。

大人の感覚からすると、ゼフィールの最後の行動は、残酷で常軌を逸したものに映る。だが、彼女の感覚からすれば、母親に対する最大限の愛情表現なのだろう。母親を愛しているからこそ、純粋に母親の愛を求める子供であるからこその彼女の行動を、簡単に非難することはできず、苦くてピュアな、不思議な余韻を噛みしめた。

Text by:富田優子
オススメ度:★★★☆☆

製作国:トルコ 製作年:2010年
監督・脚本:ベルマ・パシュ
プロデューサー:セイハン・カヤ、ビロル・アクババ
キャスト:シェイマ・ウズンラル、ヴァヒーデ・ギョルドゥム、セヴィンチ・パシュ、O・リュシュテュ・バシュ
第23回東京国際映画祭公式サイト:http://www.tiff-jp.net/ja/

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