相棒シリーズ X DAY
2000年の誕生以来、高い人気を誇るドラマ「相棒」。映画においても『相棒-劇場版-絶体絶命!42.195km東京ビックシティマラソン』(08)、『相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿』(09)、『相棒-劇場版II-警視庁占拠!特命係の一番長い夜』(10)と、公開する度にヒットを連発した。
「相棒」の魅力とは何か?警視庁の“人材の墓場”と揶揄される特命係・杉下右京(水谷豊)と歴代の相棒が繰り広げる謎解きの面白さは当然だが、様々な社会問題をベースとして展開された骨太のドラマという点が挙げられよう。また特命係以外に、脇役のキャラクターの強烈な個性が光っていることも忘れてはならない。
本作ではそんな脇キャラ、捜査一課の刑事・伊丹(川原和久)を主役にしたスピンオフ・ムービー。時期は2012年6月。2代目相棒・神戸尊(及川光博)が特命係を去ったドラマ版「シーズン10」と今月20日に最終回を迎えた「11」の間の出来事だ。3代目・甲斐享ことカイト(成宮寛貴)は、まだ登場しない設定である。伊丹とコンビを組むのは、シリーズ初登場のサイバー犯罪対策課専門捜査官・岩月(田中圭)。ある銀行員(戸次重幸)の死体発見現場で初めて顔を合わせた二人だが、「殺人捜査は僕の担当ではない」と縦割り組織の鑑のような岩月と熱血ぶりを発揮する伊丹とではソリが合うわけがなく、衝突ばかり。それでも二人は次第に殺人の奥に隠された真実を突き止めようとする・・・。
そんな彼らに立ちはだかるのは、犯人よりもむしろ上層部の隠蔽体質。事件の裏にある真相、すなわち“X DAY”が公になったときの世間の反応を想像すると、政府や金融機関への信頼は失墜し、パニックになるだろう。上層部はそれを恐れ、現場の捜査をうやむやにすることを指示。警察官の役割とは何か?伊丹と岩月は自問自答する。
「俺たちは何と戦っているんだ?」という苦悩が深ければ深いほど、重ねて敵が権力者で、巨悪であればあるほど盛り上がるのが刑事モノのお約束だろう。ご多分に漏れず国家中枢の暗黒面は炸裂し、伊丹と岩月は悔しがる。伊丹の苦悩による眉間の皺の深さは、過去最大級ではなかろうか。イタミン・ファンには悶絶せんばかりの、たまらない特典(?)だ。
物語は分かりやすくテンポも良い。“X DAY”は、日本政府が累積してきた借金を考えると、近い将来財政が破綻する可能性があるという危機感に着目している。こんな事態に陥ったら笑うに笑えないというくらいの真実味を感じさせる筋書きは見事で、観客の不安を煽る。だが、シリーズを牽引する“本家”が物語の主軸から外れていることで、やはり物足りなさは残る(杉下と神戸の出番は顔見せ程度)。さらに本作では、伊丹と岩月は理不尽に直面し抗っても、“悔しさ”止まりだ。だが、杉下ならその悔しさを超え、真実を白日の下に晒そうとするはずだ。ファンは通常、そんな彼の追求を固唾を吞んで見守っているのだが、残念ながら本作ではそこまでの緊迫感には到達していない。それにカリスマ性という点では、どうしても、杉下>イタミン、という不等式が成り立ってしまうことも一因にあるだろう。
とはいえ、現実の経済動向や「11」第17話と最終回で岩月が登場し、杉下とカイトと面識を持ったことで、“X DAY”のエピソードが膨らむ可能性は充分だ。それが「12」に繋がるのか、新たに映画版として登場するのか。今後の展開に期待が持てる。
また、大活躍のレギュラー陣にも注目だ。「ヒマか?」でお馴染み、角田課長(山西惇)が腕っぷしが強く、大河内監察官(神保悟志)との仕事も的確で有能ぶりを見せたり、内村刑事部長(片桐竜次)が「古轍」の額縁の前でなぜかタンクトップ姿になっているなど、ファンの心をくすぐる演出も嬉しい。
▼作品情報▼
監督:橋本一
脚本:櫻井武晴
音楽:池 頼広
出演:田中圭 川原和久 国仲涼子 田口トモロヲ 水谷豊 及川光博
製作:2013年/日本/105分
配給:東映
公式サイト:http://www.aibou-xday.jp/
(c)2013「相棒シリーズ X DAY」パートナーズ
2013年3月23日(土)全国ロードショー