カルテット!人生のオペラハウス

勇気の連鎖反応に、胸熱くして

 英国の美しい田園地帯にあるビーチャム・ハウスは、引退した音楽家が優雅に暮らす老人ホーム。だがホームは財政難のため存続の危機に立たされている。セドリック(マイケル・ガンボン)を中心に資金集めのコンサートを準備中だが、彼は入居者のレジー(トム・コートネイ)、シシー(ポーリーン・コリンズ)、ウィルフ(ビリー・コノリー)、そして最近引っ越してきた大スターのジーン(マギー・スミス)の4人が舞台に立つことを画策。彼らは英国音楽史上最高のカルテット(四重唱)と呼ばれた仲間だったが、かつてジーンと9時間だけ夫婦だったレジーはわだかまりを抱え、ジーンも彼を傷つけたことを悔やみ、また過去の栄光に縛られていた。

人生は、次の一歩を踏み出す勇気があるかどうかが勝負だと思う。レジーとジーンの元夫婦は互いへのわだかまりをどう乗り越えるのか?過去の後悔に対し、どう決着をつけるのか?年老いた彼らは残りの人生をどう歩んでいきたいのか?それらの答えは、レジーがある一言を口に出す勇気を持てるかどうか、だ。

年齢を重ねると「年だし・・・」と次の挑戦に二の足を踏んでしまい、勇気が出せなくなることも、しばしば。無駄に高いプライドもネックになろう。でも、それらを乗り越えて振り絞った勇気は、周りの人たちをもハッピーにし、その人たちにさらに勇気を与える力がある。本作はそんな映画。登場人物の、自分自身と向き合う姿に心温まり、自分も頑張ろう!という前向きな気持ちにさせてくれる。勇気とは、連鎖反応するものなのだ。

 そして何より、75歳にして監督デビューとなったダスティン・ホフマンの本作への取組自体に勇気づけられる。先日、来日した際にホフマン監督は「監督業は昔から興味はあったが、少し勇気がなかったというか、恐怖感もあった」と率直に語っていた。でも本作の監督のオファーがあったときに少しの迷いはあったもののやりたいと思い、受けたという。2度のオスカー受賞など俳優として輝かしい実績を誇るホフマン監督ですら、新たなチャレンジに勇気を出したという点に感銘を受けるではないか。

ファンとしては顔見せ程度(例えばホームの出入りの業者役とか)でも、俳優としてのホフマンの姿を見せてもらいたかったと欲張ってしまうが、本作での彼は監督業に徹し、同年代の英国の名優のアンサンブルを手堅く演出している。また、作品全体に英国らしい品格を持たせつつも、デイムの称号を持つマギー・スミスに“F**k you!”とか言わせてしまう茶目っ気も見せてくれて、何ともいとおしい。さすがに来日会見で、樹木希林にチューしちゃうだけのことはある人だ。

レジーも、ジーンも、そしてホフマン監督も、勇気の出しどころは決心したときと教えてくれる。まさに今年の流行語大賞最有力候補であろう「今でしょ!」だ。レジーに対しては、あの一言を「いつ言うの?」「今でしょ!」となるのだろうか。怖がっても仕方がない。この「今」を逃したら、さらに後悔が押し寄せるかもしれない。勇気を出すことに老いも若きも、男も女も、関係ない。覚悟を決めた人の姿は、なんと凛々しいことか。そんな姿に胸熱くしながらフィナーレを迎えられる、幸せな映画である。

▼作品情報▼
監督:ダスティン・ホフマン
出演:マギー・スミス、トム・コートネイ、ビリー・コノリー、ポーリーン・コリンズ、マイケル・ガンボン
脚本:ロナルド・ハーウッド
音楽:ダリオ・マリアネッリ
原題:Quartet
製作:2012年/イギリス/99分
配給:ギャガ
公式サイト:http://quartet.gaga.ne.jp/
© Headline Pictures (Quartet) Limited and the British Broadcasting Corporation 2012
4月19日(金)より、 TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ他全国順次ロードショー

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  1. soramove

    映画「カルテット!人生のオペラハウス 」名優の初監督作品は手堅い出来。…

    映画「カルテット!人生のオペラハウス 」★★★★ マギー・スミス、トム・コートネイ ビリー・コノリー、ポーリーン・コリンズ マイケル・ガンボン、ギネス・ジョーンズ出演 ダスティン・ホフマン監督、 99分、2012年4月19日より全国公開 2012,イギリス,ギャガ (原題/原作:QUARTET)…