変わらず俳優業まい進のレオナルド・ディカプリオ:『ジャンゴ 繋がれざる者』の悪役は「開放感と自由を感じた」

約3年ぶりの来日となるレオナルド・ディカプリオ

 公開中の映画『ジャンゴ 繋がれざる者』に出演しているレオナルド・ディカプリオがPRのため来日し、3月2日東京都内で記者会見を行った。
 世界的に大ヒットした『タイタニック』で人気が爆発し、「レオ様」と呼ばれて早16年。現在のほうがよっぽど「レオ様」と呼ぶに相応しい貫禄と余裕たっぷりの受け答えで『ジャンゴ』の世界を語った。
 第85回米アカデミー賞でクエンティン・タランティーノ監督が脚本賞、クリストフ・ヴァルツが助演男優賞を受賞したことも記憶に新しい本作。南北戦争前の19世紀半ば、アメリカ南部を舞台に、奴隷からガンマンになったジャンゴ(ジェイミー・フォックス)と、元歯科医のドイツ人賞金稼ぎシュルツ(ヴァルツ)が繰り広げる復讐劇を、バイオレンスとユーモラスたっぷりに仕上げたタランティーノ流マカロニ・ウエスタンだ。

 ここでディカプリオが演じたのは、ジャンゴとシュルツが狙う大農園の暴君カルビン・キャンディ。黒人を人とも思わない人種差別主義者の非道徳ヤローで、父や祖父らが広げてきた大農園をそっくり受け継いだ言わばナチュラル・ボーンなボンボンだ。ディカプリオ史上初の悪役と話題になっているのだが、時折“意外と話の分かる男”な顔を見せてみたり、子供の頃からの世話係である黒人執事スティーブン(サミュエル・L・ジャクソンが好演!)に対してはお子様モードで頭が上がらなかったりと、これがなかなかチャーミング。だからこそ残虐キャンディにギアチェンジする境界が曖昧で、これを狙って演じているとしたら「さすが!」の怪演なのである。
「キャンディという役は、当時の南部の道徳的な腐敗を象徴するようなキャラクターなんだ。憎むべき人物だからこそ、やりたいと思った。誰かの理想に合わせたり、相手の気持ちを考えなくていい。ただ自己中心的に、自己陶酔してその時の感情で演技できるから、開放感と自由を感じて演じることができた」と、このキャラクターを楽しんだ様子のレオ。『シャッター アイランド』や『インセプション』、『J・エドガー』など、このところ常に眉間に皺を刻んで苦悩する男の役ばかり好んで演じていたように見える彼だが、確かに『ジャンゴ』のキャンディ役は伸び伸びしていて良い。(かねて将来はジャック・ニコルソンやフィリップ・シーモア・ホフマンのような超がつく個性派&キワモノ路線を目指したほうが、案外するっとオスカーが獲れたりするのでは?と勝手な未来像を想像していた筆者は、その思いを強くしたのだった)

『ジャンゴ 繋がれざる者』より

 ディカプリオ自身が出演を熱望しただけに、「タランティーノ監督には、かなり早い段階でキャンディという人物についてアイディアを出した」という。
「キャンディには人種差別や自分の中の偏見を正当化する理由がなければいけないんだけど、そこで僕が提案したのが骨相学なんだ。まるでエセ科学者のように無知でナンセンスな2ページほどのモノローグが続くシーンは気に入っているよ。タランティーノが書いてくれたんだけど、あれは彼の天才の証明だね」
 実はこのシーン、演技に熱の入ったディカプリオがグラスを叩き割ってしまい、その柄が手に刺さってまま、流血した状態で撮影を続けたテイクがそのまま使われている。そのことを質疑応答で触れられると、「あまりこの話をすると自慢のように思われそうでイヤなんだけど、聞かれたので言いますね」とバツの悪そうな表情もちらり。「痛かったけど、このシーンを使ってもらえたら最高!と思ったんだ。血が出てるのも分かったけど、血だらけの手で(ヒロインの)ブルームヒルダの顔を触ったり、包帯で巻く芝居ができたり、俳優としてはハッピーな出来事だったよ」と満足気な表情を浮かべた。

 若い頃から演技派と評されながら、どうもアカデミー賞には縁がないディカプリオだが、先日『リンカーン』で3度目の主演男優賞に輝いたダニエル・デイ=ルイスとの不思議なエピソードも語ってくれた。
 デイ=ルイス本人が「リンカーンを演じることを後押ししてくれたのはレオ」だと話していたという記者に対し、「夢の中でリンカーンに会ったんだ。でも、近づいていったらそれはダニエル・デイ=ルイスが扮したリンカーンだった」とちょっとスピリチュアルな体験談を披露。「きっと彼は役に入り込んでいるだろうから、声をかけないほうがいいと思って立ち去る、という夢たっだんだよ。その話を彼にしたんだけど、それで僕が後押ししたと言ってくれてるのかもしれないね」
 実はディカプリオ、「昼寝をした時にちょっとしたアイディアが生まれたり、夢から色々考えることがある」のだとか。「ふとマーティン・スコセッシと仕事している夢をみて、それを彼に話したことから幸いにも実現した作品が『ザ・ウルフ・オブ・ウォールストリート』なんだ」と、今秋全米公開予定の待機作が、意外にも“夢”が一役買った企画であることも明かした。

 ディカプリオといえば、ここ最近話題になっていたのが「俳優休業」の噂。やはりこの会見の最後に、その真偽を問う質問が出た。ドイツの新聞取材に「長い長い休みをとることにした」と語ったとして報じられた内容が翻訳、転載を経て「休業」と伝えられたとあって、そもそも信憑性は感じられなかった噂だが、「ちょっと休憩したいと言っただけだよ。大好きな俳優業をやめるつもりはない」と本人の口できっぱりと否定。次回作についても「今はまだ何も決まっていないけど、色々探してはいるから、何かいいプロジェクトがあればとは思っている」とのこと。これでファンは一安心?それまでの間は、熱心に取り組んでいる環境保護問題やチャリティー活動に力を入れたいそう。10代の頃から環境問題に興味があると発言していたが、こうした活動に情熱を注ぐ理由について、「そうした活動をすることで、非常に良い意味の時間の使い方ができるから。自分にとって意義あること」だとも吐露。“パーティ好き”や“問題児”という言われ方もされてきたが、幼い頃からハリウッドの荒波に揉まれ、栄光と転落を間近で目にしてきたからこその、自分を見失わない術。『タイタニック』という“名声の氷山”にも沈まなかったレオナルド・ディカプリオ。彼の映画スター人生は沈まないと感じた会見でもあった。

『ジャンゴ 繋がれざる者』は丸の内ピカデリーほか全国にて公開中
オフィシャルサイト http://www.sonypictures.jp/movies/djangounchained/

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